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第一章:神聖リディシア王国襲撃編

第一試験【勇気の試練】

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門の先--そこは広大な面積を兼ね備えた闘技場の中だった。何百、いや何千人入るのではないのかという位に沢山の観客席があり、上を見あげれば朝を示す【ムルクスの太陽】が浮かび、満天の青空がある。

「・・・ここは?」

私は、周囲の光景に小さく呟く。

「ふむ。ここは--僕の国にある闘技場と似ているが、造りが違う。という事は、審判神エルケイスが作った特殊な闘技場か。なるほど、面白い」

突然、背後から淡々とした声が聞こえた。思わず、ビックリし背後に振り返る。

「・・・あ」

「ん? 君は確か--」

白髪に紫紺の瞳をした眼鏡の男性、ミレルさんが、謎の闘技場から意識を離し、私の方を見る。

「あぁ、思い出した。下民のシエラ君だったね」

「・・・え? あ、はい」

初対面の相手に対して、いきなり罵倒を浴びせるなんて、この人とは仲良くなれる気がしない。私は溜息をつき、ミレルさんから距離をとる。

「土の感触に壁の触り心地、そしてこの空気。どれもが本物と変わらない」

ミレルさんは、距離を置いた私を気にすることなく、この場所のいろんな場所に触れたりしてブツブツと呟いている。それにしても勇者が私以外にもいたなんて知らなかった。

「なぁ、ここってエルケイス様が創った空間の中ってことでいんだよな?」

「私に聞かないで」

「んだよ、愛想のない奴だなぁ」

「余計なお世話」

私とミレルさんより早く門をくぐっていたユンゲルさんとキリカさんが、対面にある門(普段は闘士が入場の際に利用する)の片方から出てきた。恐らく、闘技場の中を探索でもしていたのだろう。

「お?えーと、うーん」

「・・・ミレル・トランバレトと、シエラ・プルーティア」

「そう!そう!ミレルとシエラだ!」

「他の勇者の名前くらい覚えてなさいよ」

私とミレルに気づいたユンゲルとキリカさんがこちらへとやってきた。

「いやぁ、門の中入ったあと、俺しか最初いなくてよぉ。心細かったんだけど、その後にこいつが来てさ」

「こいつじゃない。 キリカ」

「細かいことは気にすんなって」

ユンゲルさんはそう言って、キリカさんの背中を叩く。なんというかこの二人も馬が合わなそうだ。

『はーい、静粛に!!』

突然、パンっと音がなり、男性と女性の声が同時に聞こえた。私達はそちらへと振り返るとそこには--

『勇者(仮)御一行様!わたくしは、エルケイス様のめいにより、第一試験【勇気の試練】の審査員を任せられました【ゼノ】でございます。どうぞ、お見知り置きを』

自分をゼノと名乗る、黒いスーツに身を包み、左半分が男で右半分が女の顔をした人物がいた。
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