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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
【小さな太陽】 ユルゲン・アステイラ ④
しおりを挟む一瞬、何が起きたか分からなかった。俺の視界に映るクソ親父が赤い液体に染まった顔を楽しそうに歪ませている。時が止まるような感覚。なんで笑っているのか…理解出来ない。 数秒遅れて、ボトっと地面に何かが落ちた。それは人の腕に見えた。見覚えのある腕に見えた。
この腕は--
「・・ぐ・・・ぁぁぁぁぁ!?」
激痛。俺の右腕を風が撫ぜる度に激痛が走る。まるで剥き出しになった肉に指を突っ込まれる感覚。声にならない苦鳴が、自身の喉を裂かんとばかりに発せられる。
「腕を切り落とされる気分はどうだ? 頼りにしていたその右腕を失った気分はどうだ?馬鹿息子?」
そう言って笑うクソ親父は地面に落ちた俺の右腕を拾い、見せびらかすように乱雑に振った。その右腕は生きていない。死んだ。ただブラブラと揺れるだけの腕の形をした死肉。俺が有する最強の武器を失った。もうクソ親父に抗う事は出来ない。何もかも終わった。俺はスタートラインにも立てず終わった。
「は、はは・・・。終わった、全部」
俺は力を込めて支えていた両足の力を抜き、膝立ちの体勢で絶望した表情と声音で笑う。自分を嗤う。
「なにが、国民を救うだよ…。なにが、クソ親父を倒す、だ…。 最初から自分は分かってただろ。自分はヒーローになんて向いてないって。ただ綺麗事並べて、正義の味方面したいだけのクソみたいな偽善者だってことをよ」
むかしからそうだった。口だけは達者で、行動に移せない。ただ、頼られたかった。兄達より劣る自分が嫌で、正義の仮面を被っていた。お伽噺に出てくる英雄に憧れて、英雄の真似をしていた。不完全な自分を隠す為に、英雄を模していただけの、何も無い自分。全く惨めで情けない。
「おいおい、無駄な足掻きはやめたのか?馬鹿息子」
切断した俺の右腕を地面に捨てて、クソ親父は尋ねてくる。それに対し、俺は返事を返さない。面倒臭いとかそんなのじゃない。 ただなんて返せばいいのかわからないのだ。
「・・・はぁ。だんまりかよ。もういいや」
そう呆れた言葉を零し、クソ親父は俺の元へと近づいてくる。やがて、お互いに手の触れ合う距離になる。
「・・・」
「なぁ、馬鹿息子。最期くらい、命乞いしろよ。俺は一方的に泣いてる奴を殺してえんじゃねえ。命乞いしてる弱者をぶっ殺すのが楽しいんだよ! 今のお前は、俺が殺してきたやつの中で一番、醜い顔してるぜ」
クソ親父の大きな手のひらが、俺の頭を鷲掴みにする。果実を潰すかのように力が込められる。頭蓋から軋むような音が鳴り響く。でも、俺は命乞いも抵抗もしない。早く殺してくれとばかりに無抵抗の意思を見せる。
「ほんとに残念だよ、馬鹿息子」
その一言と共に頭を掴む手に更に力が込められた瞬間、
『はい、ストーップ!』
ゼノの制止の声が響き、クソ親父の姿が消滅した。
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