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第一章:神聖リディシア王国襲撃編
片羽は失われて
しおりを挟む再び始まった激闘の幕。拳風と結晶がぶつかり合い、火花を散らす。城の壁は砕け散り、夜を告げる【ライラスの月】が彼らの戦いを眺めている。試練が始まり襲撃が起こってからもう一日が終わろうとしていた。未だ城各地での戦いの音はやんでいない。静かな夜が訪れることはなく、この戦いが終わるのがいつかも誰一人分からない。
もしもこの戦いが終わるとすれば、防衛側か襲撃者側の死をもってだろう。
「--神剣【月穿】・【神解】
いちど距離を取ったユルゲンが何かを唱える。すると彼の片腕を覆っていた【月穿】が輝き、ユルゲンの身体を覆い始める。そして徐々に輝きが消え、それと変わるように人影が現れる。否、それは人ではなく神に等しい美しさと神々しさを持った存在。
「神装【聖輝陽月】」
そう告げるのは、両腕の手のひらに小さな【ライラスの月】と【ムルクスの太陽】を浮かばせ、背中には日輪を携えたユルゲンだ。
神剣【月穿】を神核に変化させ、自身の魂と結合させることで可能となる神装。本来であれば、直ぐに発動できるものでは無い。しかし、ユルゲンはやってのけた。いとも容易く。元々、彼には4人の中でいちばんの強さがある。心ではなく力の強さ。そもそも【英雄芽】は勇者によって求められている強さは違う。例えば、シエラ・プルーティアの場合は心の強さ。 という訳で、ユルゲンに求められる強さは力。だから【英雄芽】はそれに応えた。
「ふふふっ。なんて憎らしい程の輝き…目障りだわ」
「きゃははは♪ すっごーくウザ~イ」
闇にとってはとてつもなく憎らしい光を見て、セリナとセリアは片手を前に突きだす。そして--
「「光を喰らう闇は全てを蹂躙する。【結華晶・『乱』】」」
二人の手のひらから竜巻のように吹き出たのは無数の蝶。妖しく美しい蝶の群れ。ソレは円を描くように回りながらユルゲンへと向かう。回転する度に闇が濃くなり、触れた空気が、地面が、死んでいく。 それを前にユルゲンは息を吸ったあと、片方の手のひらに浮かぶ【ムルクスの太陽】を握り、その拳を構える。
「【陽穿千撃拳】」
刹那、蝶の群れがおびただしい黒い闇を撒き散らしながら消し飛んだ。たったの一撃の様に見えなくもないが、彼はわずかな瞬間で千もの拳を放っていた。そして続けて、
「【陽月爆焔崩拳】」
【ライラスの月】と【ムルクスの太陽】の力を結合させた一撃を放つ。月の輝きと太陽の熱が組み合わさり生み出される熱輝は全てを燃やし尽くすと言われ、【陽月鳳玄神】の神陽と神月の力だという言い伝えが存在する。本来であれば、【陽月鳳玄神】はそう簡単に契約を交わすことは無い。しかし、ユルゲンの『全てを守る強い力』を追い求めるその執念を認め、神剣に宿り眠っていた【陽月鳳玄神】は己の神技を与えたのだ。
廊下に収まりきらないほどの炎が螺旋状に放たれるが、床が、壁が、燃えることは無い。何故ならば、【陽月鳳玄神】が扱う炎は【神炎】と呼ばれ、『悪しき者を燃やし、善なる者を守る炎』だと言われているからだ。だからこそ、【呪双悪娘】の様な悪しき者には効果的である。
「ふっ、こんなもの」
「姉様と私にかかれば、余裕なんだから!」
セリナとセリアは手を繋ぎ、空いている方の手を前に突き出し、蝶の群れで構築された障壁で【陽月爆焔崩拳】を防ぎにかかる。しかし、ユルゲンの一撃は止まることもせず、蝶の群れを燃やしていく。勢いの止まらない炎がセリナとセリアを燃やし尽くしまいと迫る。やがて、その炎が2人に触れる瞬間、
「どきなさい、セリア!」
「--っ!?」
セリナがセリアの手を振り解き、風圧で吹き飛ばした。そして、
「もう一緒にいれなくて…ごめんなさい」
そう一言呟いた後、セリナの全身を【神炎】が呑み込んだ。
「・・・ねぇ…さま?」
目の前で炎に炙られる姉を見て、途切れたような声が漏れる。頭に伝わる現実を拒み、未だ理解ができないセリア。強くて美しくて愛しの姉が…炎で…しかもたかが人間如きの炎で焼かれている。こんなこと信じられるわけがないと、セリアは首を左右に振る。きっとこれは悪い夢で、本当は姉様は死んでいない。そうに違いない。
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「私はどうしたらいいの…姉様?」
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