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第2章 王都リグナル
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しおりを挟む王宮に住まわせてもらってから、ひと月が経った。
最近では、早朝のアルバート王とナツメさんとエイブと僕の剣術のお稽古が日課になっている。
体が鈍ると嫌だと思い、エイブにお願いして、早朝に相手をしてもらっていたところをアルバート王に見つかり、こんなことになった。
素振りをした後に、2人1組になって試合をする。僕については、誰と当たっても稽古をつけてもらう側だ。
カキン、カキン、という剣同士がぶつかる音を聞きながら目の前のナツメさんの動きから目を離さないようにするが、本気のナツメさんには防戦一方。流石騎士。強いこと強いこと。
終いには、カンとさらに大きな音で僕の握った剣を弾かれ、剣が宙をまう。僕はその反動で、無様にも、後ろへ尻餅をつき、ナツメさんに剣の切っ先を突きつけられた。
僕は胸が上下するほどの荒い呼吸をしているというのに、ナツメさんは汗一つかいていない、涼しい顔をしている。
ナツメさんは変態辺境伯の屋敷で兵士の格好をしていた人だ。赤茶の短い髪と長身、細いのにしっかりついた筋肉が男としては憧れるものがある。黙っていると少し近寄りがたい厳しそうなイメージだけど、喋るととても気さくな人だ。
「いやー、ハルは筋がいいね。もうこんなに受けれるようになったなんて。」
きらりと茶色い瞳を光らせたかと思ったら、すぐににこりと笑って、剣を納め、僕に手を差し伸べる。
その佇まいはとても紳士的で、きっと、女性にモテることだろう。
「ハルは努力家なのです、ナツメ様。ハルの毎日の生活と言ったら、勉強か剣の稽古か、という修行僧のような、」
「もう、エイブ!恥ずかしいからやめて!」
いつものようにナツメさんやアルバート王に向かって熱く語り出すエイブの口を覆って、ストップをかける。
エイブに僕を語らせると、話が十倍にも百倍にも膨れ上がる。恥ずかしいからやめてほしい。
「ハハハ、仲良くなったようで結構結構。今日は街に出るんだったか?」
ナツメさんの物言いが完全に田舎の老師のようだ。
「はい。エイブが王都を少し案内してくれるというので、行ってきます。」
「…髪は隠して行ったほうがいい。王都にも大きな教会がある。あまり目立たないほうがいいだろう。」
アルバート王が結った僕の金色の髪を撫でて言う。アルバート王は口数が多い方ではないが、いつも僕のことを気にかけてくれている。とてもありがたい。
「はい。ローブのフードをかぶって出かける予定です。」
「ああ、気をつけて行ってこい。」
アルバート王が僕の頭を何度かポンポンと叩く。僕は、はい、と返事をして、アルバート王を見上げる。アルバート王はナツメさんよりは背が低いが、それでも背は高い方だと思う。
見上げて笑顔を向ければ、アルバート王も満足そうに笑った。
「お土産、皆さんに買ってきますね。」
と言っても、お小遣いをくれるのはアルバート王やナツメさんである。
数日前に王宮に商人が来ていた時も、今日来るから行ってこいと、アルバート王にお小遣いを貰い、ばったり会ったナツメさんに今来てるからとお小遣いをもらい、ちょうど商人といたリオさんに何か買うと良いとお小遣いを貰ったのだ。
その時の余ったお金で、今日の買い物はするつもりだ。
「そんなものはいい。これで何か、2人で旨いものでも食べろ。」
そう言ってアルバート王は、懐から小銭入れを出して、僕の手に握らせる。僕はびっくりして、アルバート王にその袋を突き返す。
「でも、この間もらった分もまだ残っています。」
「それはそれ、これはこれだ。」
僕が突き返した手を上から覆うように握って僕の方へと押しやる。僕が納得をいかない顔をしていると、ナツメさんとエイブの声も聞こえてきた。
「ほら、お前にもやる。2人で楽しんでこい。」
「ナツメ様、ありがとうございます!」
年相応にお小遣いに喜んでいるエイブは珍しく無邪気な笑顔だった。
エイブがナツメさんに遠慮なく甘えられるのは、エイブが生まれた時から、ナツメさんはエイブのことを知っていて、可愛がっていたからだ。
それを羨ましいと思うのだけれど、僕なんかが同じようにしたら、迷惑になってしまうんではないかと考えてしまう。
「子供は、子供と言う理由だけで無条件で大人を頼って良い。」
僕の頭に手を乗せてアルバート王が言った。
その手のせいで、僕はアルバート王を見ることができなかったけど、それでよかった。
僕はきっと、酷い顔をしていたに違いない。
僕はアルバート王にもらった小銭入れを胸にギュッと抱いた。
「ありがとう、ございます。」
喉がツンと痛む中、辛うじてそれだけ言えたのだ。
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