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第2章 王都リグナル
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しおりを挟む「この辺りは、いわゆる、貴族街ってやつかな。品の良い家と平均よりはるかに価値の高い商品を売る店が並んでる。」
僕は馬車の中から小窓に張り付いて流れる景色を見ていた。
僕が生きていた時代より明らかに整備された街並みは芸術的な飾り付けもされていてとても綺麗だった。
新リーフレンド王国王都リグナルは中心に王城がある。その周りを貴族街が囲み、さらにその周りを一般の住宅街が囲む。放射状に広がった都市だ。
長い歴史の中で水路などの整備がしっかりされており、国の豊かさが窺える。
「綺麗な街だね。」
そう言うと、エイブはにこりと笑って答えてくれた。
「今日俺たちが行くのは貴族街の向こうの市民が住む街だよ。今はちょうど冬が終わって暖かくなった時期だから、屋台とかたくさん出てるんだ。」
「春になると、街が賑わう?」
「そう。今まで、雪で王都まで出て来られなかった地方の人たちが出稼ぎに来るんだ。美味しいミルクや串焼きが食べられるから、俺のおすすめ。」
悪戯っ子のように笑うエイブはどうやらよく市井へと出ているようだ。
貴族街と市井を分ける門を潜ると、品のある落ち着いた雰囲気だった街並みが賑やかな活気のある雰囲気へとガラリと変わる。
馬車の中から外を覗くと、道の両脇には様々な店が並んでいる。
「この辺りで馬車を降りよう。この先は道が狭いから。馬車は不便だし、目立ってしまう。」
そう言われて、エイブは馬車から降りると、僕に手を差し伸べた。
僕は貴族のご令嬢じゃないから、そんなの必要ないのにな、と少し不満に思いつつ手を借りずに降りようとしたら、無理やり掴まれた。
最近、エイブとはこの手の無言の攻防が盛んに行われる。
僕とエイブは後ろに私服を身に纏った騎士を2人連れて街へと足を踏み入れた。
◇
「見て、エイブ!これ、りんご?りんごがまるまる刺さってる!」
「それはりんご飴。ねえ、ハル…まだ食べるの?さっきから、いくつ目?もう俺、お腹いっぱいかなーって。」
「え?なんて?」
「いや、うん。美味しそうだね。」
僕は見たこともないような食べ物たちに心躍らせながら思っていたよりもずっと安いりんご飴というやつを店のおじさんから受け取る。
こんな宝石みたいな綺麗な食べ物が子供のお小遣いで帰るだなんて、すごすぎる。
そう。僕は、初めての市井、もとい初めての買い物にありえないくらい興奮していたのだ。
ふらふらと何処かへ行ってしまわないよう、エイブに手を握られているくらいには。
キラキラと輝くりんご飴を片手に僕は機嫌良く、街の周りを見る。
エイブはそんな僕の手を呆れたように笑いながら握り直した。少しだけ、元の、1000年前の、兄のことを思い出した。
それを振り払おうと、ひとつ首を横に振り広場へと目を向けると、広場では楽師たちが美しい音を奏で、舞子たちが美しい舞を披露していた。
それに夢中になっていると、強めの風が広場を襲った。それにも、楽師と舞子は構わず、美しい舞を続けている。
「ハル!フード!」
見入っていたために風でフードが取れたことに気がつかなかった。
すぐにエイブがフードを被せてくれて、周りを2人でキョロキョロと確認してみても、広場の人たちはみんな舞に夢中で気付いていない様子だ。
そこでやっと、2人でフゥと息をつく。
「よう、お嬢さん。変わった毛色をしてるね。そんなに慌てんでも、女神様の髪の色を嫌うのは教会の人間くらいだよ。」
後ろに立っていたおじさんには見られていたらしく、酒の瓶を片手に大きな笑いで笑い飛ばされた。
そして、そのおじさんが酒を飲んでは笑ってと人混みの中へ消えていくのを見送って、僕とエイブは2人で顔を見合わせて、大きな口を開けて笑った。
王都にはいろんな人がいるようだ。
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