15 / 15
第2章 王都リグナル
6
しおりを挟む助けて、なんて呪縛の言葉だ。
助けられなかった相手を一生縛る。
「はぁ。やっと戻ってきてくれたね。」
ねっとりとした声に目を覚ますと、目の前には見慣れない顔がいた。びっくりして起き上がると、するりと体にかかっていたシーツが落ちた。ベッドの上に寝かされていたらしい。
僕は薄手の半分透けたネグリジェを着せられていた。自由に動く体に少しだけ安心するも、目の前の男の余裕綽々な笑みに少し不安が増す。
「あんた、誰?」
僕が声を発すると、男は起き上がった。
「ああ、さっきは他の人の顔を借りていたんだ。俺はジェント。君の主人だ。」
ジェントと名乗った男はゆるく波打った黒の髪に垂れた瞳と泣きぼくろが印象的な美形の男で、どう見ても、僕をあの店から連れてきた男とは別人だ。ただ一つ、彼があの男だと認識できる要素は声が同じということだけ。
「僕はお前のことなど知らないし、ましてや主人と認めた覚えもない。」
ジェントが僕に伸ばした手を払ってベッドから降りようと後ずさる。
「そうだね。でも残念。さっきので分からなかったかな?君はもう、俺の命令には背けないんだよ。」
先ほどの雑貨屋での出来事を思い出して、ヒヤリとする。恐ろしくて、でも悔しくて、下唇を噛み締めた。
ベッドから降りて扉の方へ向かおうとすると、首元のあの陣がまたもや鈍く光を放ち、僕は腰が抜けるように床へとへたり込んだ。
まだ、自由に動く上半身を捻って、ベッドの上のジェントを睨みあげる。
「僕を、王宮へ戻せ。僕にはやらなければならないことがあるんだ。」
僕がそう言えば、ジェントは冷ややかに笑った。
「それは本当にできること?紛い物の君が?いや、完全な紛い物ではないのか。」
「何が言いたい。」
「隷属魔法っていうのはね、人の体に陣を刻む。つまり、その相手の魂を隷属するということだ。だから、君の考えていることは全て俺に筒抜けってこと。」
僕は目を見開いて首の魔法陣に触れた。なんとか消せないかと掌で擦ってみるが、自分では取れているのかどうかなんて分かるはずもない。
それを見てジェントは嘲笑うような顔をする。
「不安だよね。自分が生きていた世界とは全く違う世界に連れてこられてさ。知ってる?君がこの世界に来た時、君、瀕死の状態だったんだよ。」
ジェントがベッドから降りて、僕の元へ来る。それに体をびくりと反応させてしまう。どんなひどい扱いを受けるのだろう。
そう思っていたが、意外にもジェントは薄いブランケットを僕の肩にかけて僕を縦に抱き上げた。最近、こんな子供扱いが多い。
「お、降ろせ。僕は歩ける。」
この男の思い通りになっていることが嫌で、手で胸を押す。
「君は歩けないよ、俺がそうしてるんだから。少し話をしよう。君についての話だ。知りたいだろう?」
僕についての、話。
この世界に連れてこられた僕の真実を、僕は図書館に通いながら調べて考えていた。
大人しくなった僕を連れて、ジェントは隣の部屋へ移り、ソファに僕を抱いたまま腰掛けた。必然的に、僕はジェントの膝の上に横向きに座る形になる。別に、この体勢じゃなくたっていいじゃないか。ジェントのいう通り、足が動かないのが悔しい。
「僕についての話って、何?」
僕の問いにジェントは満足気に笑った。屈辱だ。この男に、掌で転がされている。
それでも、そうせざるを得ない。
「まずは、俺が君を見つけたときの話からしようか。」
10
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
はじめまして!
ものすごーく好きなお話です!まだまだ分からないこと多いので続きが楽しみです😆