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第一章 言えなかった、ひとこと
わかんない、でも聞いてほしかった
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その夜。
リビングの時計が22時を回ったころ、憧子は思い切って姉の部屋のドアをノックした。
「ねぇ、おねぇちゃん。ちょっと相談、していい?」
「ん? なに、恋バナ?」
ベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた桜子が、ニヤッと笑う。
「ちがっ……いや、そうかも……」
「え~まじ?あこの口からそんなセリフ聞く日がくるとは」
桜子はむくっと起き上がって、ベッドの端をぽんぽん叩いた。
「ほら、座りなよ」
憧子は少しだけ間を置いてから、そっと腰を下ろす。
「……あのさ、幼なじみの男の子がいて。航太って言うんだけど」
「うん、知ってる。あこの小さい頃からのアイツでしょ。なんか顔イケメンになったよね」
「……で、その子と夏期講習一緒で。そしたら、他校の女の子に『好き?』って聞かれて……」
憧子は、今日あったことをぽつぽつと話し始めた。
陽菜のこと、「協力してね」と言われたこと、自分が「うん」と答えてしまったこと。
話し終わるころには、目の奥が少し熱くなっていた。
桜子は、しばらく何も言わずに聞いていたけど――
やがて、軽く肩をすくめて言った。
「うーん、それはね、あんたさ……たぶん、恋してるよ」
「……え」
「だって、好きじゃなきゃ、そんなにモヤモヤしないし、こんな時間に相談来ないよ。あこの中じゃ、もう答え出てるってこと」
「……でも、言えなかったんだもん。協力するとか言っちゃったし……」
「うん。それはわかるよ。陽菜ちゃん、悪い子じゃなさそうだし、なんか強引でもなかったんでしょ?」
憧子は、こくりと頷く。
「じゃあさ、別に今すぐどうこうしなくてもいいと思う。ただ、自分の気持ちに嘘だけはつかないでね。好きって思っちゃったなら、それはもう、“あこの大事な気持ち”なんだから」
「……大事な気持ち」
「そう。あたしも昔、友達に譲っちゃったことあったけど、後悔したもん。あんたには、ちゃんと自分の気持ちを認めてほしいなって思う」
「……」
「あと、言いたいこと言えないなら、それなりに覚悟もしなよ? 目の前でくっついちゃっても文句言えないんだからね~?」
「うぅ……言わないでよ、それ」
ふたりで笑いあったあと、桜子がそっと憧子の頭を撫でる。
「泣きたいときは、ちゃんと泣きなよ。そしたらまた、前に進めるから」
姉の部屋を出る頃には、胸の奥の重たいものが、ほんの少しだけ軽くなっていた。
リビングの時計が22時を回ったころ、憧子は思い切って姉の部屋のドアをノックした。
「ねぇ、おねぇちゃん。ちょっと相談、していい?」
「ん? なに、恋バナ?」
ベッドに寝転がりながらスマホをいじっていた桜子が、ニヤッと笑う。
「ちがっ……いや、そうかも……」
「え~まじ?あこの口からそんなセリフ聞く日がくるとは」
桜子はむくっと起き上がって、ベッドの端をぽんぽん叩いた。
「ほら、座りなよ」
憧子は少しだけ間を置いてから、そっと腰を下ろす。
「……あのさ、幼なじみの男の子がいて。航太って言うんだけど」
「うん、知ってる。あこの小さい頃からのアイツでしょ。なんか顔イケメンになったよね」
「……で、その子と夏期講習一緒で。そしたら、他校の女の子に『好き?』って聞かれて……」
憧子は、今日あったことをぽつぽつと話し始めた。
陽菜のこと、「協力してね」と言われたこと、自分が「うん」と答えてしまったこと。
話し終わるころには、目の奥が少し熱くなっていた。
桜子は、しばらく何も言わずに聞いていたけど――
やがて、軽く肩をすくめて言った。
「うーん、それはね、あんたさ……たぶん、恋してるよ」
「……え」
「だって、好きじゃなきゃ、そんなにモヤモヤしないし、こんな時間に相談来ないよ。あこの中じゃ、もう答え出てるってこと」
「……でも、言えなかったんだもん。協力するとか言っちゃったし……」
「うん。それはわかるよ。陽菜ちゃん、悪い子じゃなさそうだし、なんか強引でもなかったんでしょ?」
憧子は、こくりと頷く。
「じゃあさ、別に今すぐどうこうしなくてもいいと思う。ただ、自分の気持ちに嘘だけはつかないでね。好きって思っちゃったなら、それはもう、“あこの大事な気持ち”なんだから」
「……大事な気持ち」
「そう。あたしも昔、友達に譲っちゃったことあったけど、後悔したもん。あんたには、ちゃんと自分の気持ちを認めてほしいなって思う」
「……」
「あと、言いたいこと言えないなら、それなりに覚悟もしなよ? 目の前でくっついちゃっても文句言えないんだからね~?」
「うぅ……言わないでよ、それ」
ふたりで笑いあったあと、桜子がそっと憧子の頭を撫でる。
「泣きたいときは、ちゃんと泣きなよ。そしたらまた、前に進めるから」
姉の部屋を出る頃には、胸の奥の重たいものが、ほんの少しだけ軽くなっていた。
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