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第一章 言えなかった、ひとこと
花火の下、笑えない夜
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夏祭りの数日前。
夏期講習の帰り道、陽菜が憧子の隣にぴょんと並んだ。
「ねえ、今度お祭りあるでしょ? 」
陽菜は風に揺れるポニーテールを揺らしながら、笑顔で話しかけてきた。
「うん、毎年けっこう人多いよ」
「そっか、じゃあさ!一緒に行こうよ、憧子ちゃんも。で、航太くんも誘って! あたしね、男友達連れてくから、ちょうどいいかなって」
「えっ……?」
陽菜はくるりと前を歩く航太を見て、にっこり。
「なんか、ダブルデートっぽくて楽しそうじゃない?」
その言葉に、憧子の胸がきゅっと縮まった。
──ダブル、デート。
その響きが、頭の奥に残ったまま、返事ができなかった。
けど、陽菜は気づかないまま、明るく続ける。
「浴衣ももう買ったし! 髪も美容室でセットしてもらう予定なの~。憧子ちゃんも着てきてよ、絶対かわいいって!」
「……うん。わかった」
気づけば、また「うん」と言っていた。
言いたいことは、喉の奥でつっかえたまま。
祭り当日。
憧子は、タンスの奥から取り出した薄桃色の浴衣に袖を通した。
母が嬉しそうに帯を結びながら、「こたくん、びっくりするわよ」なんて言っていたけど、胸は重かった。
待ち合わせ場所に行くと、陽菜はすでに浴衣姿で立っていた。
紺地にひまわりの模様。明るくて、華やかで、よく似合ってる。
その隣にいたのは、陽菜の友達という背の高い男の子と――
航太だった。
白い甚平に、照れくさそうな笑顔。
「わ、憧子。浴衣、似合ってんじゃん」
その言葉だけで、心臓が跳ねた。
けど、横に立つ陽菜の笑顔が、それを飲みこんだ。
「じゃあ、行こっかー!」
祭りの屋台の光が、にぎやかに夜を照らす。
焼きそば、金魚すくい、りんご飴。
陽菜と航太は、楽しそうに並んで笑いあっていた。
憧子は、ずっと笑っていた。
顔では、笑えていた。
けれど心は――
ひとつも、笑っていなかった。
花火が夜空に大きく開いたとき。
その音のなかに、憧子の「言えなかった気持ち」が、そっとかき消されていくような気がした。
夏期講習の帰り道、陽菜が憧子の隣にぴょんと並んだ。
「ねえ、今度お祭りあるでしょ? 」
陽菜は風に揺れるポニーテールを揺らしながら、笑顔で話しかけてきた。
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「そっか、じゃあさ!一緒に行こうよ、憧子ちゃんも。で、航太くんも誘って! あたしね、男友達連れてくから、ちょうどいいかなって」
「えっ……?」
陽菜はくるりと前を歩く航太を見て、にっこり。
「なんか、ダブルデートっぽくて楽しそうじゃない?」
その言葉に、憧子の胸がきゅっと縮まった。
──ダブル、デート。
その響きが、頭の奥に残ったまま、返事ができなかった。
けど、陽菜は気づかないまま、明るく続ける。
「浴衣ももう買ったし! 髪も美容室でセットしてもらう予定なの~。憧子ちゃんも着てきてよ、絶対かわいいって!」
「……うん。わかった」
気づけば、また「うん」と言っていた。
言いたいことは、喉の奥でつっかえたまま。
祭り当日。
憧子は、タンスの奥から取り出した薄桃色の浴衣に袖を通した。
母が嬉しそうに帯を結びながら、「こたくん、びっくりするわよ」なんて言っていたけど、胸は重かった。
待ち合わせ場所に行くと、陽菜はすでに浴衣姿で立っていた。
紺地にひまわりの模様。明るくて、華やかで、よく似合ってる。
その隣にいたのは、陽菜の友達という背の高い男の子と――
航太だった。
白い甚平に、照れくさそうな笑顔。
「わ、憧子。浴衣、似合ってんじゃん」
その言葉だけで、心臓が跳ねた。
けど、横に立つ陽菜の笑顔が、それを飲みこんだ。
「じゃあ、行こっかー!」
祭りの屋台の光が、にぎやかに夜を照らす。
焼きそば、金魚すくい、りんご飴。
陽菜と航太は、楽しそうに並んで笑いあっていた。
憧子は、ずっと笑っていた。
顔では、笑えていた。
けれど心は――
ひとつも、笑っていなかった。
花火が夜空に大きく開いたとき。
その音のなかに、憧子の「言えなかった気持ち」が、そっとかき消されていくような気がした。
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