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第一章 言えなかった、ひとこと
勇気の一歩、手前で
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夏期講習、最終日。
教室の窓から差し込む夏の光が、いつもよりやさしく感じた。
今日はもう、プリントもない。
黒板には「おつかれさまでした!」と書かれていて、先生もどこか寂しそうな顔で手を振った。
講習が終わったあと、憧子は教室を出ようとして、廊下で陽菜に呼び止められた。
「憧子ちゃん、ちょっといい?」
「うん」
陽菜は少しだけ遠くを見つめるようにして、口を開いた。
「……さっき、航太くんと話したの。もう、なかなか会う時間も少なくなるし、お互い、ちゃんと気持ち整理しようって」
「え……」
「私たち、お別れしたの」
陽菜の声は静かだったけど、そこに涙はなかった。
その代わり、憧子のほうが胸を締めつけられるような気持ちだった。
「……ごめん」
「ちがうよ、謝らないで」
陽菜は小さく笑った。
「わたしね、ちょっとズルかったのかも。最初から、航太くんの心が全部はこっちを向いてないって、気づいてた。でも、初恋だったから……少しくらい夢見てもいいって思ってた」
「……」
「だから今度は、憧子ちゃんの番。勇気出して。ほんとの気持ち、ちゃんと伝えて。後悔しないように」
憧子の目に、涙がにじんだ。
陽菜はそっとその肩をポン、と叩いて、明るく言った。
「じゃ、わたしは先に帰るね。……二人のこと、こっそり見守ってるから」
そう言って歩き出した陽菜の背中が、強くて、きれいだった。
***
そのあと、教室の裏側にある小さな中庭で、憧子は航太とふたりきりになった。
「なあ、憧子」
「……なに?」
「最近、ずっと避けてただろ。わかってたけど、あえて聞かなかった。でももう、ちゃんと聞く。……あこは、俺のこと、どう思ってる?」
一瞬、時間が止まったようだった。
蝉の声、遠くで響く風鈴の音。すべてが背景になっていく。
憧子は、小さく息を吸って、言葉を探した。
でもそのとき、ふたりの背後から、小さな気配があった。
ふと振り返ると、陽菜が遠くからそっとこちらを見ていた。
気づいてるかどうかわからないくらい、静かに――でも、やさしい目で。
憧子は、もう一度、航太のほうを見た。
そして――
(つづく)
教室の窓から差し込む夏の光が、いつもよりやさしく感じた。
今日はもう、プリントもない。
黒板には「おつかれさまでした!」と書かれていて、先生もどこか寂しそうな顔で手を振った。
講習が終わったあと、憧子は教室を出ようとして、廊下で陽菜に呼び止められた。
「憧子ちゃん、ちょっといい?」
「うん」
陽菜は少しだけ遠くを見つめるようにして、口を開いた。
「……さっき、航太くんと話したの。もう、なかなか会う時間も少なくなるし、お互い、ちゃんと気持ち整理しようって」
「え……」
「私たち、お別れしたの」
陽菜の声は静かだったけど、そこに涙はなかった。
その代わり、憧子のほうが胸を締めつけられるような気持ちだった。
「……ごめん」
「ちがうよ、謝らないで」
陽菜は小さく笑った。
「わたしね、ちょっとズルかったのかも。最初から、航太くんの心が全部はこっちを向いてないって、気づいてた。でも、初恋だったから……少しくらい夢見てもいいって思ってた」
「……」
「だから今度は、憧子ちゃんの番。勇気出して。ほんとの気持ち、ちゃんと伝えて。後悔しないように」
憧子の目に、涙がにじんだ。
陽菜はそっとその肩をポン、と叩いて、明るく言った。
「じゃ、わたしは先に帰るね。……二人のこと、こっそり見守ってるから」
そう言って歩き出した陽菜の背中が、強くて、きれいだった。
***
そのあと、教室の裏側にある小さな中庭で、憧子は航太とふたりきりになった。
「なあ、憧子」
「……なに?」
「最近、ずっと避けてただろ。わかってたけど、あえて聞かなかった。でももう、ちゃんと聞く。……あこは、俺のこと、どう思ってる?」
一瞬、時間が止まったようだった。
蝉の声、遠くで響く風鈴の音。すべてが背景になっていく。
憧子は、小さく息を吸って、言葉を探した。
でもそのとき、ふたりの背後から、小さな気配があった。
ふと振り返ると、陽菜が遠くからそっとこちらを見ていた。
気づいてるかどうかわからないくらい、静かに――でも、やさしい目で。
憧子は、もう一度、航太のほうを見た。
そして――
(つづく)
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