甘酸っぱい恋の味

月華 澪

文字の大きさ
15 / 89
第二章 すれちがいの、その先に

まっすぐって、まぶしい

しおりを挟む
4月中旬。
部活の仮入部期間も終わり、正式入部が決まったころ。

体育館のバスケコートでは、憧子が初めての練習に汗を流していた。

「はい、パス!」

「……っ!」

憧子は受け取ったボールを素早く返す。
中学では引退していたけど、体が少しずつ思い出してきていた。

ふと、コートの外から視線を感じた。

見ると、和真がグラウンドの帰りらしく、汗だくのユニフォーム姿でこっちを見ていた。

目が合うと、ニッと笑って、親指を立てる。

(……見てたの? ちょっと恥ずかしい……)

でも、なぜだか、うれしかった。

***

放課後。

昇降口で靴を履いていると、和真が声をかけてきた。

「おつかれ、今日のバスケ、かっこよかった」

「えっ、そんなこと……ないよ」

「あるって。ボール運び、すごいスムーズだった」

「ありがとう……」

憧子の心臓が少し速くなる。

「てかさ、俺、LINEまだ聞いてなかったよね?」

「えっ?」

「え、ダメ?」

「ううん……いいよ」

ふたりでスマホを出し合い、QRコードを読み取る。

(……こんな風に誰かと交換するのって、なんか変な感じ)

それでも、和真のまっすぐな目がまぶしくて、画面の中で通知が鳴った瞬間、心が少し跳ねた。

***

そのころ、美術室では。

「……でさ、その和真ってのが、最近よく憧子のとこに来てんだよ」

筆を動かしながら、航太がぽつりと言った。

隣の席の男子が、「へえ~、気になるわそれ」と軽く返す。

「ま、どうでもいいけどな」

(……どうでもよくなんか、ないだろ)

言葉と心が、かみ合わない。

筆先がにじんで、花の色が少し濁った。

***

一方そのころ、音楽室。

「先輩っ、楽譜、これですよね? あ、違いました!? ごめんなさいっ!」

陽菜は部活でも大忙し。
入部早々、本田先輩のいる吹奏楽部に飛び込み、あの手この手で接近中。

「橘さん、落ち着いて」

「はいっ、すみませんっ、でも先輩がかっこよくて……あ、違います、そういう意味じゃ……!」

「そういう意味だよね?」

「はい!」

吹奏楽部の仲間たちに笑われながらも、陽菜はまったくへこたれない。

(恋って、体力勝負!)

なんて思いながら、譜面台を抱えて走っていった。

***

それぞれが、それぞれの場所で。

恋に、部活に、勉強に。

大忙しで、ちょっとだけ切なくて、でもどこか楽しい――そんな、春の始まりだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

処理中です...