甘酸っぱい恋の味

第二章 すれちがいの、その先に

追いかける背中

六月の終わり。
ジリジリと照りつける日差しの下、グラウンドは体育祭の練習でにぎわっていた。

「よーし、次はバトンパス確認いくよー！」

体育教師の掛け声が響く中、リレー選抜メンバーがコースに立つ。
憧子と和真も、その列に並んでいた。

「憧子、バトン受ける時、もう少し手を下げてみ？ 渡しやすくなるから」

「うん、わかった！」

「よし、じゃあ本番想定でいくぞー！」

スタートの合図が鳴り、勢いよく走り出す和真。
コーナーを回って、バトンを持ったその手が――憧子の手へ、まっすぐに伸びた。

「ナイス！」

「うん、いい感じ！」

笑い合うふたりの間には、自然な空気が流れていた。
息がぴったり合っていて、周囲がちょっと羨むほどに。

＊＊＊

その様子を、少し離れた日陰から航太が見ていた。

美術部として、クラスの応援旗を描き終えたばかりで、手にはまだ絵の具のにおいが残っている。

（……また、あいつか）

憧子が笑うときの顔は、なんとなくもう、自分の知っている“あこ”じゃない気がした。

（なにが、筋トレとか……バトンの角度とか……）

口には出さないけれど、顔には思いっきり出ていた。

気に食わない。

わかりやすいくらいに、それが顔に出ていた。

＊＊＊

そんな航太の顔を、陽菜は遠くから見ていた。

「……わかりやす」

体育祭の実行委員として走り回っていた陽菜は、ペンとチェック表を持ったまま、その視線の先にいる「ふたり」を見つめて、そっとため息をついた。

（ふぅん……なるほどね）

あれだけ、何にも気づいてないフリしてたくせに。
いざとなったら、気にしてるんじゃん。

「素直じゃない男って、ほんっと面倒」

そうつぶやいて、陽菜は首にかけた笛をピッと鳴らした。

「はーい！ 実行委員集合、次の打ち合わせいくよーっ！」

大忙しの体育祭準備は続く。

けれど、そんなにぎやかさのなかで――
それぞれの“気持ち”は、誰にも見えないところで、静かに動き始めていた。