甘酸っぱい恋の味

第七章 小さな奇跡と、大きな選択

ちゃんと伝えたい

その日。
陽菜は航太の帰りを待っていた。いつものようにソファに座っていたけど、膝の上の手はぎゅっと握られたまま。心臓の鼓動が早くて、深呼吸を何度しても落ち着かなかった。

「ただいまー」
玄関から航太の声がした。

「おかえり……」

キッチンから顔をのぞかせた陽菜の声は、どこかぎこちなくて、すぐに航太は気づいた。

「ん？どうした？　体調悪い？」

「ううん、そうじゃなくて……」

陽菜はそっと、手に持っていた妊娠検査薬を見せた。

航太は眉をひそめて、それを受け取った。

「これ……」

陽菜は頷いた。

「……妊娠してた。赤ちゃん、できてたの」

航太の目が大きく開かれる。

「……マジで？」

「うん。」

部屋の中が、急に静まり返った。
秒針の音が、やけに耳に響いた。

航太は、何か言おうとしたけれど、言葉が出なかった。陽菜は、そんな彼を見つめながら、少し口を引き結んだ。

「怒ってないよね？ ちゃんと話さなきゃって思ってた。隠す気はなかったし、無理やりじゃなかったし、私……」

「……陽菜」

航太が、ぽつりと口を開いた。

「……ちゃんと、向き合おう。俺、びっくりして、まだ頭がついていかないけど……逃げる気はないよ」

「ほんとに？」

「……俺が逃げたら、陽菜、泣くでしょ」

陽菜の目に、涙が溢れた。

「泣くよ……泣くに決まってるじゃん……」

「じゃあ、泣かせない」

航太は、そっと陽菜を抱きしめた。
彼の胸に顔をうずめながら、陽菜は小さくしゃくりあげる。

「……ありがとう、航太」

「ちゃんと考えよう、二人で。家族になるってこと、ちゃんと」

その言葉が、陽菜の胸に深く響いた。

温かなぬくもりと、決意のこもったその声が、涙でぐしゃぐしゃな心を、少しずつ、溶かしてくれた。