甘酸っぱい恋の味

第七章 小さな奇跡と、大きな選択

家族へ――伝える勇気

診察からの帰り道、陽菜は静かだった。
手をつなぐ指先はあたたかいのに、胸の奥がざわついていた。

「ねえ、航太……うちの親に、今日のこと話そうと思うんだ」
「……そっか。俺も、そうしようと思ってた」

少しの間、沈黙が流れた。
でも、それは不安だけじゃなく、覚悟を育てる時間でもあった。

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夕方。陽菜の実家。

「ねぇ、お父さん、お母さん。ちょっと話があるの」
台所で夕飯の準備をしていた母が、ふと手を止めた。
陽菜の表情が、いつもと違うことに気づいたのだろう。

「どうしたの？元気なかったけど……」
陽菜は深呼吸をして、言葉を絞り出した。

「……あのね、妊娠してることが、わかったの」

一瞬、空気が止まった。
母も父も、驚きに目を見開いた。

「……相手は、航太くん？」
「うん……」

母は何かを言いかけたが、ふと黙って目を閉じた。
そのあと、小さくうなずいた。

「……話してくれて、ありがとう。きちんと考えよう」

父は黙ったまま湯飲みを口に運びながら、小さく「ふぅ」と息を吐いた。

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そのころ、航太の家。

「……お父さん、お母さん。ちょっと、話していい？」
自分の部屋に両親を呼んで、正面に座った航太。

「陽菜が、妊娠しました」
言葉ははっきりしていた。

母は最初、口元に手を当てて驚いたが、すぐに表情を引き締めた。
父もまた、少しだけ視線を下に落としながら、しばらく黙っていた。

「……で、これからどうするつもりだ？」
「俺は、陽菜を守りたい。ちゃんと支えたいと思ってます」

航太のまっすぐな瞳に、父は目を細めて、ひとつうなずいた。

「それなら、逃げずに向き合うことだな。責任は重いぞ」
「はい……覚悟してます」

母は目頭を押さえながら、「陽菜ちゃんにも会いたいね」と小さく言った。

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その夜。
陽菜と航太は、ふたりでビデオ通話をつないだ。

「……話したよ、家族に」
「私も」

「なんか……ほっとした」
「うん。まだこれからだけど、でもちゃんと伝えられてよかった」

画面越しでもわかる陽菜の笑顔に、航太もつられて微笑んだ。

ふたりは、これからの未来に少しずつ向き合いはじめていた。