甘酸っぱい恋の味

月華 澪

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第八章 甘酸っぱい恋の味、永遠に

明日、あなたの隣へ

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春の風が、少しだけ冷たく感じる夜。
結婚式を翌日に控えた憧子は、実家の自分の部屋で、ベッドの上に座っていた。

久しぶりに戻ってきた部屋。
机の上には、中学生のときに書いた落書きノートや、部活で使った古いボールペンがまだ残っていて――どこか懐かしさに包まれる。

「……もう、ここには戻ってこないのかぁ」

呟いた瞬間、ふと扉がノックされた。

『憧子、入っていい?』

『うん、どうぞー』

ゆっくりとドアが開き、入ってきたのは姉の桜子だった。
手には湯飲みを2つ。憧子の横に腰を下ろすと、ふわっと笑った。

『なんだか、しみじみしてたね』

『うん……いろいろ思い出してた』

桜子は湯飲みを差し出しながら、ぽつりと呟いた。

『憧子がさ、小さい頃に言ってたの、覚えてるよ。
“こたくんのおよめさんになる!”って。』

『えっ……なにそれ、懐かしい!』

憧子は思わず笑ってしまったが、少しだけ頬が赤くなった。

『ざくざくってスコップの音がしてさ、真夏の砂場で、お城を作ってるふたりが、すっごい真剣で。』

『うわー……やめてよ、恥ずかしい……』

『私はね、ずっと航太くんと結婚すると思ってたんだよ?』

『いやいや、あれは子どものころの話でしょ?』

憧子は照れながらも、笑顔を浮かべて湯飲みを両手で包んだ。

『……でもね、私は和真と出会って、本当に良かったって思ってる。
一度は別れたけど、それでもまた再会して……すごく運命を感じたの。
いろんなことがあったけど、今、和真と結婚できて――本当に、嬉しい。
和真がいいって、心から思ったの。』

桜子は優しい目で、憧子を見つめていた。

『そっか。……なら、もう何も言うことないね。おめでとう、憧子』

『ありがとう、お姉ちゃん』

ふたりは、ふっと目を合わせて微笑み合った。
その時間は、穏やかで、やさしいぬくもりに満ちていた。

夜、布団に入っても、憧子はなかなか眠れなかった。

枕元のスマホが、震える。
和真からだった。

《寝れそう?》

《ううん。ちょっとだけ、ドキドキしてる》

《俺も(笑)》

《なんか、信じられない。明日、私たち……夫婦になるんだよね》

《なるね。やっと》

《うん。ありがとう、和真。明日、絶対笑顔で会おうね》

《もちろん。あこを迎えにいくよ。俺の隣に――一生いてください》

憧子は、スマホを胸に抱いた。

「……うん。これからも、ずっと一緒にいてね」

夜の静けさの中で、幸せの予感が、そっと彼女の胸を温めていた。
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