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第2章 闇夜の戸惑い
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バスの窓枠にひじをのせる。
手の甲に頬をあて、悲哀に染まる瞳で夜空を見上げてみた。
なに自分勝手なことを思っているんだと、呆れてしまったんだろう。
月は隠れてしまった。
闇夜に広がる雲の後ろでほんのりと光をこぼすだけ。
バスの揺れが不快でたまらない。
6年前に固めた俺の決意を崩そうとする。
あの頃は、お互い関わらないことが輝星のためだと思いこんでいた。
俺が今まで通り独占していたら、輝星がいつか天国に行ってしまうんじゃないかと怖くてたまらなかった。
一緒にいたくて。
大好きで。
手放したくなくて。
俺だけの世界に閉じ込めたくて。
輝星にも同じ思いでいて欲しくて。
でも怖くて。
死なないで欲しくて。
守ってあげたくて。
輝星には幸せになって欲しくて。
いろんな感情に襲われた小6の俺は、嫌われるくらい酷く輝星を突き放すことで、輝星の幸せを願っていたんだ。
高3になった輝星は今、彼女ができて幸せそうだ。
あの時の決断は間違っていなかったと、宝物を手放した小6の俺を褒めてあげたい。
ただ毎日が苦しい。
同じ教室に自ら手放した大事な人がいる状況。
みんなに愛される笑顔を、輝星はクラスみんなに振りまいている。
休み時間や昼休みは、誰も入れないような楽しい空気を流瑠さんと二人で作り出している。
俺には笑いかけてくれなくて。
俺も俺で笑顔を作れなくて。
冷たい目を輝星に突き刺すことしかできなくて。
やっぱり一緒にいたくて。
小学校の頃に戻りたくて。
輝星の瞳に俺だけを映して欲しくて。
他の人には笑いかけないでほしくて。
はぁぁぁぁぁ。
俺の重すぎる恋心は、死んでも来世にまで引き継がれそうだ。
いっそ今すぐ生まれ変わって、輝星を思う存分愛する人生をやり直したい。
俺のメンヘラ闇落ち度が増してしまったからだろう。
月を隠す雲が、さらに厚みを増した。
今夜の月は情けない俺を慰めるつもりはないらしい。
ふふふ、当たり前か。
太ももに振動を感じ、ポケットからスマホを取り出す。
やる気のない視線をスマホ画面に落とした。
メッセージが届いたお知らせあり、奏多からだ。
テニスの全国大会用の戦術でも思いついたのだろうか。
試合が始まるのは夏休みに入ってから、まだ1か月以上も先のこと。
戦術を話し合うのは対戦相手が決まってからにすると奏多は言っていたけれど、気が変わったのかもしれない。
とりあえず読んで、とりあえずスタンプだけ返して、あとは学校で話せばいいか。
スマホの画面に浮き上がるアイコンをタップし、奏多からのメッセージを目で追いかける。
『トーナメント表見た? 球技大会の』
すでに各クラスに配られているのか。
うちの高校で行われるクラス対抗球技大会は、来週に迫っているしね。
『テニスでお前とダブルス組む萌黄って、さっきバス停にいた奴だよな?』
その通り、輝星のことだけどって。
ん? ダブルスを組む? 俺と?
『ペアの片方はテニス部員以外って決まりあるけど、あいつテニスできるわけ?』
待って待って、俺は小倉くんとペアを組む予定だよ。
『絶対にお前と決勝で当たりたい。萌黄を徹底的に鍛えとけよ』
メッセージはそれで終わっている。
追加でカンガルーがパンチを繰り出すスタンプが送られてきたけれど、頭の中がハテナだらけの俺はスタンプ一つ返す心の余裕すら持ち合わせていない。
動揺する心臓を落ち着かせたくて、目をしばたかせながら胸に手を当てた。
なんで奏多はとんでもない勘違いをしているの?
輝星はテニスには出ないよ。
彼は男女混合のドッチボールメンバーなんだから。
添えられていたテニスのトーナメント表を、指で拡大してみた。
目を見開いてしまったのは、あるはずもない【萌黄】の文字を見つけたからだ。
しかも俺の名前の斜め上に。
もともと俺の隣には別の名前が書いてあったようで、黒ペンで消された上に、手書きの後付けで【萌黄】と記されている。
俺とダブルスを組むのは中学までテニス部だった小倉くんのはず。
最近休みがちでまだ一度も一緒にボールを打ち合ってはいないけれど、ペアに決まった時、頑張ろうねってお互いグータッチを決めたじゃないか。
体の震えが止まらない。
勘違いであってほしい。
いや、奏多のことだ。
俺を騙すためにトーナメント表に手を加えたとも考えられる。
テニスというスポーツは敵を騙して点を取るスポーツだと俺は思っていて、県大会優勝を果たした俺と奏多も人を騙す術にたけていると思うから。
小学校の時に俺と輝星のペアがテニスでいい結果を残せなかったのは、輝星が人を騙せない綺麗な心の持ち主だったからだろうな。
幸せだったころが詰まった思い出箱に片足を突っ込んだところで、手に持っていたスマホが震えだした。
今度は奏多からのメッセージじゃない。
うちのクラスの体育大会委員をしている堀北くん。
焦る気持ちのまま画面を開く。
びっくりするほどの長文羅列で面を食らったのち、心臓をいったん落ち着かせとようと窓の外の夜空を見上げた。
闇夜に白く輝く月が俺を見つめている。
さっきまで隠れていたくせに。
アタフタする俺を楽しみたいんだろうなと思ったら、折れそうなほど細い月がにやけた人間の口に見えてきた。
今は癒しが欲しいのに意地悪だな、今夜の月は。
心の安定を諦め、俺は再び文字羅列に視線を戻す。
手の甲に頬をあて、悲哀に染まる瞳で夜空を見上げてみた。
なに自分勝手なことを思っているんだと、呆れてしまったんだろう。
月は隠れてしまった。
闇夜に広がる雲の後ろでほんのりと光をこぼすだけ。
バスの揺れが不快でたまらない。
6年前に固めた俺の決意を崩そうとする。
あの頃は、お互い関わらないことが輝星のためだと思いこんでいた。
俺が今まで通り独占していたら、輝星がいつか天国に行ってしまうんじゃないかと怖くてたまらなかった。
一緒にいたくて。
大好きで。
手放したくなくて。
俺だけの世界に閉じ込めたくて。
輝星にも同じ思いでいて欲しくて。
でも怖くて。
死なないで欲しくて。
守ってあげたくて。
輝星には幸せになって欲しくて。
いろんな感情に襲われた小6の俺は、嫌われるくらい酷く輝星を突き放すことで、輝星の幸せを願っていたんだ。
高3になった輝星は今、彼女ができて幸せそうだ。
あの時の決断は間違っていなかったと、宝物を手放した小6の俺を褒めてあげたい。
ただ毎日が苦しい。
同じ教室に自ら手放した大事な人がいる状況。
みんなに愛される笑顔を、輝星はクラスみんなに振りまいている。
休み時間や昼休みは、誰も入れないような楽しい空気を流瑠さんと二人で作り出している。
俺には笑いかけてくれなくて。
俺も俺で笑顔を作れなくて。
冷たい目を輝星に突き刺すことしかできなくて。
やっぱり一緒にいたくて。
小学校の頃に戻りたくて。
輝星の瞳に俺だけを映して欲しくて。
他の人には笑いかけないでほしくて。
はぁぁぁぁぁ。
俺の重すぎる恋心は、死んでも来世にまで引き継がれそうだ。
いっそ今すぐ生まれ変わって、輝星を思う存分愛する人生をやり直したい。
俺のメンヘラ闇落ち度が増してしまったからだろう。
月を隠す雲が、さらに厚みを増した。
今夜の月は情けない俺を慰めるつもりはないらしい。
ふふふ、当たり前か。
太ももに振動を感じ、ポケットからスマホを取り出す。
やる気のない視線をスマホ画面に落とした。
メッセージが届いたお知らせあり、奏多からだ。
テニスの全国大会用の戦術でも思いついたのだろうか。
試合が始まるのは夏休みに入ってから、まだ1か月以上も先のこと。
戦術を話し合うのは対戦相手が決まってからにすると奏多は言っていたけれど、気が変わったのかもしれない。
とりあえず読んで、とりあえずスタンプだけ返して、あとは学校で話せばいいか。
スマホの画面に浮き上がるアイコンをタップし、奏多からのメッセージを目で追いかける。
『トーナメント表見た? 球技大会の』
すでに各クラスに配られているのか。
うちの高校で行われるクラス対抗球技大会は、来週に迫っているしね。
『テニスでお前とダブルス組む萌黄って、さっきバス停にいた奴だよな?』
その通り、輝星のことだけどって。
ん? ダブルスを組む? 俺と?
『ペアの片方はテニス部員以外って決まりあるけど、あいつテニスできるわけ?』
待って待って、俺は小倉くんとペアを組む予定だよ。
『絶対にお前と決勝で当たりたい。萌黄を徹底的に鍛えとけよ』
メッセージはそれで終わっている。
追加でカンガルーがパンチを繰り出すスタンプが送られてきたけれど、頭の中がハテナだらけの俺はスタンプ一つ返す心の余裕すら持ち合わせていない。
動揺する心臓を落ち着かせたくて、目をしばたかせながら胸に手を当てた。
なんで奏多はとんでもない勘違いをしているの?
輝星はテニスには出ないよ。
彼は男女混合のドッチボールメンバーなんだから。
添えられていたテニスのトーナメント表を、指で拡大してみた。
目を見開いてしまったのは、あるはずもない【萌黄】の文字を見つけたからだ。
しかも俺の名前の斜め上に。
もともと俺の隣には別の名前が書いてあったようで、黒ペンで消された上に、手書きの後付けで【萌黄】と記されている。
俺とダブルスを組むのは中学までテニス部だった小倉くんのはず。
最近休みがちでまだ一度も一緒にボールを打ち合ってはいないけれど、ペアに決まった時、頑張ろうねってお互いグータッチを決めたじゃないか。
体の震えが止まらない。
勘違いであってほしい。
いや、奏多のことだ。
俺を騙すためにトーナメント表に手を加えたとも考えられる。
テニスというスポーツは敵を騙して点を取るスポーツだと俺は思っていて、県大会優勝を果たした俺と奏多も人を騙す術にたけていると思うから。
小学校の時に俺と輝星のペアがテニスでいい結果を残せなかったのは、輝星が人を騙せない綺麗な心の持ち主だったからだろうな。
幸せだったころが詰まった思い出箱に片足を突っ込んだところで、手に持っていたスマホが震えだした。
今度は奏多からのメッセージじゃない。
うちのクラスの体育大会委員をしている堀北くん。
焦る気持ちのまま画面を開く。
びっくりするほどの長文羅列で面を食らったのち、心臓をいったん落ち着かせとようと窓の外の夜空を見上げた。
闇夜に白く輝く月が俺を見つめている。
さっきまで隠れていたくせに。
アタフタする俺を楽しみたいんだろうなと思ったら、折れそうなほど細い月がにやけた人間の口に見えてきた。
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心の安定を諦め、俺は再び文字羅列に視線を戻す。
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