地雷カプブルー 

89桃(はくとう)

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第3章 縮まる距離

3-5

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 「つーか、女子たちはしゃぎすぎ。耳痛いんだけど」

 靴を引きずるような足音にハッとし、体をひねって後ろを向く。

 「うちの高校の王子様人気、まじエグイよな」

 黄色いテニスボールを手の上でポンポン投げながら僕たちに近づいてきたのは、奏多くんだ。
 だるそうに口を曲げ、反対の手で握っているラケットの先をテニスコートの外にいる女子たちに向けている。

 「一部始終見てたけどさ、飛んできたテニスボールから姫を守ったって、カスミの王子様伝説がまた一つ増えるんじゃねーの? あほくさ」

 テニスラケットを肩に担いだ奏多くんの言葉に、ようやく僕はこの状況を理解した。

 そういうことだったんだ。
 霞くんに抱きしめられてドキドキに襲われていたけれど、霞くんは僕がボールに当たらないように腕を引っ張てくれただけなんだ。

 とっさのことで覚えていないけれど、もしかして僕から霞くんの胸に飛び込んじゃったのかな?
 抱きしめられたというのも僕の思い込みで、ただ霞くんの腕が僕に当たっていただけだったのかも。
 そうだよ、絶対に。

 だって霞くんは僕のことが嫌いなんだもん。
 6年間も無視され続けてきたんだもん。

 さっきだって、僕と奏多くんが話していただけで嫉妬していた。
 それくらい奏多君のことが大好きってことだよね?
 そういうことだよね、霞くん。


 とりあえずお礼を言わなきゃ。
 僕たちはには頭一つ分の身長差があって、どうしても霞くんを見上げる形になってしまう。

 「ありがとう……かすみくん……」

 ジャージの長い袖から指先だけを出した状態で口元を覆ったら、霞くんは目を見開いて

 「……ごめんね輝星……抱きしめるような形になっちゃって」

 僕から目をそらしながらたどたどしい謝罪をこぼしたから、絶句。
 恥ずかしそうに耳まで赤く染めた霞くんに『気にしないで』と伝えたくて、僕は思い切り顔を左右に振る。

 「今の危なかったよな」とわりこんだのは奏多くん。

 「カスミが機転を利かせてなきゃ、輝星の顔にボール当たってたし。ちょっと俺、ボールこっちに打った奴らに文句言ってくる」

 ひたいの血管をピクつかせた奏多くんが、僕たちの前から走り去った直後だった。
 スカートとポニーテールを大きくひらめかせながら、流瑠ちゃんが猛ダッシュで僕たちの前にやってきたのは。

 心臓に手を当て息を落ち着かせたのち、流瑠ちゃんは僕ら二人を何度も何度も眺めては「はぁぁぁぁぁ~」
 両手で顔全部を覆い隠したと思ったら「さっきのヤバかったぁぁぁぁぁ」と、僕たちの前にしゃがみ込んでしまいました。

 どうやら彼女のテンションは、ハイの極みに到達してしまったもよう。

 「夢が叶ったよぉ。攻めが騎士顔負けの萌えシチュを再現してくれたよぉ。ほんとヤバい、ほんと無理」

 と騒いでは、やけに膨らんだ斜めがけバックを膝に乗せ、うずめた顔を横に振っている。
 現実が見えなくなってしまった親友を助けなきゃという使命感が湧き、僕は流瑠ちゃんの耳元に唇を近づけた。

 「流瑠ちゃん、みんなに見られてるよ。腐女子だってバレちゃうよ」

 腕を引っ張り、流瑠ちゃんを立ち上がらせる。
 テニスコートの周りには今もたくさんの女子が群がっていて、僕に刺さる視線が痛いこと痛いこと。
 好意的な目なのか攻撃的な目なのかは、判断が難しいところ。

 腐女子ちゃんは一度興奮しだすと、簡単にはムネキュンが静まらない生き物なのかもしれない。
 そして行動力もとんでもない。
 流瑠ちゃんは霞くんの顔がのけぞるくらい至近距離まで霞くんに詰め寄ると、霞くんの手を両手で包みブンブン振り始めた。

 「私、カステラが最推しなの!」

 目がキラキラな流瑠ちゃんとは対照的

 「……あっ、うん……確かにカステラっておいしいよね……」

 霞くんは引きつり笑顔。

 「なんでお菓子の方に行っちゃうかな。違うでしょ!カステラって言ったら霞くんとテラっちのことでしょ!」

 「俺たちのこと?」

 霞くんが戸惑っているから、流瑠ちゃん黙って、静まって、お願い。
 僕は自分の口の前で指バッテンを作ってはみたが、興奮気味の流瑠ちゃんの瞳には映っていないみたいだ。

 「小5で霞くんとテラっちがテニスの試合に出たのを、たまたま見てたの私。それからずっと私の中でカステラが推しカプで。二人のいろんなことを想像するともうダメで。高校に入って二人が同じ高校だって知った時の私、ヤバかったな。早く二人がくっついて欲しくて。どれだけ二人の妄想に時間を費やしたともう?高1の初テストで成績悪すぎたの、妄想のせいだからね。あっ、ついに言っちゃった。テラっち以外についに暴露しちゃった。霞くんお願い、みんなには黙ってて。私が商業BLよりリアル男子の二次創作を楽しむ腐女子だってこと」

 「よろしくね」と霞くんの手を解放した流瑠ちゃんは、好きを語りつくしたような満足げな表情でニヤついている。

 霞くんは宇宙人に遭遇した時のような固まり方。
 色っぽい目をしばたかせ、理解不可能と言いたげな顔で首をかしげて。

 何か返事をしなきゃと追い詰められたのかな?

 「腐女子? そうなんだね、うんうんいいと思うよ、人間好きに生きれば」

 と、乾いた笑いをこぼしながら頷いている。

 僕は流瑠ちゃんの腕を引っ張る。
 霞くんから距離をとることに成功し、流瑠ちゃんだけに聞こえるようにコソコソ声をこぼした。
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