推しグッズ男子たちは、恋の勝負で大人気アイドルに勝ちたい

89桃(はくとう)

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第10章 文化祭での無茶ぶり

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 おっとりとした湖羽ちゃんの場内アナウンスが流れ、ゆっくりとステージの幕が開いていく。

 今回のお芝居は、継母ままははにいじめられる貧乏な女の子のお話。

 舞台の真ん中に立ったわたしが、家じゅうの掃除をさせられているメアリーを演じている時だった。
 ステージ袖に隠れているクラスメイト達に、「こっちに来て」と手招きをされたのは。

 いま?
 お芝居の途中だよ。
 わけがわからず戸惑うわたし。

「そしてメアリーは、舞踏会に行くことになったのでした」

 客席に流れたナレーションに驚き、体と一緒に長い髪が外がわに跳ねる。

 舞踏会?
 男の子と手を繋ぎあってダンスを踊る、あの舞踏会? 
 シンデレラ設定なんて、用意していないんですが!

「客席の皆様は、しばらくお待ちください」

 ステージの照明が落ちた。
 暗い中、慌ててステージの奥に逃げ込む。
「どういうこと?」と、拳を上に下にふりながらクラスメイトを問い詰めた。

「えへへ、みんなでね、陽葵のお姫様姿が見たいよねってなって」

 ひぃあい? 急すぎませんか? 無茶ぶりすぎませんか?
 
「陽葵なら演じられるでしょ」とニマニマされ、「自信ないよ」と首を横に振る。

「こんなお芝居が観たいなって言うと、いつもアドリブで演じてくれてたじゃん」

「あれはお客さんがちょっとしかいない場所だからであって。この客席はいま満員御礼で……」

「はい陽葵、これを着て」

「ドレス? この豪華なドレスは、さっきまで……」

「気づいちゃったか。そうそう、なりきりカフェでぬい君が着てたドレスだよ」

「まさか、わたしに着せるつもり? ムリムリ、美少女顔のぬいくんだから似合うのであって」

「お客さんを待たせない。みんな、陽葵の着替えを手伝って」

「了解!」

「わたしがメイクするね」

「陽葵じっとしてて、髪が巻けないから」
 
 問答無用とはこのことだな。
「待って待って」と言っても、クラスメイトたちの手で、お姫様に仕上げられていく。

「はい完成」

「キャー、陽葵が可愛すぎる!」

 わたしを見て飛び跳ねる友達に、「お世辞はいらないよ」とわたしは唇を突き出した。
 鏡がないからどんなかんじに仕上がってるかわからないけど、平凡女子中学生のわたしが似合うはずないもん。

 わたしの手を握ってくれたのは湖羽ちゃん……って。
 もしや泣いてる?

「湖羽ちゃん、どうしたの」

 心配で湖羽ちゃんの顔を覗きこむ。

「ううっ、あのねっ、わたしね……陽葵ちゃんの友達失格だなって……」

「なんでそう思うの?」

「最近、陽葵ちゃんがお芝居の壁にぶつかってることに気がついてたの。毎日辛そうだなって。でもわたしは何もできなくて……なにも力になれなくて……」

「湖羽ちゃんが謝ることじゃないよ。メンタルが弱すぎるわたしのせいなんだから」

「わたしは今でも思ってるよ、確信してるよ」

 涙で潤んだ湖羽ちゃんの目が、力強く輝きだした。
 わたしの手を両手で包んで、じっと見つめてくる。

「陽葵ちゃんは、キラキラなスポットライトが誰よりも似合うよ。大人気アイドルのノエル君よりもだよ」

「もう湖羽ちゃんたら、親友びいきが過ぎるってば」

 悲しそうに目を伏せた湖羽ちゃんが、言いにくそうに三つ編みをさすりだした。

「わたしね、小さいころから学校に行くのが怖かった。友達に嫌われたくないと思うと話しかけられなくて。いつも一人ぼっちで、さみしくて、友達が欲しくて。でもさみしい子って思われたくないから、自分の席で本を読んだりして一人でも平気なふりをしてたの」

「そうだったんだ」

「中学に入っても友達はできないだろうなって諦めていたわたしに、陽葵ちゃんが話しかけてくれた。わたしのことが好きって微笑んでくれた。本当に嬉しかった」

「湖羽ちゃん」

「学校が怖いっていうわたしのマイナスな感情を、キラキラな笑顔で消し去ってくれたひまりちゃんだもん。わたしだけじゃない、世界中に人を笑顔にできる舞台女優になれるよ」

 笑顔で涙をぬぐう湖羽ちゃんの肩を、美奈ちゃんが優しく抱きしめた。

「陽葵応援団のうちらも、湖羽ちゃんに同意だよ」

 他の友達もうなづいている。

「陽葵と同じクラスになれてよかったよね」

「くだらないことでお腹をかかえて笑いあえるから、ほんと楽しいしさ」
 
「わたしたちは陽葵のことが大好きだけど、陽葵もわたしたちのことが大好きでしょ?」
 
 二カッっと笑った沙理ちゃんに「どうなの、どうなの?」とひじでお腹をつつかれ、

「みんながいなかったら、学校でこんなに笑ってないよ」と、嬉し笑いがこぼれる。

 由衣ちゃんがわたしの肩に手を乗せた。

「お芝居中に困った、どうしようってなったら、うちらにウインクを飛ばして。助っ人で乱入してあげる」

「わたしたちも演劇科の生徒だし、どんとこいだよ」

「だからひまりちゃん、自分を信じて思いきりお芝居を楽しんできてね!」

 みんなの笑顔を見て、自分のまちがいに気がついた。
 誰にも頼らず、なんでも自分の力で解決しないとダメだと思っていた。
 でも違うんだ。
 
 困ったときは友達に助けてもらえばいい。
 悲しいときはなぐさめてもらえばいい。
 チャレンジが怖くなったら、背中を押してもらえばいい。
 だってわたしには、心を許せる大事な友達がこんなにいるんだから。
 
「湖羽ちゃん、みんな、ありがとう」

 椅子に立てかけてあるペンライトを、やる気の炎みなぎる瞳で見つめる。

 光くんも見ていてね。

「よし」と頬を両手で叩き、拳を握りしめ、覚悟を決めたわたしは凛と背筋を伸ばした。
 
 


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