悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田

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第一章 力の覚醒

1話 薬草採取

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 村長から聞いた話だが、六才の時に両親は事故に遭って他界したらしい。その時、私も一緒に巻き込まれて、それまでの記憶を失ってしまった。

 ちなみに兄弟は誰もいない…。

 幼馴染のマーベルと村長以外、私の境遇は知らない。

 村長に、

「事故に遭ったことは誰にも言っちゃだめじゃぞ」

 と口止めされているからだ。

 それに村の人たちの前では、村長の孫として立ち振る舞っているのも少し違和感を覚えるんだけど、育ててくれた恩もあるから言う通りにしている。

 とは言っても、この村に話し相手はあんまり残っていないけどね…。

 ソファーに身を委ねて、私は天井を仰ぐ。

 今、住んでいる所はポッチ村と呼ばれている。
 わりと辺境の土地だ。
 村の真ん中から周辺を見渡しても、入口の門に隣接している物見やぐらしか高い建造物はない。
 泊まれる宿屋も一つしか無く、凄く寂れた所だ。

 どこの町にも大体、ギルドが設置されていることが多いのだが、このポッチ村にはギルドがない。

 とっても悲しいけれど…。

 ギルドを一言で表すと、冒険者が集う組織のことだ。
 十五歳から保護者がいなくてもギルドには登録できる。一応、この世界では一五歳から成人扱いになるから。

 けれど、隣町のキーシャまで行かないと、ギルドが無いのが辛いところだ。
 一年経てば私も独りでギルドに登録が出来るようになるから、この一年が待ち遠しい。

 この村にも昔、ギルドはあったらしい。
 村長の話によると、私が六才のときに遭った事故の影響でギルドは消滅したとのこと。
 復興は試みたものの、予算も人も全く足りず断念したらしい。
 
 当然、この村にいた冒険者たちはどんどん離れていき、あっという間に廃れていった。

 年の近い子は幼馴染のマーベルくらいしか残っていない。
 私が十四歳だから、三つ下の男の子か。

 自分より年上の子達や同世代の子は隣町のキーシャに移住していった。
 小さな子供たちも僅かに残っているが、自分の年の半分にも満たない子供たちが五人ほど。

「過疎りすぎだよね……」

 だからと言って、この村が嫌いかと言われるとそうじゃない。
 不便に感じる時もあるけれど、好きな方だ。

 私は物心ついた頃には両親がいない。
 村長が私を引き取ってくれていなかったら、間違いなく野垂れ死んでいただろう。
 今まで生きてこれたのは、親代わりになった村長のおかげだ。

 親の愛情がどんなものか、あんまり分からないけど、村長には感謝している。

 勿論、村長だけじゃない。
 数少ない村の人たちも、私が困っているときはすぐ手を差し伸べてくれた。

 だから、この村がどっちかと言えば好きなんだと思う。


 チリンチリンッ。

 玄関の扉に掛かっているベルが二度鳴り響く。
 ふと我に返り、ソファーから立ち上がる。
 チラッと時計を確認する。
 朝の七時か。

 私は玄関に辿り着くと、扉をゆっくり開ける。

「よぉ!ルリ姉!鍛冶屋のじっちゃんが指を怪我した!在庫にチンチン草あるー?」

 村長の孫、マーベルが訪問してきた。
 小さい時から一緒に遊んでいるが、相も変わらず下ネタを隙あらば挟んでくる。

 まだまだ、がきんちょだ。

「マーベル…。ちょっと待ってて」

 マーベルの下ネタはスルーして、私は薬草が置かれている棚に向かう。

 棚には透明の容器が均一にずらっと並んでいる。
 置かれてある容器には様々な薬草を保管しており、チチン草が在庫にあるか確認する。

「チチン草は…。昨日、使い切っちゃったみたい。今から山に採取してくるからそれでも大丈夫?」

 他の薬草は在庫がまだ残っているから、タイミングが悪かったようだ。

「おっけー!ルリ姉も山でケガしないように気をつけろよな!」

 ガチャン。
 こちらが返事をする前に扉が閉まった。

 一緒に採りに行って手伝うよ!
 その一言くらいあってもいいのにな…。

 期待するだけ無駄か。

 まあ、マーベルの様子からして鍛冶屋のおじさんも大きな怪我をしてないのは伝わったから、いいのかもしれないけどね。

 とりあえず、薬草採取に必要な道具をバッグに詰めるとしよう。
 朝早いとはいえ、これから日が昇ると暑くなるし、水分も忘れず準備しておかないと。

「よしっ。準備完了!」


 クンクン。クンクン。

「ムフフッ」

 忘れ物が無いか再度チェックして、いつも探索している山に向かうことにした。

 水筒に入っている中身を精一杯嗅いでから。


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇


 緩やかな勾配が続く坂道を登る。
 道は細く、舗装されていない為、若干歩きずらい。
 とはいえ、この山道はいつも歩いているから特に迷う事なく進める。

 それに、もうちょっと行けば拓けた道になり、幾分か今より歩きやすくなる。
 そのまま道を十分くらい歩いて進むと、いつも薬草が生えているスポットに到着した。

 目的地に着いた私は周辺を見渡し、薬草を探す。

 すると、ブルーディアが数匹、視界に入った。

 群青色のツノを持った温厚な鹿。
 太陽光がツノに反射して、幻想的で煌びやかなツノに私は目を奪われた。
  
 何度観ても綺麗だな。

 割と目撃することは多いが危険要素はほとんどない。
 実際に危ないと感じた事は一度もないし。

 ちなみに、ブルーディアは感情が昂ったらツノが赤くなるらしい。
 赤く染まったツノを見たい気持ちはあるけれど、今まで一度も拝めたことは無いけどね。

 お!
 うん、うん。
 生えてるね!

 先週、薬草を採取した場所にチチン草やカラマイタケなどが、ちらほら生えていた。

 ドクダミやセンブリなどといった普通の薬草とは違い、魔花や魔草は一度採集してもすぐ生えてくることがある。
 チチン草やカラマイタケもそれにあたる。

 何故すぐ生えてくるのかという疑問が浮かんでくるが、土に含められている魔力との相性が関係しているらしい。

 どうせすぐ生えてくるなら、
 イチゴや、イチゴだったり、イチゴとか生えてきたらいいのにな。
 そしたら毎食、たらふく食べれるのに。

 欲しかった薬草を袋に詰め終わる。
 
 一段落着いたし、休憩しようかな。

 私は大木に背中を預け、腰を下ろした。
 木漏れ日が刺したところに座ってしまい、うっすら目を細める。
 身体を半身ずらし体勢を変えてから、バッグからタオルと水筒を取り出す。
 タオルを首に掛けた後、水筒の蓋を開けてニヤついた顔で容器の中身を嗅ぐ。

 クンクン。クンクン。

 胸いっぱいに香りを詰め込む。
 幸せだ。

 甘酸っぱいフルーティーなイチゴの香りが私の身体を包み込む。
 芳醇な香りを楽しむのも束の間。

 イチゴジュースを一気にあおる。

 やっぱり、おいしい!!
 大地の神様!
 今日もありがとう!

 誰にも文句は言わせない。
 イチゴこそ世界に平和をもたらす存在だ。

 果物の王様がドリアンと皆が口を揃えて言うならば、果物の女王はイチゴだ!
 ちまたでは、マンゴスチンとかいう輩もいるが、それは断じて間違っている。

 そもそもマンゴスチンを知ってる人が何人いるだろうか。

 イチゴ様!万歳!イチゴ様!万歳!

 尊いイチゴを世界中に布教しなくては。
 少し熱くなってしまった…。

 年に数回はこんな感じで興奮して、おかしくなる時がある。
 お恥ずかしい…。

 私は頬を伝う汗をタオルで拭きながら、午後からの予定を考える。

 とりあえず、下山したら鍛冶屋のおじさんに薬草を届けよう。
 そして、村長の養鶏場の掃除をお手伝いしてから、マーベルと日課のランニングでもしようかな。
 頭の中で予定を立てていると、急に辺りが騒がしくなった。

 さっきまで静かだった鳥たちが一斉に鳴き始める。
 普段ならそこまで気にならない所だが、ふとブルーディアに目を向けるとツノが暗紫色に変化していた。

 嫌な予感がする。
 ブルーディアのツノが変色しているのは何か悪い兆しだ。
 感情が昂った所なんて一度も見た事が無いから。

 さっきまで晴れていた空は雲で陰り、生い茂った森の中がより不気味に感じた。
 タオルと水筒をバッグにしまって、その場から立ち上がり周囲を観察する。

 ブルーディアの暗紫色のツノは真っ赤な真紅色に変化していた。

 不味いよね…。

 最低限の薬草はさっき確保できたため、足早にこの場から去ろうと思った瞬間。

 ブルーディアのいる後ろの大木から、人影らしきものが見えた。

「誰かいるの?…」

 問いかけることで、自分の中から湧いてきた恐怖心を誤魔化す。

「………」

 返事はなく、鳥のさえずりだけが響き渡っている。
 一瞬悩んだけれど、とりあえずこの場から離れるのが先決だ。

 それに、早く鍛冶屋のおじさんに薬草を届けるに越したことはないからね!

 私は身をひるがえし、一歩足を踏み出す。

 ドサッ。

 後方から倒れ込むような音がした。
 反射的に体を捻り、音が聞こえた方向を確認する。

 黒いローブを被った人がうつ伏せで倒れていた。腹部から出血しているのか、脇腹あたりに血が付着している。
 顔はフードで隠れており性別はわからない。

 そのまま放置しようかと脳裏を過ぎった。

 多分、ここの村人じゃない気がするし、自ら危険を冒す必要はない。

 んんー…。
 だけどこのまま見過ごして山を下りても、後味が悪いよね…。

 もうっ…。
 しょうがない……。


 助けよう。

 もし襲われた時はその時、対処しよう。
 やっぱり馬鹿だなと自分でも思いながら、一歩踏み出す。

 盗賊のような悪人が倒れたふりをしているかもしれないよね。
 私は腰元に提げていた小型のナイフを手に握り、恐る恐る近付く。

 もし襲ってきたら、応戦できる自信はあんまり無いけれど…。

「だ、大丈夫ですか?」

 再度、声を掛けてみるものの、やはり返事はない。

 ナイフを収めた私は倒れている人の所でしゃがんだ。
 この距離でも反応がないということは意識が無いのかもしれない。

 容態を確認しよう。
 うつ伏せじゃわからないしね。

 私は仰向けに体勢を変えようとしたら、頭に被っているローブがずれて顔が露になる。
 目鼻立ちはとても整っており、端正な顔立ちをしていた。瞼は閉じているから瞳の色まではわからない。
 正絹みたいに滑らかな黒髪が私の手に触れた。

 天女のような容貌をしているけれど、抱き抱えている手の平に伝わる肩の筋肉が男性だと主張している。

 異性の服を脱がす事に抵抗はあるが、傷口を調べるため服を捲る。
 腹部に二箇所深い傷を負っている。

 医療用ポーチをバッグから取り出し、応急処置を行う。最低限の止血は出来たけれど、意識が戻る気配はなさそうだ。

 このまま彼を連れて下山は困難だよね。
 とりあえず一人で降りて、村長に手を貸して貰おう。
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