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第一章 力の覚醒
2話 騎士
しおりを挟む下山して一日が経過した。
倒れていた彼の意識は戻らないけれど、命に別状は無いようだ。
村長に相談した結果、目覚めるまで私の家で介抱する形になった。
私の家と言うと語弊があるか。
村長が一時的に貸してくれている家だ。
ベットに寝かせている彼の様子を見ると、包帯がうっすら血で滲んでいる。
患部が化膿しないように傷口に巻いてある包帯を取り替えて、すり潰した薬草を患部に塗った。
とりあえず容態は悪化してはない。
今日は村長の畑の手伝いを頼まれている為、支度を始める。
私はテーブルの上にメモ書きを残し、家を出て施錠する。
もし彼が起きた時、誰も居なかったら困るだろうからね。
村長の畑の手伝いは割と大変だ。
気合いを入れるため、頭に赤いハチマキをぐるっと巻きながら村長の畑に向かう。
「おはよぉ!ルリちゃん!朝から気合い入ってるねぇー」
「おはようございます。クレアさん」
道中、近所のおばあちゃんに声を掛けられる。
歳は八十を超えているのに、いつも元気で活気溢れる方だ。
現に今も、三十キロは超えているであろう米俵を両脇に抱えて歩いている。
一応、魔法士だから持ち上げれるのかな…。
クレアさんの両腕にはびっしりと血管が浮き出ている。
目を凝らすと、少し指先がプルプルしてるのは気のせいか…。
胸がソワソワした私はクレアさんに問いかけた。
「お手伝いしましょうか?クレアさん?」
「んん。だ、だ、大丈夫だぁ!!」
「本当に身体には気をつけて、運んで下さいね」
どこからそんな力が溢れて出てくるのか気になるところだ。
んー、気にしないでおこう…。
そのまま歩くこと数分、村長の畑に到着した。
「おはよう。マーベル」
「よう!ルリ姉、来るのおせーぞ!」
一足先にマーベルは鍬で畑を耕しており、畑の仕事を手伝っているみたいだ。
珍しいこともあるもんだと感心していると、
「「「コケェッッコッコッコッ」」」
複数の鶏が鳴きながら畑を散歩していた。
いや、その表現はちょっと違うか。
三羽の鶏が畑を荒らしていた…。
「マーベル……。どうしてこの子たちが畑にいるの?」
私は首を傾げながら、鶏たちの方に指を指す。
「こいつらに応援して貰ったら元気出るし盛り上がると思ったからだな!もっと呼んでこようか?」
さっき感心した自分の気持ちを返して欲しい。
「この子達がいなくなったら村長が悲しむんだから、しっかり養鶏所に連れ戻しなさい!」
「チェッ……わかったよ…」
マーベルは不貞腐れながら渋々鶏たちを捕まえに行く。
「はぁっ……」
とりあえず、村長に挨拶しに行こうかな。
「村長がどこにいるか知ってる?」
「さっきまで、じいは養鶏場にいたよ!」
「そっか。マーベルはしっかり鶏達を捕まえておくように!」
養鶏場に辿り着くと、村長を発見する。
「村長、おはようございます!」
「おはようじゃ。のぉ、ルリよ。村長とは呼ばずにじいじと呼んでおくれと、言っておるだろう」
村長はムスッとした表情を浮かべて、ルリの呼び方を指摘した。
「そだね…。じいじ…」
満面の笑みを浮かべた村長が尋ねてくる。
「ところでじゃ、タロ、メロ、ジロはどこいるか知っておるかの?」
村長は飼っている全ての鶏に名前を付けている。
数匹程度なら名付けても不思議じゃないけれど、40匹近くいる鶏全部に名前を付けている。
物好きにも程がある…。
しかも、名付けた鶏も似たような名前なのだ…。
だから、私は鶏の区別が全くつかない。
「あっちの畑に野放しになった鶏たちが居たよ!」
「もしや、マーベルが連れていったじゃろうか!道理でいないわけじゃな」
少し安堵した村長は餌の入ったバケツを持ち、豪快に鶏たちに餌を与え始める。
「ほれほれ!ご飯じゃぞー」
「餌やり過ぎたら、ダメだからね」
私はマーベルの元に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鶏たちを養鶏所になんとか戻した私は畑仕事に取り掛かる。
タロ。メロ。ジロ。
全く違いが分からなかったけれど、一羽だけやたら機敏で捕獲するのに苦労したやつがいた。
結局、二人がかりで確保したしね。
遅れた作業を取り戻すために作業に没頭していると、あっという間に昼を過ぎていた。
ぐぅっっ。
お腹の鳴った音が聞こえたので、横に視線を向けた。
「お腹減ったようぅ」
マーベルがお腹辺りを押さえながら情けない顔で呟く。
「そろそろお昼ご飯食べよっか」
畑の隅に鍬や鎌などの道具類を置いて、私は朝作った弁当を取りに行く。
日差しが強いから、日陰でご飯は食べよっかな。
弁当を持った私は樹木の下に風呂敷を広げて、ゆっくり腰を下ろす。
二つある弁当のうち、大きな方をマーベルに渡した。
マーベルはいただきますと言うと否や、勢いよくおかずを口に放り込む。
「ゆっくり噛んでご飯は食べなさい!」
私は水筒に手を伸ばしながら、マーベルを諭した。
「ゆっふり…たへてるよ」
口に頬張ったまま、喋り続けるマーベル。
全く説得力がないんだから。
私は水筒に入った水をコップに注ぎ、マーベルの足元に置く。
「水ありがとな!」
今朝はご飯を食べるのが遅かった為、あんまりお腹が減っていない。
半分ほど中身がある弁当をマーベルにあげて、少し横に寝転がる。
風がほどよく吹いて心地いい。
食事を取ったこともあり、少し眠くなってきちゃったな…。
あの鶏たちに無駄な労力を使ったのも大きな要因だろう。
少しウトウトしていると、マーベルが私に話しかけてきた。
「なあなあ、ルリ姉!あの人たち誰だ?」
少し寝惚けていた私は眠気を吹き飛ばすため、軽く両頬を叩いて起き上がる。
「誰だろう。見た事ない人たちだね」
四人組の騎士の格好をした人たちがこちら歩み寄ってきた。
「聞きたいことがあるのだけれど、少しいいかな?」
この中で一番豪華な鎧を身に纏った騎士らしき人が、一歩前に出て尋ねてきた。
四十半ばくらいで青髪短髪の男性だ。
身長はかなり高い。
百八十センチは超えているだろう。
切れ長の瞳で薄茶色だが、右目に傷を負っている。
眉山から鼻にかけて斜めの傷があるせいで、威圧感が増している。
「はい。大丈夫です!何でしょうか?」
青髪の騎士は懐から取り出した似顔絵を描いた紙をこちらに見せてきた。
「この顔に見覚えはあるだろうか?」
私は何度か似顔絵を凝視したが、全く心当たりがなかった。
「…いえ、ありません」
いや…。
分かるはず無いよ…。
見せてくれた絵はとにかく下手だったのだ。
両目は大きさがバラバラで、極端にかけ離れている。
鼻はゴマのような粒があるだけだ。
耳の位置に至っては犬と一緒だし…。
マーベルも気になったのか、私の後ろからこっそり覗き込んで似顔絵を確認する。
私と同じような困った反応をしたと思いきや、背中越しに忍び笑いを漏らしていた。
気持ちは分かるけれど、今は堪えて欲しい。
後ろに控えている騎士たちも何も思わないのかな。
こんなにも杜撰で、落書きみたいな似顔絵を見て…。
「もし何か情報が出てきたら、キーシャーにあるギルドに報告してほしい」
青髪の騎士は深々と頭を下げて私に頼んでくる。
キーシャー…。
隣町のギルドまで行かないといけないのか…。
「わかりました」
私は返事をしてお辞儀をする。
その似顔絵だといつまで経っても見つけられないよって思うけどね…。
頭を上げる際、胸元にしまっていたネックレスが偶然飛び出してしまった。
元の位置にネックレスを戻そうした時、太くゴツゴツした手のひらが私の手首を強く握る。
「手荒な真似をして申し訳ないが、そのネックレスを見てもよろしいですかな?」
「はい」
騎士はネックレスを注視した時、何かに驚愕したかのように目を見開く。
一瞬寂しげな表情を浮かべたあと私と視線が合う。
私が質問を投げようとした瞬間、首元に衝撃が走り意識を手放してしまった。
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