悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田

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第一章 力の覚醒

19話 それぞれの想い

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(オレはルリ姉の事が好きだ。恋愛的な意味じゃなくて、家族のような感じだけどな)

 マーベルは成長して年を重ねるうちにルリに対して不満を覚えるようになった。

(なんだろうな。ルリ姉のふとした態度にイライラするんだよな。特に今日みたいな態度は本当にムカついた)

 あんな形でお別れをするのは嫌だなとマーベルは思っていたが、あまりにも怒りを抑えれなかった彼は椅子を蹴り飛ばしてしまったのだ。

 村長の家から飛び出したマーベルは目的もなく外を歩いている。

(ルリ姉とオレは血は繋がってないかもしれねぇけど…。
オレはともかく、じいを頼ってもよくねぇか)

 気を遣ってくれて有難いときも沢山あるけれど。
 一緒の家族なんだから肝心な時は、もう少しルリは甘えるべきだとマーベルは思っていた。

 焚き火を遠く眺めながら、マーベルはイラついた心を落ち着かせようとする。
 
(あの燃えている火のように、水をかけてすぐ消せたらいいのにな… )

 ルリが全部悪いとは思わない。
 マーベルは一応、父親が居るから全部は理解することはできない。

 マーベルの父親は冒険者で色んな所に旅に出ていた。
 母親とは離婚したらしい。
 
 父親の都合で村長に預けられてる立場だから、少しマーベルもルリの寂しさも分かる気がした。

(親が近くにいないのは一緒だからな)

「クソったれが」

 自分に対しても、マーベルはムカついていた。

(ルリ姉もあんな性格だから、オレやじいのことを考えた上で決断したんだろうな)

 急すぎるだろ!
 とマーベルは思ってはいたけれど、
 軽い気持ちであんなこと言った訳じゃねぇってのは分かっていた。

 ルリはいつかはこの村から離れるかもしれないってマーベルは予感はしていた。
 だから、離れること事態はそんなに問題視していなかった。

 寂しくないと言えば嘘になるのだが、それよりも今このタイミングで離れるのがどうにも腑に落ちないのであった。

(口に出していないだけでルリ姉は多分、オレたちに言ってないことがあるだろうな。だからこそ、今、強引にこの村から離れるんだろうな)

 直感がその通りだとして…。


(今のオレに何が出来るんだ)

 何も力になってやれなくて、近くで傍観することしか出来ない。
 そんな情けない自分の姿がより彼の苛立ちを募らせていた。

(遠回りしてでもいいから、いつかルリ姉をそばで守れる、いや家族として認めてもらえるような存在になろう)

 固い決意をしたマーベルは、星一つない真っ暗な夜空を仰いだのであった。


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇

 村を離れると打ち明けた翌日は簡単な荷造りをして旅の支度をした。

 いよいよ明日、この村ともお別れだな…。

 窓際にあった写真たてを手に取る。
 私、マーベル、村長。
 三人が写った写真たてをリュックにそっと仕舞う。

 元々、荷物が少ない私はスムーズに旅支度は終わり、マーベルや村長とも言葉を交わす事なくその日は過ぎ去った。


「今日は雨なのか」

 朝食の後片付けをしながら窓の外に視線を移すと、外はパラパラと雨が降ってる。
 荷物が少ないとはいえ、雨だと手荷物が濡れるから大変だな…。

 食器を水で洗い流していると、玄関から声が聞こえてきた。

「おはようじゃ。渡したいものがあったからお邪魔するのぉ」

 この声は村長かな?
 洗った食器を水切りカゴに置いて、玄関に向かう。

「少し時間はあるかのう」

「うん。お迎えが来るまでの間であれば大丈夫かな!とりあえずソファーにでも掛けて」

「うむ」

 村長は濡れた傘を畳んで、色褪いろあせた茶色のソファーに腰を下ろす。

「何か飲む?」

「いんや、構わんよ」

 村長は座ったまま、大きな手提げ袋をまさぐる。

「ね、渡したい物って?」

 私も空いたスペースのソファーに座る。

「二つあるんじゃが、まずこれじゃな」

 テーブルの上にガシャンと音を立ててパンパンに膨らんだ麻袋が三つ置かれる。

 何だろう。
 麻袋は私の手より少し大きかった。

「開けて中を見てもいい?」

「ワシじゃなくてルリのものだからのぉ。遠慮は要らんぞい」

「私のもの……?」

 置いたときの音からして何となく察しがついているけど…。
 一応中身を確認する。

 袋の中には少し輝きが失われていたが、立派な金貨が大量に詰まっていた。
 これだけあれば。
 十年くらいは生活に困らないじゃないかな?

 金貨に触れることがないから憶測だけど…。
 とはいえ、いきなりこんな大金を貰うわけにはいかないだろう。

「村長これは受け取れません。お気持ちだけ受け取って置きますので…」

「そぉ言われてものぉ…」

 まだ開けていない麻袋たちも同様に金貨が詰まっているのだろう。
 何処からそんな大金を用意したのだろうか…。

「私にこのような大金受け取れません」

 いつもは砕けた言葉で会話のやり取りをするのだが、大金が絡んだ現場に遭遇して無意識のうちに敬語になってしまう。

「ワシとしてもそれは受け取って貰わんと、困んるじゃがのぅ」

 普段であれば意見が割れた時、折れてくれることが多い。
 だけど、今回は渋る態度で拒む姿勢を取ってくる。

「理由を伺ってもいいですか?」

「もう一つ渡すものにも言えたことなんじゃがの…」

 村長は遠い昔を思い出すかのような、憂いを含んだ眼差しで一本の剣をテーブルにそっと置いた。

「この金貨と剣は……、亡くなったご両親のものなのじゃ…」

 胸がキュッとなった私は返事が出来ず、剣をまじまじと見つめる。

「父と…母の遺品…」

 小さく震えた声が部屋に響いた。

「そうじゃ。いや、父親はもしかしたら生きておるのかもしれぬから、遺品とは言わぬ方がよいかもな。可能性は限りになく低いのじゃがな」

 え…。
 父が生きてるかもしれない!?

「ワシはこの村でお主の母親の亡骸は発見したんじゃが、父親の亡骸は見つからなかったからのぉ…。もしかしたら生きておるのかもしれぬ」

 でも、どうしてこのタイミングで打ち明けたのだろう…。

 ネックレスを握り締めていた私は、恐る恐る尋ねた。

「もし、私がずっと村にいたとしたらこの遺品は受けとっていましたか?そもそも、このお話はされていましたか?」

 険しい表情を浮かべた村長は、すっと肩の力を抜いて私を見やる。

「いずれ話すつもりではあったのぉ。ただ、ワシとしてはまだ先のつもりじゃったがな」


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇

 村長のコルットはルリが帰った後、散らかった部屋でぼーっと佇んでいた。
 サラの遺品を見たからなのか、ふと昔のことが蘇ってきた。



「私が亡くなってルリが一人になったら、コルットさんにお願いしてもよろしいでしょうか?」

「いや、それは厳しいと思うのぉ。理由をお聞きしてもよいだろうか?」

 コルットは赤ん坊のマーベルを抱き抱えたまま、サラに尋ねる。

(サラはこの村に来て2年くらい経つのかのう。娘のルリは4才になったんじゃっけな)

「私は病により、長くは生きられません。夫も教会の関係者なので面倒を見ることも、かなり厳しいと思います…。無理を承知で申し上げているのですが、もし何か私に何かあれば、その時はどうか助けて下さいませんか?」

(教会の関係者じゃと…旦那さんはほとんど見なかったのはそういう理由じゃったのか…)

「しっかり約束は出来ぬが、出来る限りワシも面倒をみよう。じゃが、本当のを理由わけを教えてくれぬか?」

「…他言無用でお願いします。…もしお話を聞いたら協力すると約束して下さりますか?」

「…うむ」

(悩むところじゃが、ワシもそろそろ歳だ。次の世代の架け橋になるべきかのぉ)
 
「ルリに眠っている魔法はとんでもない力を秘めています。ですので、私はこの残りの命を引き換えに、ルリに封印を施します」

「ふむ」

(もしかして、ルリは神聖魔法が扱えるかもしれぬな…父親が教会の関係者なら)

「肉眼や単なる魔法では分からない特別な封印なので、ルリには決して伝えないで下さい。いずれ、時がくれば娘は思い出すはずので…」

「なるほどのぉ。それだけかの?」

「あと、お願いしている立場なのは重々承知おりますが、コルットさんに約束して頂きたいことがあります…。こちらにある金貨の半分は、コルットさんに差し上げますので…」

 サラは麻袋に入った金貨をこちらに少し覗かせる。
 
(これだけの大金、よほどのことじゃろうな)

「私が亡くなったら、ルリはコルットさんの孫として育ててくれませんか?ルリの親が誰かと問われても、絶対に明かさないで下さい。どうかよろしくお願い致します」

 その顔つきはとても真剣で、有無を言わせないくらいの迫力があった。

「お金は別に良いのじゃが、ワシが他にバラすかもしれぬぞ。それにおぬしがここに来て二年経つから、周りに住んでる人も信じない者もいるかもしれぬ」

「はい…。かもしれませんが、コルットさんの他に私は頼れる人もおりません。残された道はこれだけなのです…」

(昔からこっそり、一目に関わらないように暮らしていたのは、これが理由だったのかもしれぬな…)

「出来る限り協力はするつもりじゃが、あんまり期待はするんじゃないぞい」

「ありがとうございます!」
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