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第一章 力の覚醒
22話 双子の姉
しおりを挟むネムはいつものように、キーシャ学園に登校する。
リリー先生が教卓の前で、生徒が編入してくると周知した。
貴族のクラスだと編入は割と当たり前にあるらしいが、平民がこの中途半端な時期にやってくるのは、あまり前例が無い。
理由は至ってシンプルだ。
平民は金銭的に厳しい、その一言に尽きる。
学期の途中に編入する場合は身分に関係なく、奨学金の制度は使えないからだ。
それもそのはず。
毎年キーシャ学園は平民、貴族を問わず定員オーバーになるのだ。
仮に簡単に編入できる仕組みがあるのなら、入学時に頑張った生徒達や保護者から不満の声が上がるのは目に見えている。
だからこそ、魔法も使えないBクラスに、編入生が突然来ると知らされた時、ネムは驚愕した。
編入生がやってくる数日前のこと。
「ねえねえ、編入生のこと聞いた?実は三大公爵のアレク様からの推薦なんだって!」
「え、それ本当!?アレク様って、第一王子の幼馴染の人だっけ?」
「そうそう!アレク様に気にかけて貰えるなんて、そのルリって女の子、羨ましいなー」
「つまり、将来的にはアレク様に嫁ぐかもしれないってことかな?」
「それは流石に飛躍しすぎじゃない?」
などと、昼休みにクラスメイトの女子達が熱心に会話を繰り広げていた。
何故、彼女達がそのような情報を知っているのは不思議だけれど、編入生の子は裏口入学らしい。
ネムも貴族の生まれではないし、一応平民である。
キーシャ学園の生徒であれば三代貴族の名前は全員覚えてるのは言うまでもない。
勿論、ネムもアレク以外の残りの侯爵家の名前もしっかり把握している。
まぁ、よっぽどのおバカさんか、世間知らずの田舎者でなければこれくらいは知っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が学園の門を潜ると、編入試験を担当してくれた教師が佇んでいた。
先週と同様に辛そうな表情だ。
先生はネイビー色のシャツ着ている。
第二ボタンまで外しており、豊満な胸がボンッと強調されていた。
誰もあの格好を咎めないのかな。
刺激がちょっと強すぎる…。
「おはようございます。改めて、よろしくお願いします」
先生から視線を外し、周囲を確認する。
マリアさんから支給された制服と同じ格好した生徒達がちらほら見える。
男の子は緑のチェック柄のズボンを履いて無地の白シャツを着ていた。
女の子はスカートだが、同じデザインみたいだ。
今歩いている彼女たちの胸元には花の形をしたバッチが付いている。
私のバッチは青色だが、周りの子達はみんな銀色だ。
色が違うのは平民クラスと貴族クラスをパッと見分けるためのものらしい。
「そのまま教室に案内するわ」
先生の飛び跳ねた寝癖を見つめながら、ゆっくり付いていく。
足元がふらふらしている気もしていたが、それは見なかったことにしよう。
「ここがあなたが通うBクラスだから~」
教室に辿り着くと、そのまま先生と一緒に中に入る。
「適当なところ座ってちょうだい」
先生はそう言って、おぼつかない足取りで教員用の机に向かう。
そのまま机に突っ伏してしまった。
果たしてどこに座ればいいんだろうか…。
「リリー先生はいつもあんな感じだから気にしないでね」
私が困惑していると、赤髪のポニーテールをした女の子が話しかけてきた。
クリンとした瞳は紅葉色で、可愛らしい雰囲気の子だ。
「そうなんだ…」
「あ、ネムって言います」
「私の名前はルリ。もしかして、そこの席空いてるかな?」
ネムの左隣の席に指を差す。
小首を横に振ったネムは教室の反対側の席に指を向ける。
「あっちの窓際の一番前の席なら空いてるかな。ここの席は…。そろそろ朝礼が始まると思うから、またね」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
ネムに教えてもらった席に着いて、三分くらいするとチャイムが鳴る。
リリー先生が気怠げに机から起き上がって、のそのそと教壇に上がる。
「あ~。今日は午後からAクラスと合同の実技試験があるからな。それと今日から編入生が来たから、一言挨拶してもらう」
クイクイって手招きされた私は教壇に上がった。
教室の中をぐるっと見回す。
全員合わせて二十人くらいなのかな。
男女比率は半々か。
「今日から編入することになったルリと申します」
自己紹介を始めるとすぐに、ガラガラと教室のドアが開いた。
ドアに視線を向けると、ガタイのいい金髪の男の子が入室してきた。
ズカズカ教室に入ってきた彼と目が合う。
金髪の彼は眉根を寄せ、舌打ちざまにボソッと呟いた。
「平民のくせに上から見下ろしてんじゃねぇよ」
貴方も平民だからこのクラスにいるんでしょと心の中で思った。
というか、教卓にいるのだから必然的に見下ろしてしまうのは仕方のないことだろう。
まあ、こんな事にいちいち反応していたらキリがない。
私は気を取り直して正面を向いた。
悪態をついた彼はネムの隣の席にどかっと腰を下ろす。
あ、さっき私が座ろうとした場所だ。
ネムから教えてもらって良かった…。
後でお礼を言っておこう。
「えっと、これからよろしくお願いします!」
何か他に話しても良いのかもしれないけど、手短に挨拶を済ませた。
ぱちぱちと小さな拍手が起こった後、私は軽くお辞儀をして元の席に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
入学して三か月の月日が流れた。
この学園は平民と貴族のクラス別々に分けられいる。
そこからさらに魔法が使える者と使えない者に分けてクラスが編成される。
身分や能力が掛け離れていると、どうしてもトラブルが起きやすいからこのような措置を取っているらしい。
ちなみに私のいるBクラスは、魔法の使えない平民クラスだ。
「ルリ、今日はAクラスと合同の実技訓練だね」
「そうだね。少し緊張してきちゃった」
グラウンドに向かいながら、ネムと言葉を交わす。
Aクラスは魔法が扱える平民クラスだ。
「そういえば、前回の合同訓練ルリは見学だったけ?」
ネムは笑いながら、私の右腕をちょんちょんと突いてくる。
「うん。前回は見るだけだったよ!」
そう。
登校初日、合同の実技試験があったのだが、私は見学を希望した。
流石に今回の試験は私も参加する予定だ。
「今日は誰と対戦するのかなぁ?」
私は雲ひとつない空を見上げて呟いた。
「どうか、向こうの委員長とは当たりませんようにっ!」
ネムの意見には同感だ。
編入初日、私に敵意を向けた金髪の彼はAクラスの委員長と模擬戦をすることになった。
彼は委員長にあっさり敗北したのだ。
威張り散らかしていた金髪の彼は、一方的に叩きのめされていたのを思い出す。
あくまで模擬戦だから、致命傷が負わない程度の怪我に収められていたけれどね…。
後日、ネムから聞いた話だが彼は元々貴族の端くれだったらしい。
ただ、親の不祥事が原因で没落してしまい、その地位を失ったことで、このBクラスに流れ着いたとのこと。
だから、初日喧嘩を振ってきたのだろう。
八つ当たりみたいな感じで。
まあ、彼はBクラスに来てすぐに合同訓練だったらしく、親しい友人も居なかったらしい。
敗北した金髪の彼はそれ以降、不登校になった。
自主退学をするのは時間の問題だろうな。
グラウンドに着いた私はAクラスの集団を発見する。
Bクラスに比べて、やる気に溢れている生徒が多いのは気のせいだろうか…。
ちなみに前回の模擬戦は公平さを期すため、魔法は未使用であった。
Aクラス対Bクラスの模擬戦だったから。
Aクラスの担任の先生が点呼を行う。
「は~い、注目。みんな好きなように戦って下さいねぇ。以上~」
と呑んだくれの女教師が雑な説明を行う。
この先生は私たちBクラスの担任だった人で、編入試験も担当してくれた先生だ…。
前回の合同訓練の翌日登校すると、何故かAクラスの青年の教師と入れ替わっていた。
「はぁっ…リリー先生。わたくしが残りの説明をするので、日陰で休んでおいて下さい」
私たちのBクラスの担任は軽く嘆息した後、説明を代わりに行うようだ。
いやいや、リリー先生…。
ちゃんとそこは仕事するべきでは…。
同じような光景を何度も見るから驚きはしないけれど、よくそれで教師が務まるなと逆に感心してしまう。
リリー先生の懲戒解雇と不登校になった彼の退学、どちらが早いことやら…。
「試験は前と同様に模擬戦を行います!ただし、今回は違うクラスの人とペアを組んで下さい。二対二の模擬戦が試験の内容です!」
青年教師が説明を始めた。
「えー、マジかよ!」
「だりぃなあ、たくっ…」
Aクラスの人たちは顔を軽く眉を顰める者もいたけれど、Bクラスの面々からは不満の声が上がった。
「はーい、今回は必ず誰かとペアを組んでもらいますからね」
青年の教師はBクラスの男子生徒を嗜めると、パンパンと手を叩く。
「どうしてもペアが組めそうにないなと思う方は、用意したくじ引きで決めてもらって構いませんから」
と助け舟を出してくれる。
大半の生徒はくじ引きにしようと考えているのか、中々その場から動かなかった。
Aクラスの人混みの中から赤髪の女の子が、こちらに歩み寄ってきた。
距離が遠くて顔がはっきり見えなかったけれど、近くで見るとはっきり確信できた。
面識は無かったけれど、ネムの双子の姉だろう。
「ルリちゃん良かったらペア一緒に組まない?」
ネムと同じ赤髪で可愛らしい女の子が話しかけてきた。
妹と大きな違いがあるとすれば、髪型はショートカットで、紅葉色でキリッとした力強い瞳が印象的だ。
「私、ネム姉のツバキ!よろしくね!
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