悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田

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第一章 力の覚醒

21話 編入試験

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 宿泊先はアレク様の屋敷から目と鼻先にある宿屋で寝泊まりする事になった。
 宿の名前は『猿の宴』ってところだ。

 襲撃者のこともあったので、アレク様の別邸に案内される予定だったけど…。
 急遽きゅうきょ、客人を招くことになり泊まれなくなったらしい。
 別邸にも寝室はそれなりにあったらしいのだが、客人の要望で全て貸切になったそうだ。

 私は元々宿屋に泊まる予定だったから特に問題無かった。
 ただ、珍しく刺々しい雰囲気のマリアさんを見たのは驚きだった。
 あのマリアさんがあんな態度を取るってどんな人物なんだろうな?

 とりあえず、村長から受け取った金貨のおかげで無事に宿は確保できた。
 余っている部屋の中で一番安い部屋を選んだけど、想像以上のお値段だった…。
 
 手元にある金貨を数えたら全然、余裕で支払える額だ。
 でも、収入も無いのに散財をして金銭感覚が狂うのは避けたい。

 階段を上って、二階の部屋に上がる。
 室内に入ると簡素な木製のテーブルと椅子が一つずつあり、シングルベットが一つ設置されていた。

 私は軽くシャワーを浴びて、ベッドに寝転がる。

 とりあえず、明日は編入試験だ。

 合格しないとね!
 実技試験がないのは助かるけど、筆記試験は少しだけ心配だな。
 もし落ちてしまったら…。
 その時考えるか…。
 
 休憩をしたら一階の食堂に行こう。
 受付をしていた時、美味しそうな香りが漂っていたからね。
 


 目が覚めると少し室内が暗かった。
 部屋を明るくして、時計を眺める。

 二時間くらい仮眠をしてしまったようだ。
 
 部屋を出た私は階段を降りて、食堂のカウンターのすみっこに座る。

「お嬢ちゃんは日替わりメニューでいいのかい?」

 見た目が四十歳くらいのおじさんが笑顔で尋ねきた。

 受付の時、たしか説明があった気がする。

 日替わりメニューの場合は、宿の料金に一緒に含まれているからお金を支払う必要がないんだっけ?
 まあ、一日一回限りの特典らしいが。
 
「日替わりメニューでお願いします!」

 余計な代金を払わないでいいのなら、日替わりメニューがいいよね。

「はいよ!」

 マスターはこの厨房一人で回しているみたいだ。
 
 テーブルに置かれた水を飲んでいると、一つ離れた空席にお客さんが座った。

「いつものやつ頼むよ…。はぁ…」

 客は覇気のない疲れきった声で注文を頼むと、深く溜息を吐いた。
 調理中のマスターが席に着いた彼の様子を気に掛ける。

「もしかして今日、あのお方がいらっしゃっているのかい?」

「ええ、ビーセント様の屋敷に今日はゼシルお嬢様がお泊まりになる様です」
 
 ビーセント…。
 あぁ。
 アレク様の屋敷に泊まる客人の事か。

 なるほど。

 ゼシルお嬢様?
 彼女が屋敷に泊まるから、私は宿泊できなかったのか。

 まあ、ご令嬢に反感を買うのは避けたいし、この宿に泊まるので充分だよね。

 私は横目でチラッと、横に座った客を確認する。
 疲れきった様子の客は執事のような格好をしていた。
 二十代くらいの若い青年のようだ。

「それは災難な日ですなぁ。今日は特別に焼豚大盛りにしてやるから元気だしな!」

 いいなぁ、大盛り。
 私も次来るときはわざと落ち込んだふりで来てみようかな。

 マスターはガッハッハッと豪快に笑って、元気の無い青年を慰めるのであった。


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇


 編入試験の当日。
 私は学園の近くまでアレク様の馬車で送迎してもらっていた。

「学園の中までお供しましょうか?」

 馬車の中でマリアさんは笑みを浮かべて提案してくれる。

 気持ちは嬉しいけど、平民クラスの私が公爵家の馬車から降りるのはよろしくないだろう…。
 下手に注目される必要もない。
 私はマリアの提案を丁重に断った。

 ちなみに今日は学園はお休みだから、アレク様は乗車していない。

「それでは編入試験、頑張って下さいね!」

「はい!行ってきます!」

 気合いの入った返事をして、私は馬車を降りた。

 合格できるように頑張らないとね。

 私は坂道の先にある学園を眺めた。
 遠目から見ても分かるほど大きな学園だ。
 この緩やかな坂道を真っ直ぐ進めばいいのだろう。

 道なりに沿って五分ほど歩くと、門の前に辿り着く。
 視線の先には二十代前半くらいの女性が門にもたれ掛かっている。
 
 んー?
 多分、教師なのかな…。
 
 身長は私より頭ひとつ分くらい高い。
 ロングの黒髪で、大きくパッチリした二重なのだが、目の下にある大きなクマが目立つ。

 ヨレヨレになったシャツとしわが刻まれたズボン。
 綺麗な顔立ちが台無しだった。

 「この学園の先生でしょうか?」

 教師の身なりにしては些か不健全すぎる気もするが、他に周りに誰もいないのでとりあえず訊いてみる。

 「ああ…そうだぞ…」

 一応ここの教師みたいだ…。
 服装然り、若干顔色が悪いのも気になるけれど。

「今日、編入試験を受けさせて頂くルリと申します」

 私は手に持った受験票を彼女に渡した。

「ああ、キミが例の編入生なのか。こちらに着いて来なさい」

 酒焼けかな?
 しゃがれた声で手招きされた私は彼女の後ろを付いていく。

 勿論、私は落胆した様子は見せていない。
 先生とは全く思えない雰囲気だけど、もしかしたら抜き打ちの面接が始まっているのかもしれないのだから。
 
 この学園はよほど、人手不足なのかな…。
 仮に合格しても、他の先生が担任だといいなぁ。

 小部屋に案内されたので、そのまま室内を眺めた。

 部屋の中央に小さなテーブルがある。
 テーブルの上に青い水晶が置かれており、水晶は白い布に少し包まれていた。

「本来であれば筆記試験が課された上で、あの水晶に触れるのだが、うぷっ。
 特例で筆記試験は免除とする。あの水晶を触ってきなさい」

 気持ち悪そうな口調で先生は告げた。
 一瞬、吐きそうだったよね…。

 酒臭い息が鼻を刺激したけれど、頑張ってスルーした。

 あれ?
 それよりさっき…。
 筆記試験は免除するって言わなかったけ?
 さらっと聞き流しそうになったけど…。
 
「筆記試験はしなくてよろしいのですか?」

「ああ、そうだ」
 
 先生に催促されたのはあまり気にならなった。
 それより、この状況は…。
 なんとなく察してしまった私は頬のあたりがピクピクした。
 間違いなくこれは貴族達が使う裏口入学ではないのか!?

 この場合、費用はどれくらい掛かるのかな。
 筆記試験も免除されるってことは余計にお金が掛かったりして…。
 アレク様に提案された時に訊くべきだった。

 普通の編入試験と臨んでここに来たけれど、恐らくマリアさんが推薦入学にしたのだろうか。

「アレに早く触って終わらせてくれないか?体調が悪いのでな…」

 んー。
 入学後、これがきっかけで虐められるのは嫌だなぁ。

 とはいえ、後日、改めて編入試験をしてもらえる保証もないしな…。
 この人に訊いても怪しそうだし…。
 しょうがない。
 このまま素直に試験を続けよう。
 
「分かりました」
 
 水晶に近付き、触れる前に軽く観察する。
 30センチくらいの大きさの球体で、表面はさざ波のような模様がうねっている。
 水晶を半分くらい覆っている布は黄ばんだシミがあるけれど、その他に気になる点は見当たらない。

 先生のゲロが付いた布じゃないよね。

 私は見なかったことにして水晶に触れた。
 けれど、何も起こらなかった。

「良かろう。今日はもう帰っていいぞ」

 先生はさらっと告げて、部屋から退室した。

 え、これで終わり?
 せめて水晶を触った理由くらい説明があってもいいんじゃないだろうか。
 試験内容がこの一つなら…。

 まあ、この水晶は恐らく魔力を測る道具だと思う。
 恐らくね。

 村長が持っていた書物に記載されていた気がする。
 
 そういえば水晶が光らなかったということは、やはり私は魔法は使えないってことだ…。

 先生も戻ってこないし。

 あの教師はトイレにでも吐きに行ったのかな…。
 ここに一人取り残されて、数分は立ち尽くしてしまった。
 
 私は重い足取りで帰路に着いた。

 翌日マリアさんに、

「無事、合格できて良かったです」

 と、祝福をされた。

 嬉しくないと言えば噓になるが、気掛かりなこともあるからそこまで浮かれた気持ちにはならなかった。

 マリアさんに祝福されたとき、学園にかかる費用も尋ねたけれど、

「メイド風情なので分からないです。あまり気にしなくてもよろしいかと思います」
 
 とはぐらかされてしまった…。
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