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第二章 学園編
33話 因縁の騎士
しおりを挟む「今回はどのような用件でしょうか?」
「とりあえず二人ともソファーに掛けて」
アレク様が私に微笑みかけてくる。
「わかりました!」
アレク様の屋敷にある談話室に入った私はマーベルと一緒にソファーに座る。
「マーベルが強くなるために日々、訓練しているってマリアから聞いたんだけど合っているかな?」
「おう…。一応、自分なりに考えて訓練はしているぜ」
マーベルはいつもより元気がなく、弱々しく声で返事をする。
私の憶測だが実力がなかなか伸びないから落ち込んでいるのだろう。
マーベルの気持ちはなんとなく理解できるが、いきなり強くなれたらみんな苦労はしない。
「もし、マーベルが本当に強くなりたいなら、僕が力を貸すことが出来る」
「そ、それは本当なのか?」
俯いていたマーベルが顔を上げ、真剣な表情でアレク様を見つめる。
「直接、僕が指南する訳じゃないけどね」
「そうなのか!なら、オレはアレクの力を借りたい!よろしく頼むぜ!」
「そうか…」
アレク様は一拍置いて、大きな声で呼びかける。
「ロイ、中に入って来てくれ」
「失礼します!」
談話室の扉が開き、騎士の格好をした四十くらいの男性が現れる。
青髪短髪で180センチくらいはあるだろうか。
薄茶色で切れ長の瞳だが、右目周辺に傷を負っている。眉山から鼻にかけて一筋の傷があるせいで、威圧感が増している。
あれ?
この人は…。
私は唾を飲み込み、マーベルに視線をやる。
私以上に動揺を隠せないのか、いや隠すつもりはないのかもしれない。
さっきまでの表情と打って変わって、剣呑な目つきで騎士を睨んでいる。
「マーベルは本当に強くなりたいんだよね?であれば、近衛騎士団隊長のロイに剣を教えてもらうのはどうかな?」
いつものアレク様は優しそうな雰囲気も垣間見えるのだが、今はあえて挑発的な態度でマーベルに問いかけていた。
わざと怒らせようとしているようにも見えた。
マーベルはすぐには答えず、唇を噛み締めて騎士を睨んだ。
それもそうだろう。
目の前にいるこの人は、三ヶ月前私を攫ったからだ。
アレク様から謝罪を頂いたけれど、私も彼から謝ってもらった記憶はない。
全く腹が立たないと言えば嘘になるが、時間がわりと経過したこともあり、今はさほど怒りは込み上げてこなかった。
一言くらい騎士から謝罪があってもいいんじゃないのかな?
っては思うけど。
ただ、それよりも気になることがある。
それは。
どうして、今頃になってこの場を設けたのだろうか?
幾らでも謝る機会はあっただろうに…。
それにわざわざ、この人がマーベルを直々に指南する必要があるのだろうか?
彼は三大公爵家の近衛騎士団の隊長だ。
日々の護衛然り、業務は山ほどあるだろう。
私は口を挟もうしたけれど、アレク様が鋭い視線で私を射抜く。
やはり。
何か意図があるのか…。
そっと見守っていると、マーベルがアレク様を睨む。
「どうしても、この人じゃないとダメなのか?」
やはり、マーベルは怒っているようだ。
どうにか昂った感情を抑えているようだけど。
「ああ、三ヶ月前、彼が二人に迷惑を掛けたのは覚えている…。あのような事が起きてしまったのは非常に申し訳ない。ただ、マーベルが心の底から強くなりたいなら彼に教えを乞うのが最も近道で、確実な方法だと思う」
「……」
「強要するつもりは無いし、断ってもらっても構わない。これまで通り一人で訓練して、少しずつ強くなるのも良いとは思う」
多分、マーベルはこの誘いを断るだろう。
変に頑固なところはあるし。
それに学園に編入する時も反対していた。
この騎士が所属している所に頼るのは反対だと。
もし、私が攫われていなければ、こうも難色を示すこともなかっただろう。
「正直、オレはこの騎士を頼るのは抵抗がある。手違いでルリ姉を連れ去ったのかもしれないけど、オレはまだあの時こと根に持っている…」
うん。
やはり、マーベルはそこに腹が立っているみたいだ…。
私としては危ない道を推してやることは避けたい。 このまま誘いを断ってくれたら助かる。
「けどな…。悪党がルリ姉を襲った時に守れねえのはもっと嫌だ!オレはもっと強くなりたいから、指導をお願いします!!」
マーベル…。
私はマーベルのことを侮っていたのかもしれない。
しっかり敬語でお願いしていることにも関心したけど…。
そこまでして、強くなりたいのね。
また、あんな大怪我を負うかもしれないし、最悪の場合は死ぬことだってあり得るのに。
「ロイ。どうかな?マーベルの熱い気持ちは伝わったし、忙しいとは思うけど頼めないかな?」
「かしこまりました。ですが、私もお二人に謝罪したいので、それからお話を進めるのでも宜しいですか?」
「ああ、勿論。ボクの方こそ、キミに協力して貰ってこのような形で再会することになってごめんね。ロイにはいつも助けてもらっているのに」
ロイは私達に向かって深く頭を下げた。
「ルリ様を攫って、マーベル様に危害を加えたこと深くお詫び申し上げます。謝罪も大変遅れてしまい、重ね重ね申し訳ございません」
「いえ、過ぎたことですからお顔をあげて下さい。それに私たちに敬語は不要です」
謝罪を受け入れた私はアレク様に視線を戻す。
何か理由があるのだろう。
取り敢えず、アレク様の話を聞こう。
「ロイの事を説明してから、マーベルを誘う方法もあったんだけどね。マーベルがどれくらい強くなりたいのか確かめたかったから、このような形で図らせてもらったんだ。ごめんね」
「お、おう」
戸惑いを隠せないマーベルに、私も会話に加わる。
多分、話しかけてもいいだろう。
「いえ、それは全然大丈夫です。私もマーベルの意気込みが知れたので良かったです。ただ、他にも私達に何かお話があるのですよね?」
「うん…そうなんだ」
アレク様の表情が曇る。
どうやら、思ったより深刻なお話があるのかもしれない。
少しの間、考え込んだアレク様は口を開いた。
「ルリの家族について教えてくれないかな?」
「…」
私はすぐに返事ができなかった。
他人に話す時は、マーベルと家族のフリをしている。
だから、今まで通り血の繋がったフリをしていれば良いのだけど、何故か今は嘘をついていけない気がした…。
「何故、私の家族のことが気になるのでしょうか?」
アレク様の理由を尋ねてから、どう切り出すか考えよう。
「うん。確か母親の名前ははタリーシャだっけ?」
そういえば牢屋にいた時、ロイにそう告げた気がする。
タリーシャはマーベルの母親だけど…。
「そう…ですね」
アレク様に嘘をつくのは抵抗があったけど、首肯する。
「そのネックレスは本当に盗んでいなくて、本当に母親の形見なのかい?」
「はい…」
これは真実だ。
村長もネックレスの事は何も言っていなかったからこれは秘密にしなくていいと思う。
「もう一回、ロイにネックレスを見せてくれないか?」
「分かりました…」
私は服の内側からネックレスを取り出して、首から外した。
真ん中に赤い宝石が嵌められているだけで、他にも目立つ特徴は無い。
ロイにネックレスを差し出す。
「…ξεκλειδώνω」
ロイはネックレスを握って、小さな声で謎の詠唱した。
すると、赤く輝いていた宝石が瑠璃色に変化したのだ。
「え?」
驚きのあまり、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
恥ずかしい…。
隣にいたマーベルもギョッと目を丸くしていた。
「このネックレスは昔、わたしが姉に誕生日プレゼントで贈った品なんだ…」
ロイが懐かしむような、憂いを帯びた眼差しで呟く。
ロイの姉に贈ったもの…?
実のお姉さんだろうか。
え…。
それって…。
「ちなみにそのネックレスはエルフの里で加工してもらったモノらしい。詠唱すると宝石の色が変化するように細工されてあるから」
アレク様が駄目押しをする。
エルフ…。
私は時間が止まったかのような錯覚に陥る。
今、アレク様はハッキリとエルフの里と言った。
私の母はエルフだ。
最近、記憶が戻ったことで知った内容だが…。
「……」
「恐らくだけど、ルリの本当の母親はタリーシャではないよね?」
「…はい。その名前はマーベルの母親です」
「やっぱりそうだったんだね。昔、キーシャに住んでいた人達からも聞いたけど、ルリは一応、村長の孫って扱いだよね?」
「はい…」
「こちらもロイの素性を明かしたから、教えてくれないだろうか?」
「分かりました…。嘘をついて申し訳ありません。
本当の母親は…。サラです」
正面にいるアレク様は落ち着いた様子で頷くが、ロイは驚愕していた。
私の母と仲が良かったのかは知らないけど、目の前にいるのが姪と知れば驚くの必然だろう。
「サラはもう…いないのだろうか?…」
ロイは沈痛な面持ちで尋ねてきた。
ここまで来たら真実を話した方がいいだろう。
私の実の叔父でもあるのだから。
「はい…。私が六才の時、自分の命と引き換えに亡くなりました」
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