37 / 57
第二章 学園編
36話 お祭り ②
しおりを挟むこんな狭い空間にアレク様と二人きりになるとは思わなかった。
私は何か話さないといけないと思いつつ、なかなか言葉が見つからない。
窓の外を眺めていた私はこっそりアレク様を盗み見る。
この外見はずるい。
黒髪はとってもサラサラしているし、黒曜石のように輝く瞳を見つめると吸い込まれそうになる。
スッとした鼻梁から視線を下に移すと、瑞々しい柔らかそうな唇もー。
いかん。いかん。
私には釣り合わないなのは分かっている。
だけど、心のどこかで淡い期待を寄せている自分がいることに、最近気付いてしまったのだ。
アレク様とあまり話す機会はないがこのように特別扱いされるとどうしても意識してしまう。
マリアさんが仮に仕組んでいたとしても。
どうしてこんなに特別扱いしてくれるのですか?
と、素直に理由を訊いたらいいんだけど、中々その一歩が踏み出せない。
もし私が理由を訊かずに、今みたいに甘えていてもこの関係性は続くのだろうか?
「最近、調子はどうかな?」
思い耽っていると、アレク様が優しい眼差しで尋ねてきた。
「はい!学園生活も慣れてきて、日々楽しく過ごしています!」
「それは良かった。学園で気になることや変わったことも起きてないかな?」
「いえ、特には…」
アレク様は一瞬険しい表情を浮かべたけれど、かぶりを振って微笑んだ。
「ううん、何もないならいいんだ」
うーん。
もしかして、アレかな。
編入してイジメられてないか、気にしてくれているのだろうか?
幸い編入してから特にそういった嫌がらせはされていない。
疎外感を感じる時もたまにあるけど、それは私が積極的にクラスメイトに話しかけていないせいだろう。
「あの、アレク様はお祭り好きですか?」
「うん。小さい頃から毎年お祭りに参加するくらい好きだよ」
アレク様が微笑して返答する。
その笑顔も相まって、不覚にもキュンとしてしまった…。
好き…。
お祭りが好きなだけで他意は全くないはずなのだが、勝手に脳内変換しそうになる。
だめだめ!
私に乙女心なんて似合わないんだから!
今までイチゴ一筋だったでしょ!
少し優遇されたぐらいで調子に乗ると痛い目を見るんだから。
そう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせようとする。
すると、タイミング良く馬車が停車した。
良かった…。
これ以上、密室に二人きりでいると良くない思考のループに入る所だった。
「ルリはお祭りに参加したことあるの?」
「いえ、無いです。…だから凄く楽しみです!」
そうだ。
アレク様を意識してしまうなら、お祭りを楽しむことに集中しよう。
馬車の扉が開き、マリアさんが一礼した。
「今年はここから先、規制が入っているので停車しました」
「そうみたいだね。ここからは歩いて行こうか」
アレク様が先に馬車から降りて、手を差し伸ばしてくれた。
「ありがとうございます」
私はお礼を告げて、軽く手を重ねて馬車を降りる。
アレク様の手は私より一回り大きく、とても温かかった。
見た目とは裏腹に手のひらには固いマメが幾つもあり、日頃から剣の修練をしているのも同時に窺えた。
「ルリは何か食べたいものある?」
「んー…」
食べたいもの…。
そうだなぁ。
イチー。
「イチゴ飴の屋台はあそこに見えるから行く予定だからね?」
どうやらお見通しのようだ…。
他に食べたいものかー。
屋台には何があるのかな?
「アレクは何か食べたいものはありますか?」
「んー。そうだなー。ちなみにルリは苦手な食べ物とかある?」
「特には無いかと。強いて言えば、カラ…。
いえ、何でもありません」
危うくカラマイタケと口を滑らすところだった。
ここで魔草の名前を告げたら、アレク様に引かれていたかもしれない。
「とりあえずイチゴ飴買いに行こうか」
「お願いします!」
「私は馬車を屋敷に預けるので、お二人で楽しんできて下さい!」
マリアさんはそう言ってこの場を離れようとした。
ん…。
あれ?マリアさん!!
陰からサポートしてるはずでは!?
三人でお祭りを楽しみながらフォローしてくれるんじゃないんですか!?
「マリア!屋敷に戻る前に、マーベルにお土産でも買って渡してくれないかな?」
「かしこまりました!」
マリアさんは快く承諾すると、人混みの中に消えていく。
ちょっとマリアさん!!
屋台で何か買うならその間は一緒に行動しても良くありませんか!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まずはここかな?」
私はイチゴ飴を食べながら、アレク様に案内された屋台に目を向ける。
大きな水槽の中に金魚が泳いでいた。
「毎年、屋台に来たら金魚すくいをするんだよね」
金魚すくいって何だろう?
「お!アレク様!!いらっしゃいませ!!!」
髭を生やした中年の男性がアレク様に声を掛けた。
「ジルさん、ポイを二つ貰えますか?」
「かしこまりました!」
どうやら、店主とアレク様は知人のようだ。
ジルさんは小箱からポイと呼ばれたモノを二つ取り出し、アレク様に差し出した。
ポイと呼ばれたものは木製で出来ており、魔法薬学の授業で使用するルーペみたいな形状をしていた。
ルーペでいう、レンズのところには薄い円形の紙が貼られてたけれど。
「今年もアレク様が勝利するのですかね?」
「ああ、今日はマリアは不在なんだ」
アレク様がこちらに視線を向ける。
自己紹介をした方がいいだろう。
「初めまして。ルリと申します!」
深く腰を折り、挨拶をする。
雰囲気的に彼は貴族ではないと思うけど、もしかしたら商家かもしれないからね。
「私の名前はジルと申します。ルリ様、そんなに畏まらないで頂けますか?普段はフリージアの屋敷に仕える庭師なので」
ジルさんは私を様付けしている辺り、勘違いしているだろうな…。
「いえいえ、私も貴族ではありません。平民ですので、そんな遜る相手でもないので気軽に話して下さいね」
「そうだったんですね。凄く綺麗なので貴族様かと勘違いしちゃいました」
「あ、ありがとうございます」
「ルリから金魚すくいやってみる?」
隣にいたアレク様が尋ねてきた。
モノは試しだよね。
コツを訊いてから挑戦するのもいいけれど、せっかくだし思ったようにやってみよう。
「はい!私からいきます!」
んー。
どの金魚にしようか?
獲物が大きすぎるとすぐ紙が破れそう。
とはいえ、小さい金魚も俊敏なやつが多い。
アイツにしよう!
獲物を決めた私はゆっくり水面にポイを滑り込ました。
網の端っこでポイを引き上げるつもりだったが、小さな金魚はあっという間に私の包囲網を潜り抜けようとする。
はやい!!
けど、このルートなら!!
すかさず私も金魚の後をつけて、壁に追い込むことに成功した。
紙は少し破けているけど…。
少し卑劣な手段かもしれないけど、木枠を使って狙おう。
バレない速度で引き上げたらきっと大丈夫!
そのままポイを私は剣を振るうように素早く取り出した。
よしっ!!
取れた!!!
標的の金魚は無事に確保できた!
アレク様の方を思わず見ると、苦笑交じりに拍手していた。
ちょっと、ズルいですよね…。
流石にアレク様の目は誤魔化せないか。
「初めての金魚すくいでこの個体をゲットするのは素晴らしい腕ですね!こいつは小柄ですが、俊敏性はトップクラスです。なので、ほとんど捕れる人はいないんですよ」
「え!そうなんですか!?よかっー」
ジルさんに目を向けると私は言葉を失う。
敗れたポイの紙が見事にジルさんの頭に乗っかっており、水滴のせいなのか薄毛がより強調されていたからだ…。
「ジルさん本当にすみません!!!」
21
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
悪霊令嬢~死した聖女憎悪に染まりて呪いを成す~
女譜香あいす
ファンタジー
数え切れない人々をその身に宿す奇跡の力で救ってきた少女、サヤ・パメラ・カグラバ。
聖女と称えられた彼女であったが陰謀の末に愛した者から婚約破棄を言い渡され、友人達からも裏切られ、最後には命を奪われてしまう。
だがそのとき感じた怒りと悲しみ、そして絶望によって彼女の心は黒く歪み、果てにサヤは悪霊として蘇った。
そして、そんな彼女と世を憎みながらもただ生きる事しかできていなかった一人の少女が巡り合う事で、世界に呪いが拡がり始める事となる。
これは誰よりも清らかだった乙女が、憎悪の化身となりすべての人間に復讐を果たす物語。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について
水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】
千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。
月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。
気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。
代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。
けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい……
最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。
※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。
時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】
私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に——
※他サイトでも投稿中
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
2025/9/29
追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる