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第二章 学園編
38話 ゼシル兄弟
しおりを挟む「来月Bクラスと一緒に合同演習を行うが、今回は学園の外で行うからな」
リリー先生が教卓に両手を置き、苦しそうな表情で生徒達に告げた。
二日酔いが辛いなら、そこまでお酒を飲まなければいいだろうに。
私はお酒を飲んだことがないから理解できないけど、酒好きの人は皆こうなのだろうか?
「野外で演習を行うのはわかりましたが、実際、何をするのでしょうか?」
男子生徒の一人がリリー先生に質問を投げかけた。
それは私も気になる。
演習内容によっては危険が伴うリスクが異なるし…。
「あ~。それはだな…。たしか、カビラの森で訓練するらしいのだが……。詳細は後日、教える」
この反応。
間違いなくリリー先生は忘れただけだよね。
クラス一同、そう思ったに違いない。
まあ、今日の放課後にでもBクラスにいるネムに訊いたらいいか。
ネムの部屋は、私の隣だし。
「とりあえず、うぷっ…。朝礼は以上とする」
リリー先生はよたよたした足取りで、教室を出て行った。
トイレに間に合うといいですね…。
「ねえ、ツバキはカビラの森に行ったことあるの?」
私は右隣に座っているツバキに問いかけた。
「うん。たまに家の手伝いとかで足を運んだことはあるよ!だけど、よっぽどの事がない限り危険なモンスターも出現しないから、そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ!」
「そうなんだ!?」
私はそこが一番気がかりだったから安堵した。
カビラの森は、このキーシャ学園から東に十キロ先に向かうとある森だ。
下級とはいえ魔物が出現するらしい。
モンスターの討伐経験がない私は下級といえど全く侮れない。
ちなみに魔物にもランクがあり、下級・中級・上級・特級の4段階に振り分けられる。
「でも、カビラの森は……何でもないや」
何かを言いかけて、ツバキは会話を中断した。
心なしか顔色が悪い気がする。
「ツバキ…気になるから、何かあるなら教えてくれない?」
渋い顔になったツバキは軽く逡巡して、ボソっと呟いた。
「夜になったら森に出るんだよねえ…アレが…」
「アレ…?」
なんだろう…。
「うん…。お化けが出るらしいんだよ…」
お化けか…。
うーん。
別に私は怖くないかな。
だけど、ツバキは余程お化けが恐ろしいのだろう。
お化けと口に出した瞬間、自分の身体を両手で抱き抱えて身震いしているからね。
んー。
とはいえ、夜遅くまで演習はしないと思うけどな…。
リリー先生は演習内容を忘れていたけど、流石に野営するなら一言くらい説明があると思うし、気にする必要はないだろう。
それに、アンデッドやゴーストの類のモンスターもこの世界には存在する。
実物は見たことはないけど…。
だから、そんなにビビる必要もないのでは?
とは個人的には思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(これは流石にキツイぜ。
肉体的に…いや、精神的にもくるな…)
マーベルは今、座禅をしていた。
両足を曲げ、足の甲を反対の太腿内側に乗せて背筋を張っていた。
その体勢のまま、一切動けないのが余計辛い。
それに体勢が崩れると賺さず木の棒で叩かれるから余計にだ。
(木の棒の名前は忘れちまったが、これが凄く痛いんだ…)
「ひとまず休憩とする」
師匠の声が訓練場に響き渡る。
「「はい!!」」
マーベルは大声で返事をした。
声が重なったのはもう一人、隣にいたからだ。
師匠の合図があったため、マーベルは体勢を崩して楽な体勢になる。
(師匠はロイのおっちゃんではない)
今はまだ剣を握って訓練する段階でもなかったので、他の人が指導役を担っていた。
(目の前にいる人の名前は確か…。タラークだったかな。この人はロイのおっちゃんの部下らしい)
見た目は二十半ばくらいで、茶髪のすらっとした青年だ。
「デニムは今日の訓練はここまでいいだろう。マーベルは十分休憩の後、追加で一時間座禅を行ってもらう」
「ふっ」
隣にいた金髪の少年が鼻で笑った。
ジッとしているのも苦痛だったマーベルだが、それ以上に精神的にきていたのは彼のせいでもあった。
(どっかの貴族様らしいが、凄くムカつくだよな。顔はお世辞抜きでカッコいいし、頭もオレよりキレると思う。だけど、それ以外はクソだな)
デニムは師匠にバレないように陰湿な嫌がらせをしてきたり、人を馬鹿にしたような態度をいつも取っているからだ。
丁度、師匠はトイレにでも行ったのだろう。
だからなのか、彼はいつものようにマーベルにちょっかいを掛けてきた。
「いい加減、辞めたらどうだい?平民の癖にアレク様の近衛騎士に教えを乞うとか、図渦しいのがわからないのか?」
「お前には関係ないだろ。ほっとけよな」
「そもそも、碌に座禅も組めないのに強くなれる訳ないだろう」
「…」
確かに金髪野郎に言われる通り、マーベルは座禅中、何度も指摘されていた。
(こいつはこの一時間、師匠から注意される事はなかった。反対にオレは三回も棒で叩かれてしまった。
そのうちの二回はこいつが師匠の目を盗んで挑発してきたからだけどな…)
正直この訓練はマーベルには向いていなかったのかもしれない。
だからと言って、すぐに諦め逃げる気持ちも全く彼にはなかった。
(オレはここで強くなって、ルリ姉を守れる存在になりたいからな!)
「はあ、どうしてこんな奴と一緒に訓練しないと行けないのか。辞める事が言い辛いなら、ぼくが代わりにタラークに進言してあげようか?」
「その必要はねえ。何を言われても、オレから辞退することはないからな」
「そうかい。精々、僕の訓練の邪魔だけはしてくれるなよ。下民」
金髪野郎はそう言って、訓練場を後にしたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(ルリって子はそんなに特別な存在なのかしら?愛しいアレク様が篭絡されるとは思わないけれど、一緒にブドゥー祭りに参加していたのを思い出すだけで虫唾が走りますわ)
ゼシルは分厚いステーキをナイフで切り分けて口に頬張る。
(ほんと、腹が立ちますわ。あんな黒焦げた串、誰が食べてやるもんですか!)
噛むと一瞬で溶けてしまいそうな牛肉を咀嚼したゼシルは、ワインを一気に煽る。
「御姉さま。今日はやけに飲みっぷりがいいですね」
ゼシルは弟のデニムに視線をやる。
「そうかしら?今日は嫌な思いをしたから、お酒が進むのかもしれないわ」
「そうなのですか。ぼくも早くお酒が飲める年になりたいです」
デニムは席を立って、ゼシルの元にやってきた。
「ぼくがお酒を注ぐので、御姉さまはゆっくり食事を楽しんでください」
「そう。助かるわ」
デニムは普段より早いペースでワインを飲み干した。
「ふぅ…」
(少し飲み過ぎたわね。余った肉は犬にあげようかしら)
ゼシルは立ち上がり、部屋の隅にある檻に足を運ぶ。
檻は縦横一メートルほどで、鉄格子の中には亜人が横たわっている。
獣の耳が生えており、奴隷が身に着ける首輪が巻かれていた。
鉄格子の真上からデニムは皿を傾けた。
赤い肉汁と切り刻んで余った肉塊が鉄格子の隙間を通り抜け、横たわった亜人の頭に降りかかる。
「ほら。餌の時間よ。残さず綺麗に食べるのよ」
光を失った獣人の瞳と目が合うと、ゼシルは口角を上げて亜人に微笑みかけた。
デニムが後方から話しかけてくる。
「御姉さま自ら餌をあげる必要はございませんよ。いつもぼくが餌をあげると言っているじゃありませんか」
振り向いたゼシルは一瞬呆れ様子で、デニムを宥める。
「あなたはこの間も奴隷を一匹、餓死させたわよね?」
「あれは食事をしなかったアイツが悪いのです!」
「この子にはまだ死んでもらっては困るのよ。ナタリーが大人しく従うのは姉のコイツが囚われているからなのは知っているわね?」
「分かりました…」
(まあ、ナタリーには期待しておこう)
王子の弟ギイルからはルリに手を出すなと言われていた彼女だが、約束を守るつもりはさらさらなかった。
(私の愛しいアレク様に唾をつけていたのだから容赦致しませんわ)
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