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第二章 学園編
41話 野外演習 ②
しおりを挟む野外演習の前日、ナタリーは、学園の門を抜けてとある場所に向かっていた。
(本当はあんな場所行きたくない。
だけど、大切な姉が囚われているから一人で逃げる訳にはいかない)
重い足取りでナタリーは歩いていると、路上に停まった馬車が視界に入る。
馬車の真横を通り過ぎるとき、窓ガラスに自分の顔が映る。
「はぁ…」
(なんて無様な顔をしているのだろう)
学園を出て、三十分くらい徒歩で移動すると目的地に到着する。
ナタリーは門の前に立っている年配の兵士に声を掛けた。
「ナタリーです。ゼシルお嬢様にご報告があって参りました」
兵士は軽く会釈して、すぐに開門してくれた。
本来なら、検査を行って許可が下りてから敷地に入るのだが、彼女がここを訪れるようになって三か月ほど経つと、検査が省かれるようになった。
毎日この屋敷に訪れているから手間になったのかもしれない。
敷地にいる使用人がナタリーの存在に気付く。
彼女と視線が合うと、気まずそうに使用人は目を逸らしてどこかに駆けていった。
恐らくだが、ゼシルに報告しにいったのであろう。
ナタリーはそのまま屋敷の入口で少し待機していると、ゼシルが視界に入った。
いつものように彼女は土下座の体勢になる。
「今日は報告に来るのが少し遅いわね」
ゼシルは冷ややかな声で告げると、ナタリーの背中を踏みつけた。
ヒールが肉に食い込み、痛みが走るけれど、彼女はグッと堪える。
(これくらいの痛みどうってことない!
姉の方がもっと過酷で、惨い仕打ちされている筈なのだから)
「ルリに関して、何か掴めたかしら?」
「いえ、特にこれとー」
先程より、鋭い痛みを感じたナタリーは言葉に詰まり、歯を食いしばった。
機嫌がすこぶる悪いのか、ゼシルはいつもより踏む力が強かった。
(もしかしたら、とても気に障ることが最近あったのかな?私が理由で機嫌が悪い場合は必ず直接言ってくるし…)
「まぁ、いいわ。明日行われる野外演習でルリに仕掛けてくれたら、それで構わないわ」
「具体的に私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「ルリを殺して頂戴。犬のあなたには造作もないことよね?首を噛みちぎれば良いのだから」
「…。かしこまりました」
こみ上げてきた怒りをぐっと堪えて、ナタリーは返事をした。
(私は犬ではない!れっきとした狼の獣人だ。姉が捕虜になっていなければ、お前の首なんて一瞬で嚙みちぎってやるのに)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナタリーは翳りのある表情を浮かべており、気になった私は尋ねた。
「体調でも悪いの?」
「ううん、少し考え事してだけだよ」
かぶりを振ったナタリーは軽く微笑んだ。
「そっか。もし気分が悪くなったら遠慮なく言ってね」
見た感じ体調は悪くなさそう?
ということは、精神的に何か辛いことがあったのかなー?
「そうする!あのさ、ルリちゃんに訊きたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいよ。私に答えれる事であれば!」
なんだろう?
ナタリーは真面目な顔になって私を見つめる。
「もしもの話だからね。もし、自分にとって大切な人が捕虜になっていたとして…。
その人を救うためには、悪事を働かないといけない場合、ルリちゃんならどうする?」
うーん。
悪事を働くか…。
思ったより、難しい質問だな。
人によって善悪の基準は違うし、絶対に正しい答えはないと思うけれど。
「ちなみに、どんな悪さをするの?」
「んー…。そうだな…。あんまり自分と関わり合いがない赤の他人を傷付けるとか?」
「つまり、見ず知らずの誰かを殴ったり蹴ったりして怪我を負わすってことかな?」
「まあ、そんな感じだね」
なるほど。
わりと際どい質問だな…。
軽く逡巡して、私は考えことをナタリーに伝える。
「人質を取った人物と交渉が出来たら一番良いんだけど、どうしても無理なら…。私は人質を優先するために誰かを殴るかもしれないかな。実際その立場になってみないとわからないけどさ!」
「もしも、相手を殺さないといけなかったらどうする?」
「それは、難しい質問だね…」
「そっか!…。なんか、変な事聞いてごめんね」
「ううん、大丈夫だよ」
選択の余地が無ければ人質を優先するか…。
さっき自分で口に出したけれど、私は非情な人間だよな。
流石に見ず知らずの人を殺めるとかであれば、話は変わってくるけど。
例えば、悪党が盗んだ物を取り返してこいって命じられたら、私は素直に応じてその悪党を懲らしめるだろう。
悪党って条件はズルいか。
まあ、もしそうなったらその時考えればいいのかな…。実際の状況も分からないのにアレコレ考えてもしょうがないよね…。
「ねえねえ、さっき川で捕った魚でもあそこで食べない?」
先頭を歩いていたツバキが振り返ると、皆に尋ねた。
「そうだね。丁度。お昼時だしそこの空き地で焼いて食べたらいいと思う!」
私はツバキの提案に賛同して、草木があまり生えていない場所に移動した。
軽く食事を済ませた私たちは次の目的地について話し合い始める。
「今日寝るところは明るいうちに見つけたいよね」
ネムが発言すると、ツバキも同意した。
「そうだね!暗くなる前に寝床は確保したいよね。なんかいい案ある?」
「雨風が凌げるところがいいよね。この中で土属性魔法が使える人いるかな?」
私はみんなに問いかける。
土属性の魔法が扱える場合、自分たちで簡易的な寝床を作れるからだ。
「私は火魔法がメインだから使えないかな。ネムも風魔法しか使えないし。ナタリーは?」
「申し訳ないけど、無属性魔法は割と得意だけど、四大魔法は苦手なんだ。ごめんね」
ナタリーは困り顔でツバキに返答する。
「ルリも土魔法は使えないよね…」
ツバキが肩を落としながら呟いたので、私も少しだけ申し訳ない気持ちで言葉を返す。
「ごめん…。風と水魔法が少し使えるだけで土魔法の適正は無いんだ…」
「だよねえ…。ん?ルリって二種類の魔法が使えるの?」
「う、うん」
「うそ…。めちゃすごいじゃん!」
ツバキは目を丸くすると、その後私の肩を掴んで褒めてきた。
ネムとナタリーも驚嘆している。
「模擬戦で魔法はまだ使ってなかったもんね。どっちも初級魔法が少し使えるだけで、大したことは出来ないよ」
私は軽く謙遜したけれど、それでもツバキはそれでも称賛してくる。
「三大貴族とか王族なら複数魔法が使えても不思議じゃないけど、平民の生まれで扱えるのは凄いことだよ!」
やっぱり、二種類も魔法が扱えるのはとても珍しいことらしい。
母がエルフだったからその遺伝を引き継いだのだろう。
本当はこの場で、親がエルフだったから魔法が複数使えるだよねと言いたいけれど、やめておこう。
「とりあえず、寝床は洞窟みたいなところでいいんじゃないかな?」
このまま深堀りされてもあれなので、私はさっきの話題に軌道修正した。
「そうだね。お宝の方向に向かいながら、良さそうな寝床があればみんな教えて!」
ツバキが話を締めくくると、私たちは出発の支度を始めた。
昼食を取った地点から南西に二時間くらい歩くと小さな洞窟を発見する。
「あ!いいんじゃない?そのまま洞窟の中に進むからみんな付いてきて!」
ツバキの指示に従い、他のメンバーも後ろを付いていく。
火魔法が使えるのはこういう時、便利だな。
ツバキの手元から淡いオレンジ色の光が放出されているので洞窟内は明るかった。
洞窟の長さは十メートルも無かったので、少し歩くとすぐに行き止まりになる。
骨の残骸などがあれば魔物の住処の可能性も高いけれど、洞窟の中には何も落ちていなかった。
「この洞窟を寝床にするのでいいんじゃないかな?」
「そうだね。ナタリーもルリもそれでいいかな?」
「いいよ!」
私はツバキに同意して洞窟を出た。
軽く見回すと夕日が木々を照らしていた。
日没までに寝床が確保できたのは良かった!
「近くに山菜があったからナタリーと採取してきていいかな?」
「もちろん!」
ツバキに確認すると、あっさり承諾してくれる。
全く会話に加わらないがそういえば冒険者のサトルさんもいた。
冒険者の彼は私たちに付き添ってくれるようだ。
もし私たちが遭難した場合、洞窟に戻れるように手助けしてくれたらいいな。
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