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第二章 学園編
43話 野外演習 ④
しおりを挟む「火球」
ツバキが魔法を発動すると、彼女の手元から火の球体が発生して、そのままゴブリンに向かって発射された。
三匹いるゴブリンのうち一匹に着弾すると、火球を受けた標的はそのまま地面に倒れ込む。
すると、生き残っているゴブリンたちが憤慨して、こちらに向かって走ってきた。
「片方は私が処理するから、もう一匹はルリが対応してくれる?」
「りょーかい!」
ナタリーの指示に応えて、私は向かってくるゴブリンを見つめる。
私の間合いにゴブリンが入ってくると、刃こぼれしたナイフを振るってきたので、すかさず剣で攻撃を弾く。
あれ?
全然、目で追える!?
これくらいの攻撃速度なら容易に防ぐことができそうだ。
それに、向こうは刃こぼれしたナイフだが、私が握っている武器はしっかり研磨されている剣だ。
武器の長さもこちらに分があるし、これならいける気がする!
たが、魔物討伐はそんなに甘くは無かった。
五分くらい経過したけれど、ゴブリンも私もほとんど無傷であった。
理由は明白だ。
いざゴブリンを斬ろうとすると、私は躊躇っていたからだ。
ひらすら攻撃を捌いているとゴブリンが醜悪な笑みを浮かべる。
何か言葉を発した訳じゃないけど、
『貴様じゃオレを殺すことは出来ないぞ』
と、ゴブリンの表情がそう物語っていた。
私は不覚にも動揺してしまい、身体が一瞬硬直してしまった。
ゴブリンはその隙をついた。
私は肩から肘にかけて、あっさり攻撃を受けてしまう。
痛みもあったけれど、悔しさのあまり思わず唇を強く噛み締めた。
傷口をチラッと確認する。
痛いけど我慢できないレベルじゃなさそうだ。
視界の隅にナタリーの姿が映ったので、一瞬彼女の方にいるゴブリンを確認すると死体が転がっていた。
となると、残りは一匹なのだが。
もしここで目の前にいる魔物を討伐できないのなら、この先、冒険者の道を進むことは厳しいだろう。
E級のゴブリンに苦戦するようじゃ尚更ね。
私は剣を強く握り直すと、改めて直線上にいるゴブリンを注視する。
ゴブリンは私に一太刀いれたのがよほど嬉しかったのだろう。
醜悪な笑みを浮かべなから、じっとこちらの様子を眺めていた。
私が躊躇していたから、攻撃をくらったのだ。
目で追える速さだったのに。
正面にいる魔物は敵なのだ!
覚悟を決めないと!!
再び間合いをつめた私はゴブリンに向かって全力で剣を振り下ろした。
ゴブリンが握っていたナイフが地面に落ちる。
ここで仕留める、絶対に!!!
私はゴブリンの胸に勢いよく剣を突き刺した。
貫いた瞬間、淀んだ瞳と目があった。
そのままゴブリンはその場に崩れ落ちる。
うぅ…。
私はこみ上げてきた吐き気を我慢して、突き刺さった剣を引き抜いた。
気分が悪くなり、その場に座り込むとツバキが心配そうに駆け寄ってくる。
「ルリ、怪我は大丈夫!?傷が深かったの!?すぐ手当てするから!!!」
残りの二人も強張った表情で近付いてきた。
「ううん。そんなに傷は深くないと思う。ただ、魔物を初めて殺したからそれでちょっと気持ち悪くなって…」
座り込んでいる私は自分の手のひらを見つめた。
ゴブリンを貫いた時の感触が残っている。
「とりあえず、傷口を確認するからルリはそのまま座ってて。みんなも一旦ここで休憩ね!」
「ごめんね…」
二十分くらい休憩をしたら、だいぶ吐き気は収まってきた。
傷の痛みは多少あるが、歩くことには支障が無さそうだ。
「ありがとう。そろそろ出発できそう」
私はみんなに視線を配りながら言った。
「焦る必要は無いよ。もう少しゆっくり休んでから出発しない?」
ネムが心配そうな表情で気にかけてくるので、私もこれ以上心配をかけないように気丈に振舞った。
「うん。大丈夫だよ!もし気分が悪くなったら正直に言うから」
「ん~…。わかった!約束だよ!?」
「本人が大丈夫って言うなら、進もっか!」
ツバキは話を切り上げると、ゆっくり歩き始めるのであった。
私はツバキの背中を見つめながら、さっきの戦闘について振り返る。
私を除いて、誰一人怪我を負わずに討伐できたのは良かった。
なんとなく頭の中で想像はしていたけど、命を奪う行為は思った以上に大変だった。
鳥や鹿など、食料になる獲物は何度も狩猟したことがある。
だが、今回のゴブリン討伐は動物を狩る時とは全く違う感覚だった。
…。
んー。
なんだろう。
仕留める時、感謝の気持ちがあるのか?無いのか?
ゴブリンは倒しても食料にならないから、あのとき躊躇しちゃったのかな?
いや少し違うか…。
ただ、切られた時に思ったことがある。
ゴブリンが浮かべた醜悪な笑みはどこか人間臭さがあった…。
勿論、あいつらは人じゃないんだけど、人に近い表情でこちらを嘲笑っている気がしたのだ。
この先、冒険者になったら、ゴブリン以外にも沢山の魔物を屠ることになるだろう。
だけど、この気持ちは決して忘れないようにしよう。
魔物に情けをかけた瞬間、
自分や近くにいる大切な誰かが傷を負うことがあるのだと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この辺りだよね?」
「地図に記されている場所は多分ここで合ってると思う」
ツバキの疑問に私は返事をする。
ここはゴブリンを討伐した地点から、二時間ほど南進した場所だ。
「あそこの土なんか盛り上がっていない?」
ネムが指を差しながら、教えてくれた地面に注目する。
近くで見ないと分からないな…。
周辺を警戒しながら近付いた私はしゃがみ込む。
言われてみれば一度掘り起こした形跡があるかも?
他に怪しそうなところも見当たらない。
一旦、ここを調べるか。
「とりあえず掘ってみる?」
「いいと思う。ただ…。みんな土魔法は使えないよね?」
私の意見にネムは賛同してくれたが、落ち込んでいる様子で呟いた。
確かに誰か一人でも土魔法が扱えるなら掘り起こすのは簡単だろうな。
「ナタリーもルリも土魔法は使えないし、私も火魔法だけだし」
ツバキの言う通りだ。
だが、私にはとっておきの秘密道具がある。
自信満々にバッグからアレを取り出す。
「もしかしたら使うかもしれないって思って、実はこれを持ってきたんだ!」
バッグから取り出した秘密道具を胸の上に掲げた。
「ねえ、ルリ…。もしかしてそんなちっちゃいスコップを使うの?」
ツバキが苦笑いを浮かべて指摘するけれど、私は自信満々に胸を張った。
「若干サイズが小さいかもしれないけど、人数分のスコップは用意してるんだ!!」
私はスコップをみんなに配り、穴掘り作業を始めるのであった。
三十分くらい黙々と掘り進めると木箱が見つかった。
「お!これって宝箱じゃない?」
ツバキが歓喜の声をあげる。
宝箱と表現するには少しばかり大袈裟な気もするが、これがお目当てのお宝なのかもしれない。
「スコップのおかげで作業も捗ったし、ルリがこの宝箱開けたら?」
ツバキにそう言われたので、皆に訊いてみる。
「もし、誰か開けたい人がいるなら譲るけどいないなら開けちゃうね?」
ナタリーもネムも異論はないみたいなので、恐る恐る宝箱を開けて中身を確認する。
ん?
四つ折りにされている紙が入っていた。
「なんか思っていたのと違うね…」
隣にいたネムが残念そうに呟く。
「うん…。もしかしてあれかも!宝の地図だったりしてね?」
「ルリの言う通り、その可能性もゼロでは無いのかなー」
ネム同様、私も肩透かしを食らった気分なのは一緒だ。
流石に金塊のようなお宝が入っているとは思っていないけど!
もう少し豪華なお宝だったら喜べたのにな…。
まあ、しょうがない。
ダンジョンで手に入れた宝箱じゃないし、学園側が用意したモノなのだから。
とりあえず手に持っている紙を広げてみる。
落ち込むにしても中身を確認してからだよね。
「ふぇ!?」
私は驚きのあまり、変な声を上げてしまった。
隣にいたネムも面食らった表情になっている。
うん…。
たしかに、一部の生徒にとってはすごく嬉しいモノかもしれない。
「二人ともどうしたの?そんな驚いた顔をして」
私はツバキに紙を差し出した。
恐らく、ツバキにとってもこの紙は有難いはずだ。
「…え。まじ!!!最高じゃん!!」
ツバキの喜び様にナタリーも食いついた。
「私も気になる!!!どれどれ…。次回出題されるテストの答えだね!?」
そう。
宝箱に入っていたのはテストの答案用紙だったのだ。
リリー先生…。
勉強が苦手な生徒にとって答案用紙はとても嬉しい贈り物かもしれなけど、教員がこんなことしたら流石にマズいんじゃないかな?
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