悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。

小田

文字の大きさ
50 / 57
第二章 学園編

49話 救出

しおりを挟む

「ルリちゃんソーニャは助かるかな?」

「意識を失っているけど、安静にしたら良くなると思う」

 ナタリーの姉を檻から運び出した私はナタリーを励まして、彼女の容体を診ていた。
 ソーニャも『奴隷の首輪』を付けられていたので、無論、外してから彼女の身体を確認している。

 栄養失調のせいか随分、身体は弱っているが生死に関わる状態ではなさそうだ。
 
 念のため、私はソーニャに神聖魔法をかける。
 前回、自分の傷を治したときに感覚をなんとなく掴めたので今回はスムーズに発動した。
 大怪我を治すわけでもないからそんなに疲労感も感じなかった。
 
「そっか。助けてくれてありがとう」

「お礼を言うのはまだ早いよ?三人で脱出しないとね!」

「ソーニャは私が担ぐから、ルリちゃんは先に出口を確認してほしい!」

 ナタリーがお姉さんを運ぶ方が得策か。
 人間と比べると獣人は遥かに筋力がある。
 私も【身体強化】を使えば余裕で担げるだろうけど、無駄に魔法を消費する必要もないし、ここは彼女に任せよう。

「了解!」
 
 地下牢の出口に繋がる階段を上り終えて、私は慎重に外の様子を伺う。
 さっき気絶させた兵士は地面に伏せたままで、周囲に他の兵士の姿は見当たらなかった。
 どうやら、この屋敷の警備は想像以上に手薄なのかもしれない。

 階段の下で待機していたナタリーに合図を送ると、彼女はすぐに上ってきた。

「ナタリー、見張りがいないうちにこの敷地から逃げるよ!」

「いつもなら、他の兵士が巡回していても不思議じゃなのに誰もいないね?」

「運が良かったのかもね」

 私はナタリーに微笑んで、敷地の出入口とは真逆の方に歩き出した。

「ルリちゃん、どこから脱出するつもりなの?」

「んー、出入口じゃないところからかな?屋敷周辺は塀に囲まれていそうだけど、最悪、塀のどこかに穴を開けて逃げれたらいいかなーと」

「後でバレたら、ルリちゃん大変なことになるよ?」

 まあ、それはそうなのだが。
 出入口は確実に門番がいるから戦闘は避けられないし。もしかしたら、塀の高さによってはソーニャを担いだまま飛び越えれるかもしれないからね。

「ナタリーの人質を救出している時点である程度、覚悟は出来ているから大丈夫だよ」

 ナタリーは苦笑交じりにお礼を告げて、二人でその場を後にしたのであった。


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇


(一足遅かったわね)

 デニムの自室の扉を開けたゼシルは握った剣を壁に突き刺した。

「お、御姉さま。あいつらはどこに?」

 息を切らしながら顔色を伺ってくる弟にゼシルは罵声を浴びせた。

「ほんと、使い物にならないわね。私はしっかり殺せと命じたのに勝手な行動ばかりした挙句、逃がすなんて」

「申し訳ございません!!」
 
 頭を下げたデニムがハッと何か気付いたように尋ねてくる。

「やつらもしかして、地下牢に行って人質を逃がしているのではないでしょうか?」

 ゼシルは呆れた様子で弟に視線を向け、言葉を返す。

「ええ、そうね。間違いなく人質を解放しに向かっているでしょう」

「では、急いで地下牢にー」

「どうせ今から行っても間に合わないわ。もう少しあなたには期待していたのだけれど、しょうがない…」

 壁に刺さっている剣を引き抜き、ゼシルは開放された窓を一瞥いちべつした。

(あそこから抜け出しのね。だがどうやって、拘束を外したのかしら?)

 床に転がっている『奴隷の首輪』を眺めたゼシルは思案する。
 ナタリーがこれを解錠できるとは到底思えない。
 必然的にルリが外したことになる訳だが、普通の村人にそんな芸当ができるのだろうか。

(思った以上にルリは厄介な相手になりそうね)

 ゼシルは気持ちを切り替えて、デニムに視線を戻した。

「彼は今日もアレク様の屋敷で訓練しているのかしら?」

「だと思います。恐らく、マーベルは今日も訓練しているはずです」 
 
 自然と口角があがったゼシルはデニムの部屋を後にしたのであった。


  ◇    ◇    ◇         ◇   ◇   ◇         ◇   ◇   ◇


 無事にゼシルの屋敷を脱出できた私はツバキたちの屋敷を目指した。
 幸い、すぐに馬車に乗車することができたので、私もナタリーもほっと息をつく。
 油断は禁物だが、この感じでいけば救出は成功するだろう。

「こんなあっさり、脱出できるとは思わなかった」

 ナタリーは心底、安堵した様子で私に話しかけてきた。

「うん。警備は手薄だったし追手もきていないから、なにか裏がありそうで怖いよね」

「『奴隷の首輪』を外せれたのが決め手だったかも。あれを外せる人なんて誰も思わないし、ルリちゃんホントに凄いね!」

「そんな事ないよ」

 ナタリーは称賛してくれたが、今回はじいじの備忘録のお陰だ。まさかこんなところで役立つとは思わなかった。

 かぶりを振った私は横たわっているソーニャに視線を移す。
 意識自体は戻っていないけれど、症状が悪化した様子はない。このまま安静に休んで、しっかり栄養を取れば特に問題なさそうだ。

 だが、安心するのはまだ早い。
 ナタリーの姉を救出したはいいものの、ゼシルがこれを見逃してくれるはずがないからだ。
 何かしらの方法でこちらに報復してくることは十分考えられる。
 
 ナタリーとソーニャをツバキたちの屋敷に送り届けたあと、話し合う必要があるな。

 しばらく馬車に揺られていると、ナタリーが思い詰めた表情で口を開いた。

「ねえ、ルリちゃん…。
 どうして私達のことを助けてくれたの?私なんかルリちゃんを殺そうしたのにさ」

 

「どうしてって言われたらそうだねー」

 咄嗟とっさに理由が思い浮かばなかった私は腕を組んで真剣に考えてみた。どうしてこんな無茶をしてまで彼女を助けようとしたのだろうか…。
 
「目の前で困っている人を見捨てたくなかったからかな」

「だとしても、自分の命を躊躇いなく奪おうとした相手だよ?」

 確かにそうなのだが…。
 上手く説明できるかわからなかったけど、私はナタリーに自分の想いを語り始めた。


「私、物心ついた時には両親がいなくてさ、ボッチ村の村長に育てられたんだ。それまでの間ずっと親族も現れなかったから、私は捨て子なんだって勝手に決めつけていたんだ」
 
 正確に言えば、ロイ叔父さんと会ってはいるけど。

「だけどね、最近小さい頃の記憶が戻ってわかったことがあるの。私は捨てられた訳じゃなくて、両親は自分のことを大切に守ろうとしていたんだと。
 あとね、両親から譲り受けた力があるんだけど、その力は特別だったんだ。
 だからかな?私もこの力を使って父のように困っている人を助けたいなと思った結果、ナタリーを見捨てれなかったのかもしれない」

「そっか。
 ルリちゃんって、本当に凄いね…。
 もし私だったら、自分を殺めようとした相手に優しく手を差し伸べることなんて出来ないよ」

 私は苦笑して、窓の外を眺めた。

 自分が思う以上に私はお人好しなのかもしれない。
 これからも私は目の前で本当に困っている人がいたら、きっと手を差し伸べるだろう。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画

及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。 【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】 姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。 双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。 だが、この公爵家、何かおかしい? 異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。 一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。 ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳      バーディナ伯爵家令嬢         ✖️ ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳      キングスフォード公爵 ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣たくさんいただきありがとうございます。 とても励みになります。 感想もいただけたら嬉しいです。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】 私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に—— ※他サイトでも投稿中

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...