戦国に転生した薬屋あかね、戦国の謎を診る

キジ

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薬所の掟と、診るということ

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城下の朝は早い。
 まだ日が高くならぬうちから、薬所には人の出入りがあった。

 咳を抑えながら立つ足軽。
 腕に包帯を巻いた下働き。
 顔色の悪い女房衆。

 あかねは、壁際に立ち、黙って様子を見ていた。
 勝手に口を出すな、と言われている以上、今は観察に徹するしかない。

「薬師見習い。これを運べ」

 年配の薬所預かりが、薬包を指さす。
 あかねは黙って頷き、包みを抱えた。

(処方が……少し強すぎる)

 ちらりと中を見ただけで、そう分かった。
 体力のある兵なら耐えられるが、今朝来ていた足軽の顔色では危うい。

 だが、ここは城下。
 村のように、一人ひとりに時間をかける余裕はない。

(それでも……)

 あかねが迷っていると、案の定だった。

 昼前、足軽が再び運び込まれた。
 顔面蒼白で、激しく吐き気を訴えている。

「どうした」
「朝の薬を飲んだ後から、腹が……」

 薬所の空気が一瞬、張りつめた。

「見習い、触るな」

 預かりの男が鋭く言う。

「これは城の薬だ。
 不調が出ても、それは戦に耐えられぬ身体ということ」

 冷たい言葉だった。

(……それでも、目の前で苦しんでる)

 あかねは、意を決して一歩前に出た。

「失礼します。
 この方、薬が合っていません。量を減らし、白湯を与えれば落ち着きます」

 場が静まり返る。

「見習いが、口を出すな」

「薬は人を助けるためのものです。
 合わぬ薬で動けなくなれば、戦にも出られません」

 一瞬、睨み合いになった。

 だが、そのとき。
 奥の間から、低い声が響いた。

「……続けよ」

 現れたのは、昨日あかねを迎えた年配の武士だった。

「その者は、村で旅人を救った薬師だ。
 話は聞く」

 預かりの男は、渋々口を閉ざした。

 あかねは、急ぎ白湯を用意し、吐き気を抑える処置をする。
 しばらくして、足軽の呼吸は落ち着いた。

「……楽に、なりました」

 その声に、周囲がざわめく。

 武士は静かに頷いた。

「薬は、数ではなく結果だ。
 倒れて使い物にならぬ兵を量産しては意味がない」

 預かりの男は唇を噛み、深く頭を下げた。

***

 その日の夕刻。
 薬所の裏で、武士があかねに声をかけた。

「名は」

「あかねと申します」

「覚えておく。
 ここでは、薬師は便利な道具だ。
 だが、道具にも腕前の違いはある」

 褒め言葉なのか、警告なのか。
 あかねは、静かに受け止めた。

(ここでは、助けることすら選別される)

 それでも。

(それでも、私は診る)

 夜。
 薬所の片隅で帳面を開き、今日の症状と処置を書き留める。

 村とは違う。
 一つの判断が、多くの命に波及する。

 だが、だからこそ――
 薬師である意味が、ここにはあった。

 灯りの下、あかねは筆を止めなかった。
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