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第12-2話 寒月の戦いっ!
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「ぐあっ……!?」
「な、なんだ!?」
恐る恐る前に向き直ると、何故か騎士さんたちが慌てたような声を上げている。
「な、なにっ!? 何が起きたの!?」
「聖女様、ご安心ください。彼らの矢が飛んでくることはありません」
「ほへっ!?」
何があったのかわからないまま見上げると、マドラさんが凛々しい目つきで騎士たちを睨みつけていた。
「私が『糸切り』の魔法を使いました。エルフ族に伝わる魔法のひとつです。彼らが今この場で持っている糸状のものをすべて断ち切りましたので、弓も、替えの弓弦も使えません」
「え、えぇぇっ!? す、すごーーい! マドラさん、そんな魔法を使えるんですかっ!?」
「はいっ。引退して7年になりますが、これでも元・宮廷魔導師ですからねっ!」
険しい表情ながらも口元に笑みを浮かべるマドラさん。
う、うおおおおぉぉ!?
やばぁぁぁぁい! かっこいいよぉぉおおお!!
昏睡魔法しか使えず、手こずっていた私と違って、たったひとつの魔法で弓兵さんたちを全員無力化しちゃった!!
うーん、憧れちゃうなぁ……マドラさん、いつか私に魔法を教えてくれないかなぁ!?
「こ、国王陛下っ! 手持ちの弓がすべて弦を切られました! 予備もダメです!!」
「ぐっ……! マドラ!! 邪魔だてをするな! 私はただクエリを連れ帰りたいだけだっ!!」
月明かりと火柱の明かりの中、王様はマドラさんに向けて叫び声をあげる。
しかしマドラさんは、答えない。
「クエリはお前がそばに居なくとも、王城にさえ居れば私が幸せにして見せるっ……! 欲しいものは何でも与え、何でも食べさせてやる! だからクリエを、こちらによこすんだ!!」
割れてしまったような声で叫ぶ王様。
私はそれを聞いて、メイスの柄をぎゅっと握りしめた。
言ってるコトがめちゃくちゃだよ、王様。
そうじゃないんだよ、クエリちゃんはあなたと王城に居ても、幸せじゃなかったんだ。
綺麗なお洋服を着られても、おいしいご飯を食べられても、幸せになってなかったんだよっ!
なんで……なんでそれが、わからないのさっ!?
思わず叫びそうになった時、静かに前に出てマドラさんはついに口を開いた。
その表情は先ほどまで見せていた悲しいものではなく、静かに燃える怒りを感じさせるものだ。
「……陛下。申し訳ありませんが、もはや今のあなたにクエリを預ける事はできません。クエリが求めている幸せとは何なのか、それに気付けないばかりか、矢を放とうとまでするあなたに、クエリを幸せに出来るとは思えませんっ!」
ぴしゃりと突きつけるかのように放たれた、マドラさんの言葉。
意思を込めたその返答に、騒がしかった周囲が一瞬にして静まり返る。
おぉぉおおっ、言ってやったー!
びしっと言ってやったよー!
ここまでハッキリ言われれば、あの空気読めない王様も少しは解るんじゃないかな!?
……なんて期待したのも束の間。
マドラさんの言葉を聞いた王様に、予想外の変化が起きた。
「マ、マド、ラ……ぬっぐ、ぐうううぅっ……!」
「こ、国王陛下っ!? いかがなさいましたか!?」
頭を抱えるようにして唸り声を上げ始めた王様の様子に、近くにいた騎士団長さんが気付き声をかける。
はじめはマドラさんの言葉に対して怒ってるのかな、と思ったけど……どうも様子がおかしい。
「うぐ、ぐぅぅっ……! グウ……グウアアアアアアーーーーッ!!」
「へ、陛下っ!? 陛下ぁぁっ!!?」
すぐ横で叫ぶ団長さんの声など聞こえていないかのように、天を仰ぎ背中を反らせながら、奇声を発する王様。
ひ、ひぇぇ……こりゃいよいよおかしいぞ。
自らの頭を両手で鷲掴みにし、皮膚に爪が食い込むくらいに力を込めて叫ぶ有様は、とても正気であるとは思えない。
間近でその様子を見ている騎士団長さんも、剣を捨てて王様を羽交締めにしようとしている。
「ネ、ネムちゃん、あれ…………」
「ああ、どう見ても異常だ。マドラさんに論破されたからと言って、あんな風になっちまうのはおかしい。王様はああいう病気なのか、もしくは何か他の ──────── 」
遠目で見ていた私は、身体をうねらせる王様の様子を観察していた。
そのすぐ横で見ていたマドラさんが、突如叫ぶ。
「うそ……!? そんな、何故……!?」
「ほぇっ!? マドラさん、どうしたんですかっ!?」
「陛下から……魔力が発せられています!」
えっ?
ど、どういうコト?
王様が魔力を放出してるの? それって、何かおかしいコトなの?
首を傾げている私に、マドラさんは寄り添うように近付いてから話してくれた。
「国王陛下は本来、魔法が使えない方です。私たちのように身体に魔力を備える事ができないので、本来なら魔力などお持ちでないはず、なのですが……ああっ、危ないっ! 皆さん、伏せてくださいっ!!」
「えっ!? ええっ!?」
血相を変えて叫ぶマドラさん。
その声を聞いた私は、思わず頭を抱えてうずくまる。
私を守ってくれていたネムちゃんも、『伏せ』をするように限界まで姿勢を低くした。
「へ、陛下!? へい ────────────────」
「グアアアアアアアアァァァァァァーーーー!!!!」
直後、王様が悲鳴にも近いような声を上げた。
騎士団長さんが止めようとしていた矢先、その身体が不気味な色に光り始める。
叫び声と共に、王様を中心に黒い波紋のようなものが急速に広がっていくのが見えた。
「ぐあああああっ!?」
「ひっ、ひ……がっ!?」
「ぎゃああああああっ!!」
黒い波紋は周囲にいた騎士さんや弓兵さんたちに直撃した。
これはもしかして、魔力によって生じた波紋!?
マドラさんのおかげで地面に伏せていた私たちは、間一髪で迫り来る波紋を避けるコトができた。
運悪く巻き込まれた騎士さんたちは、大きな悲鳴を上げながら身体を硬直させている。
ど、どうなってるの!?
なんで……何で王様が、騎士さんたちを攻撃するの!?
真夜中の花畑に次々と倒れ込む騎士さんたち。
しかししばらくすると、地面に横たわっていた騎士さんたちが次々と起き上がり、まるでゾンビのような格好で歩き始めた。
その顔には、まるで生気が無い。
「な、なに、これ……!?」
「な、なんだ!?」
恐る恐る前に向き直ると、何故か騎士さんたちが慌てたような声を上げている。
「な、なにっ!? 何が起きたの!?」
「聖女様、ご安心ください。彼らの矢が飛んでくることはありません」
「ほへっ!?」
何があったのかわからないまま見上げると、マドラさんが凛々しい目つきで騎士たちを睨みつけていた。
「私が『糸切り』の魔法を使いました。エルフ族に伝わる魔法のひとつです。彼らが今この場で持っている糸状のものをすべて断ち切りましたので、弓も、替えの弓弦も使えません」
「え、えぇぇっ!? す、すごーーい! マドラさん、そんな魔法を使えるんですかっ!?」
「はいっ。引退して7年になりますが、これでも元・宮廷魔導師ですからねっ!」
険しい表情ながらも口元に笑みを浮かべるマドラさん。
う、うおおおおぉぉ!?
やばぁぁぁぁい! かっこいいよぉぉおおお!!
昏睡魔法しか使えず、手こずっていた私と違って、たったひとつの魔法で弓兵さんたちを全員無力化しちゃった!!
うーん、憧れちゃうなぁ……マドラさん、いつか私に魔法を教えてくれないかなぁ!?
「こ、国王陛下っ! 手持ちの弓がすべて弦を切られました! 予備もダメです!!」
「ぐっ……! マドラ!! 邪魔だてをするな! 私はただクエリを連れ帰りたいだけだっ!!」
月明かりと火柱の明かりの中、王様はマドラさんに向けて叫び声をあげる。
しかしマドラさんは、答えない。
「クエリはお前がそばに居なくとも、王城にさえ居れば私が幸せにして見せるっ……! 欲しいものは何でも与え、何でも食べさせてやる! だからクリエを、こちらによこすんだ!!」
割れてしまったような声で叫ぶ王様。
私はそれを聞いて、メイスの柄をぎゅっと握りしめた。
言ってるコトがめちゃくちゃだよ、王様。
そうじゃないんだよ、クエリちゃんはあなたと王城に居ても、幸せじゃなかったんだ。
綺麗なお洋服を着られても、おいしいご飯を食べられても、幸せになってなかったんだよっ!
なんで……なんでそれが、わからないのさっ!?
思わず叫びそうになった時、静かに前に出てマドラさんはついに口を開いた。
その表情は先ほどまで見せていた悲しいものではなく、静かに燃える怒りを感じさせるものだ。
「……陛下。申し訳ありませんが、もはや今のあなたにクエリを預ける事はできません。クエリが求めている幸せとは何なのか、それに気付けないばかりか、矢を放とうとまでするあなたに、クエリを幸せに出来るとは思えませんっ!」
ぴしゃりと突きつけるかのように放たれた、マドラさんの言葉。
意思を込めたその返答に、騒がしかった周囲が一瞬にして静まり返る。
おぉぉおおっ、言ってやったー!
びしっと言ってやったよー!
ここまでハッキリ言われれば、あの空気読めない王様も少しは解るんじゃないかな!?
……なんて期待したのも束の間。
マドラさんの言葉を聞いた王様に、予想外の変化が起きた。
「マ、マド、ラ……ぬっぐ、ぐうううぅっ……!」
「こ、国王陛下っ!? いかがなさいましたか!?」
頭を抱えるようにして唸り声を上げ始めた王様の様子に、近くにいた騎士団長さんが気付き声をかける。
はじめはマドラさんの言葉に対して怒ってるのかな、と思ったけど……どうも様子がおかしい。
「うぐ、ぐぅぅっ……! グウ……グウアアアアアアーーーーッ!!」
「へ、陛下っ!? 陛下ぁぁっ!!?」
すぐ横で叫ぶ団長さんの声など聞こえていないかのように、天を仰ぎ背中を反らせながら、奇声を発する王様。
ひ、ひぇぇ……こりゃいよいよおかしいぞ。
自らの頭を両手で鷲掴みにし、皮膚に爪が食い込むくらいに力を込めて叫ぶ有様は、とても正気であるとは思えない。
間近でその様子を見ている騎士団長さんも、剣を捨てて王様を羽交締めにしようとしている。
「ネ、ネムちゃん、あれ…………」
「ああ、どう見ても異常だ。マドラさんに論破されたからと言って、あんな風になっちまうのはおかしい。王様はああいう病気なのか、もしくは何か他の ──────── 」
遠目で見ていた私は、身体をうねらせる王様の様子を観察していた。
そのすぐ横で見ていたマドラさんが、突如叫ぶ。
「うそ……!? そんな、何故……!?」
「ほぇっ!? マドラさん、どうしたんですかっ!?」
「陛下から……魔力が発せられています!」
えっ?
ど、どういうコト?
王様が魔力を放出してるの? それって、何かおかしいコトなの?
首を傾げている私に、マドラさんは寄り添うように近付いてから話してくれた。
「国王陛下は本来、魔法が使えない方です。私たちのように身体に魔力を備える事ができないので、本来なら魔力などお持ちでないはず、なのですが……ああっ、危ないっ! 皆さん、伏せてくださいっ!!」
「えっ!? ええっ!?」
血相を変えて叫ぶマドラさん。
その声を聞いた私は、思わず頭を抱えてうずくまる。
私を守ってくれていたネムちゃんも、『伏せ』をするように限界まで姿勢を低くした。
「へ、陛下!? へい ────────────────」
「グアアアアアアアアァァァァァァーーーー!!!!」
直後、王様が悲鳴にも近いような声を上げた。
騎士団長さんが止めようとしていた矢先、その身体が不気味な色に光り始める。
叫び声と共に、王様を中心に黒い波紋のようなものが急速に広がっていくのが見えた。
「ぐあああああっ!?」
「ひっ、ひ……がっ!?」
「ぎゃああああああっ!!」
黒い波紋は周囲にいた騎士さんや弓兵さんたちに直撃した。
これはもしかして、魔力によって生じた波紋!?
マドラさんのおかげで地面に伏せていた私たちは、間一髪で迫り来る波紋を避けるコトができた。
運悪く巻き込まれた騎士さんたちは、大きな悲鳴を上げながら身体を硬直させている。
ど、どうなってるの!?
なんで……何で王様が、騎士さんたちを攻撃するの!?
真夜中の花畑に次々と倒れ込む騎士さんたち。
しかししばらくすると、地面に横たわっていた騎士さんたちが次々と起き上がり、まるでゾンビのような格好で歩き始めた。
その顔には、まるで生気が無い。
「な、なに、これ……!?」
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