夢見るピルタの昏睡魔法っ!

来我 春天(らいが しゅんてん)

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第14-2話 悪夢は終わった……?

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「ふぇっ!?」

 話しかけようとした矢先、ぴしゃりと言葉を遮るようにしてネムちゃんが叫んだ。
 そんな一瞬の間にも、地面に広がった黒いシミはじくじくと面積を広げている。
 そして、シミの至る所で黒い謎の盛り上がりができ始めた。
 直感で悟る。
 ネムちゃんの言う通り、王様が見ているであろうこの『悪夢』は、どう見ても普通じゃない。
 これ以上具現化させちゃいけない、そんな予感がするんだ。
 何かとんでもないものが出てきそうな気配がする。
 そう考えた矢先……
 黒いシミの中央で、何かの顔のような模様が浮かび上がった。

「ひっ…………!?」
「うおおおおぉぉおおぉっ!!」

 あまりの不気味さに思わず叫び声を上げそうになった瞬間、ネムちゃんが黒いシミを勢いよく吸い込み始めた。
 月よりも眩いほどに光を放ちながら、今まで見たこともない速度で地面に広がった黒い液体を消してゆく。
 私はおぞましさのあまり汗だくになりながら、ネムちゃんを見上げた。
 いつもなら『悪夢』を食べるとき、ネムちゃんはどこか嬉しそうな顔をしているんだけど……今日は違う。
 必死の形相で、まるで苦痛に耐えるかのような表情を浮かべながら黒い液体を吸い上げていた。

「ぐおおおおお、おおおおおおおっ!!」

 広がり始めていたシミよりも、さらに早く……ネムちゃんは大きく開けた口元に黒いヘドロのような液体を吸い込んでいく。
 ほどなくして、王様から出てきた黒い液体は全て消えた。
 液体の中央に見えた、顔のような模様は何だったのだろう……?
 ネムちゃんに吸い込まれる直前に、抵抗しているようにさえ見えた。

「ぐっ……はぁっ、はぁっ……ぐぅぅ…………」

 上空で黒い液体を全て吸い上げていたネムちゃんは、しばらくして力を使い果たしたかのようにふらふらと落下してきた。
 落下の途中、ボワっという音とともに煙に包まれたかと思うと、いつもの小さなバクのような姿に変わってしまった。

「あっ…………!?」

 どうやら、幻獣モードを維持できないほど消耗しちゃったみたい。
 私は素早く落下地点まで走ると、力なく落ちてきたネムちゃんを受け止めた。
 風船のようにゆっくりと落ちてきてくれたおかげで、クエリちゃんを抱っこしたままでも片手で抱き抱えるコトができた。

「んしょっ! ネ、ネムちゃんっ! だいじょうぶ!?」
「ぐ、うぐ…………ぐぅっ…………」
「ど、どこか苦しいの!? ど、どうしようっ!? どうしたら…………!」

 苦しそうに顔を歪めるネムちゃんを見て、私は抱っこしながら慌ててしまった。
 こんな辛そうな顔をしたネムちゃん、見たことない。
 まさか……いつもと違う、真っ黒い液体のような『もや』を吸ってしまったせいで何か影響が!?
 どうしよう、私にできるコトって何だろう!?
 必死になって考えを巡らせる私の目の前で……

「げぇぇぇっふ」

 ……ネムちゃんは盛大なゲップをした。

「へっ!? え、なに、ゲップ……?」
「ふぅ、やっと出た。あ゛~~~~くっそ不味い夢だった。俺が今まで食ってきた中で、一番マズい夢だったかも」
「えぇっ!? も、もしかしてネムちゃん、不味い夢を食べてゲップを吐き出したくなってただけ!?」

 私の腕の中で、ネムちゃんは先ほどまでとは打って変わってケロッとした顔で笑ってみせた。

「おうっ、その通りだ。家系ラーメンにショートケーキと海ぶどうを混ぜたような夢だったが……もう消化できたから大丈夫だ」
「う、ううっ……! 想像もしたくない味……! もー、苦しそうな顔してたから、心配したんだからねっ!?」
「いやースマン。でもさっきの『悪夢』を消化するために力を使い果たしちまったのも事実だから、ピルタが受け止めてくれて助かったぜ」
「んもー……」

 けらけらと笑っているネムちゃんを、私は思わずぎゅっと抱きしめた。

「んっ? な、何だよピルタ、おい」
「……心配したんだからねっ。もう無茶しないでよ」
「お、おう……その、なんだ…………ありがとよ、ピルタ」

 私はふかふかの毛で覆われたネムちゃんのお腹に顔をうずめてやった。
 普段はこうするとくすぐったくて嫌がるネムちゃんだけど、今日は構わず顔をぐりぐり押し付ける。
 こうしないと、涙ぐんでたのがバレちゃうから。

「国王陛下っ……!」

 そんな時、マドラさんが王様を呼ぶ声が聞こえた。
 ネムちゃんのお腹から顔を離して見てみると、横たわった王様に駆け寄るマドラさんの姿が見える。

「ピルタ、行ってみようぜ」
「うんっ!」

 クエリちゃんとネムちゃんを抱っこしたまま、私は二人のもとへと駆け寄った。
 膝をつき王様の様子を覗くマドラさんの横に座った私は、そっとネムちゃんを地面に下ろす。
 マドラさんは花畑の上で倒れている王様を仰向けにしてから、心配そうな表情をしながら呼びかけた。
 
「陛下っ……大丈夫ですか、陛下っ!」

 王様は顔に土汚れが多少ついているだけで、大きな怪我などは見当たらない。
 マドラさんが声をかけながら優しく肩を叩くと、立派なヒゲを生やした顔がぴくりと動くのが見えた。
 鳶色をした瞳が、ゆっくりと開いていく。

「む、ぐ……こ、ここは…………私は、一体どうしたのだ……?」
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