夢見るピルタの昏睡魔法っ!

来我 春天(らいが しゅんてん)

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第14-3話 悪夢は終わった……?

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「へ、陛下っ!!」

 目を開けた王様に、マドラさんはものすごい速さで抱きつくように覆いかぶさった。
 当の王様は、目が覚めたばかりで何が何やら解っていない様子。
 でも、こころなしか表情が晴れやかになってる気がするっ!
 禍々まがまがしさを感じるほどに凶悪だった雰囲気が、まったく無くなってる。

「む……? そ、そなたは……」
「陛下……痛むところはございませんか? わ、私が……わかりますかっ?」
「あ……ああ、勿論だとも、マドラ。私がそなたを忘れる訳がなかろう……」
「あ、あぁぁっ……! 陛下……陛下っ……!!」

 王様に名前を呼ばれ、マドラさんは笑顔になって再び王様を抱きしめた。
 王様は未だに状況が飲み込めていない様子だったが、自分の胸元で涙を流しているマドラさんを片手でそっと抱き寄せた。
 困惑しながらも穏やかな顔をして、マドラさんのさらさらな金髪を撫でる。

「……すまぬマドラよ、教えてくれ。私は今ここで何を……?」
「あんたは『悪夢』に突き動かされてたんだよ、王様」

 マドラさんに抱きつかれながら呆然としている王様のすぐ横で、ネムちゃんが呟いた。

「おぉ……そなた等は、確か『悪夢祓いの聖女』殿と、幻獣殿……よな? 確か王城の謁見の間でまみえたのを覚えてはいるのだが……むう、すまぬ。どうも頭がぼんやりとしていて……う、ぐ……」
「王様、そのまま横になっていてください。私とネムちゃんの魔法で、王様の頭の中に潜んでいた『悪夢』を消したですよっ!」
「わ、私の頭の中に、潜んでいた……? それに『悪夢』に突き動かされていたとは、一体……!?」

 私は、マドラさんに膝枕をされながら横になった王様に、今までの経緯いきさつを説明した。
 王様に呼ばれ、王城に行ったコト。
 クエリちゃんが見ていた夢を『悪夢』と称して消そうとしていたコト。
 私たちがクエリちゃんを連れて逃げ、このノルトアイルの地までやってきたコト。
 そして、変貌した王様を止めたコト……。
 すべての説明が終える頃には、真っ暗だった空は徐々に白みを帯びていた。
 もうすぐ夜明けなのかな。天空に浮かぶ紫色の月も、空の明るさが増すごとに色を薄くしている。
 順を追って説明をしてみたものの、不思議なことに王様はずべておぼろげに覚えているかどうかといった様子だった。
 それは今日のコトでさえも詳細には覚えていない有様で……。

「それは、まことな話なのか……? どうも記憶が定かでなく、頭に霞がかかったように思い出す事ができぬ……」

 横たわったまま、片手で額を抑える王様。
 この様子からすると、どうやらすっとぼけてるとか、そういうのではなさそうだなぁ。
 本人はどう頑張っても思い出せずに、悩んでいるカンジ。
 記憶を引き出すコトができず唸っている王様に、ネムちゃんが静かに近づいて口を開いた。

「王様、あんたがおかしくなっていた原因は解った。恐らくだが、『夢魔』にやられたな」
「む、『夢魔』!?」

 ネムちゃんの発した言葉に、私とマドラさんは顔を見合わせた。
 王様も、目を剥いて驚いたような表情を浮かべている。

「な、なんと……『夢魔』とは、あの……人間の夢に入り込むと言われる……?」
「そうだ。人の夢に入り込んで生気を吸う悪魔の一種。あいつらは俺と違い、人の夢を自在にコントロールする能力を持っていて、取り憑いた人間に感情が大きく揺さぶられるような夢を見せるんだ。あいつらが入り込んだ夢は、さっきみたいに『もや』がドス黒く変化しちまう。前に一度だけ夢の中でかち合った事があったから覚えてたぜ」
「コントロールするって……見せたい夢を、その悪魔が好き勝手に変えられちゃうってコト?」
「ああ……見ている人間にとってショックがでかい夢を見せることによって、消耗した精神エネルギーを吸い取る最低の野郎どもだ。夢の中で発生した強烈な不安や快楽を得ることで、どんどんと力を増していくんだよ。逆に感情の振れ幅が大きい夢を見せ続けられた人間はみるみる衰弱していく。人間が見ている夢を食う俺にとっては、まさに天敵だな」

 未だに疲れ切ったような表情をしているネムちゃんだが、少しずつ落ち着いてきたようで説明を続けてくれた。

「恐らくだが……マドラさんがお姫様を身籠ったあたりの時期に狙われたんだろう。王様、あんたは夢の中で予言じみたことを言われて、信じちまったんだろう? 『エルフ族を王室へ迎え入れると国が滅ぶぞ』とか、『王政に関われない場所にまで追放しろ』とかな」
「む、夢魔って、そんなコトまでするの……!?」

 私は、あまりの衝撃で絶句してしまった。
 それじゃ、王様がマドラさんに冷たくするようになったのも、人が変わったようになってしまったのも、夢の中でその夢魔にウソを吹き込まれたからってコト……!?
 でも、一番驚いているのは他でもない王様自身だ。

「あ、あぁ……そ、そうだ……幻獣殿の言う通りだ。私はある時から恐ろしい夢を見るようになって、その夢の中で誰かが絶え間なく叫んでいた……マドラを側室であっても迎え入れれば、国に不幸が訪れる、と……ああ、今こうして言われて思い出した……。な、なぜ私は、いままでそんな異様な夢のことを忘れていたのだろうか…………」
「夢ってのは、目が覚めたときに殆ど忘れちまうからな。きっと夢魔たちに、恐ろしい印象だけが頭に残るように仕向けられていたんだろう」
「な、なんと言う事だ…………わ、私は今日まで、悪魔どもの餌箱として扱われ続け、挙句マドラとクエリをこのような目に…………! ぐ、うぅぅぅぅぅっ……!」

 仰向けに寝たままの王様から、唸り声が響く。
 ぶるぶると全身を震えさせ、悔しさに歯を噛み締めている。
 顔を真っ赤にして、両眼からは洪水のような涙を溢れさせた。
 そうだよね……。
 『夢魔』のせいとはいえ、マドラさんとクエリちゃんに辛い思いをさせてしまったのは紛れもない事実。
 どんなに後悔しても、過ぎてしまった月日は取り返すことなどできない。
 きっと王様は、今すぐ消え去ってしまいたいくらいに悔しいはずだ。

「マ、マドラっ……わ、私は愚か者だっ……! 自分が、夢魔に操られている事すら解らず、そなたに……わ、私はっ、取り返しのつかない過ちを、犯してしまった……! こ、こんな事、許される事ではないっ!! こんな……こんな……っ! ぐ、うぐぅぅっ……!」
「国王陛下…………」
「マドラ……どうか私を殺してくれ……! そなたの気の済むようにしてくれっ!! 私は、そなたに許しを乞う資格すら無い!! わ、私のような愚か者が、国王を……クエリの父親を名乗る事など、許されない……!!」
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