夢見るピルタの昏睡魔法っ!

来我 春天(らいが しゅんてん)

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エピローグ 夢見るピルタの昏睡魔法っ!

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「かんっぱーーいっ! ……んぐ、んぐっ……ぷひゃーっ! 生き返るぅ~~っ!」

 レアリーダ王国、城下町の酒場。
 私はネムちゃんと一緒に遅めの夕飯にありついていた。

「うーん、やっぱりピルタのその『生き返る~』ってのは違和感があるなぁ……本当にそれ、お前のいた世界ではフツーの掛け声なのかぁ?」
「んもー、疑り深いねぇネムちゃん! そう思うなら、いつか日本に帰れた時に居酒屋さんに連れて行ってあげるよぉ」
「おぉ、そりゃいいな。でもピルタのいた『日本』ってとこは、俺みたいな奴が食事していても大丈夫なのか?」
「ぜったいダメだね、大騒ぎになると思うっ」
「な、なんだそりゃ……」

 げんなりとした顔になるネムちゃんを前に、私はコップを置きながら大笑いした。
 目の前に並んでいるのは、以前と比べてだいぶ豪華になった料理の数々。
 今、私たちはたくさんの『悪夢払い』の依頼を受けるようになったコトで、ちょっとしたお金持ち!
 うーん、この1ヶ月のあいだにいろいろあったなぁ~!

 ノルトアイルの丘で王様の『悪夢』を祓った、数日後 ─────────
 王城へと戻った国王レアリーダ三世は、自らの名前で国中に御触おふれを出した。
 それは、今まで王様が国民にひた隠しにしてきたコトを全て公開するような内容だった。
 正室であった黒髪の王妃様は、6年前の出産時に既に亡くなってしまっていたコト。
 その時産まれてくるはずだったお姫様も、死産であったコト。
 そして国民に対して『正室の姫』として周知させようとしていたクエリちゃんが、実は王妃様の子供では無かったコトも。
 本来であれば国内が大混乱に陥ってもおかしくないほどの大スキャンダルのはずだったが……意外にも、御触れが出たあとも国内は平静が保たれていたんだよね。
 それもそのはず……なんとレアリーダの国民の大半は、そんなコトはとうの昔に知ってたんだって!
 もー、心配して損したよね!
 こっちは『こんなに一度に大暴露しちゃって大丈夫なの!?』ってハラハラしたんだから!
 秘密を隠し通せていると思っていたのは、王様と一部の家臣だけ。
 王妃様の御不幸と死産はすでに周知の事実であり、国民たちは公共の場で口に出さないようにしていただけだったらしい。
 クエリちゃんの実情に関しても、国民たちはむしろ早く王様に打ち明かして欲しかったほどだったのだとか。
 しかし、王様がそんな状態に陥ってしまった原因が『夢魔』のせいだったコトに関しては、大勢の人たちが驚いてた。
 モンスターが蔓延るようなこの異世界でも『夢魔』の存在は大変珍しいらしく、王様が夢に入り込まれてから6年間も発見できなかった事実や、それによって自分の愛する人や娘を追放してしまうような事態を引き起こしてしまったという経緯が知れ渡り、国民に『夢魔』の怖さが知れ渡るきっかけになった。
 それでも王様は、『夢魔』のせいとはいえ国民を欺こうとしていた事実に変わりはないと真摯に謝罪した。
 けれど、国民の大多数は『夢魔のせいじゃ仕方ない』『これで王様も楽になったね』と同情の意を示してくれる結果となった。

 かくして、クエリちゃんは晴れて正式にお姫様となり……その母親であるマドラさんも『第二正室』という位置付けで王室へと迎え入れられるコトになった。
 当初私たちが考えていたような、『エルフ族だから王室に入れなかった』なんてコトは全く無く、むしろ美しく魔法の心得まであるマドラさんは多くの国民に愛される王妃として広く受け入れられている。
 国民に向けた正式な発表のあと、私たちは王様に招かれて再び王城に伺うコトになったんだ。

「聖女様、ネムちゃん様、この度は私たち家族を救ってくださって、本当にありがとうございます」
「ありがとうございます、おねえちゃんっ!」

 かつて王様から依頼を聞いた謁見の間で、白く美しい細身のドレスに身を包んだマドラさんとクエリちゃん、そしてボーボーに生えていたヒゲを綺麗に剃り別人のように若返った王様が並んで出迎えてくれた。

「聖女様、ネムちゃん様……お二人のお力添えが無ければ、私たちはこうして家族で笑い合える日など訪れなかった事でしょう」
「まこと、マドラの言う通りだ……ピルタ殿、そしてネム殿。国王として最上の敬意を表する。貴女らの活躍なくば、私は家族への愛を忘れたまま、取り返しのつかない過ちを犯していたに違いない……。今こうして、我が最愛の妻と娘がそばにいてくれるのは、全て貴女らのおかげだ。心より感謝すると共に、私がはたらいた無礼をどうか赦して欲しい……本当にすまなかった」

 王様がこうべを垂れると同時に、後ろにいたマドラさんとクエリちゃん、そして壁際にズラリと整列している大勢の騎士さんたちが一斉に頭を下げた。
 そして右手を胸に、左手を腹部に当てて最敬礼をしている。
 ひ、ひぇぇぇぇええ!
 や、やめてぇぇぇええ!
 私はこんな扱いをしていい人間じゃないですよぉおぉ!?

「えへへ……マドラさんも、王様も、そして何よりクエリちゃんが幸せになれて、ホント良かったですっ!」
「良かったなぁ王様。あの日の夜、寝所で無礼な言葉を使った事は水に流してくれよな」
「ははは! 勿論だとも、ネム殿!」

 おおきな口を開けながら笑う王様は、はじめて見た時と比べて本当に別人と思うくらいに印象が違う。
 それはおヒゲを剃ったからではなく、深かったクマが消えて顔色も良くなったせいかもね。
 傍らにいるマドラさんとクエリちゃんを見つめる鳶色の瞳が、威厳を感じさせつつも優しい父親としての面影を感じさせる。
 ヒトって、悪夢から解放されるとこんなにもスッキリした顔になるんだね……!
 こういうお顔を見ると、私の『悪夢祓い』もやりがいがあるな~って感じるよっ!
 このあと、王様から今回の件に関してのお礼の話があった。
 まず勲章とか貴族階級とか、そんなファンタジー特典っぽいお話があったけど、丁重におことわりしましたっ。
 こういうのって権利のほかに、貴族なら貴族の義務もあるってのがお決まりだからね。
 私はこの世界でエラくなりたい訳じゃないし、そういうのはのーさんきゅー。
 じゃあお金を渡しましょうーって提案されたんだけど、これも同じくのーさんきゅー。
 私たちが『悪夢祓い』でお金を貰ってるのは生活費のためであって、裕福になりたいわけじゃないからね!
 依頼主から貰うお金はあくまでオマケであって、どっちかと言えばネムちゃんに『悪夢』を食べてもらって力をつけてもらうのが主目的なワケですしー。
 ……なんて思ったので辞退を申し出たところ、三人とも困った顔をしちゃったんだよね。
 クエリちゃんなんてちょっとしょんぼりした顔になっちゃったし……!
 そこで、私はこちらから提案したんだ。

「じゃあ王様、もしできればお願いがありまして~……」
「む? ピルタ殿、なにか?」
「もしよろしければ、私たちが『悪夢祓い』の依頼を受けているコトを王様の名前で広~く知らせてくれませんかっ? そうすれば、私たちのところにバンバン依頼が舞い込んでくると思うんですよっ!」

 どう考えても、これが最も大きなメリットがあるよね!
 王様の後ろ盾を得て『悪夢祓い』を宣伝できれば、今までよりも大量の依頼が入ってくる……そうすれば、ネムちゃんはもっとたくさんの『悪夢』を食べられるかもしれないしね!

「おぉ、そうか。そのような事でよければ、いくらでも協力させてもらおう」
「そ、それと、あとひとつ……」
「ふむ?」

 あつかましい気はしつつも、私はもう一つのお願いを申し出た。

「こ、これからも、クエリちゃんに会いに……この王城に遊びに来てもいいですか? あ、いや、その、お忙しいとか立ち入り禁止とかならいいんですけど、私もクエリちゃんに会いに来たいですし……」
「……ピルタ殿、何を申されるか」

 もごもごと口籠もるようなカンジで話していると、王様の声が響いた。
 あひいぃぃ、さすがに無礼が過ぎたかな!?
 そりゃそうだよね、王家の住まいである王城に自称聖女とちっこいバクみたいなのがホイホイお邪魔していいはずなんて……

「大歓迎だとも。むしろ今後も是非、クエリや妻に会いに来てくれ。門兵には、ピルタ殿とネム殿が来たときは国賓として扱うよう下知しておこう」
「いつでもお越しください、聖女様っ。 またノルトアイルの花蜜で作ったお茶をご用意させて頂きますよ、うふふ」
「え、ええぇぇぇーーーーっ!? い、いいんですかぁぁっ!」
「ははは、良かったなぁピルタ」

 まさかの即答っ!
 う、うわーーーーん! 良かったよぉぉお!
 これからもクエリちゃんやマドラさんに会えるんだね……!
 お金よりも何よりも、嬉しいっ!!
 両手を上げて喜ぶ私の前に、クエリちゃんが駆け寄ってきた。
 私の手をとってぎゅっと握ると、とびっきりの笑顔をしてくれたんだ。
 
「えへへ、おねえちゃんっ! これからもいっぱい遊びに来てねっ!!」

 はうっ!?
 か、かわいい……かわいすぎる……!
 こんな可愛いコに、今後も『おねえちゃん』って呼んで貰えるなんて、嬉しいなっ!
 王様と、王様に愛されたマドラさん、その娘であるクエリちゃん。
 ようやく家族三人が揃って暮らせる日を迎えられて、本当によかったねぇぇ……!


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


 こうして、私たちは王様のおかげで毎日たくさんの『悪夢祓い』の依頼を受けられるようになった。
 今では1日に少なくとも5件、多い時には10件もの依頼をこなす日もあるほど。

「ところでさぁ、ネムちゃん」
「ん? なんだ、ピルタ?」

 私は果実水をソーダで割ったジュースに口をつけながら、謎のお肉をつまむネムちゃんに問いかけた。

「今回の王様の異変は『夢魔』の仕業だったんだよね? 今更なんだけど、なんでその『夢魔』は王様の夢に入り込んだあと、執拗にマドラさんだけを王城から追い出そうとしたんだろう?」

 私はコップの水面で炭酸の泡で歪んだ自分の顔を見ながら呟いた。
 ネムちゃんはお口に放り込んだ謎の肉を咀嚼しながら答える。

「ああ、そりゃ当然だろ。マドラさんは魔術に長けたエルフ族だからな……『夢魔』の奴がどんなに上手く偽装工作をしても、エルフであるマドラさんが毎日すぐそばに居たんじゃ、いつか『これは夢魔による影響だ』ってバレちまっただろうしな。王様の夢に入り込んで長い期間エネルギーを吸い続けるためには、魔術の気配を感じ取れるマドラさんは邪魔だったんだろうよ」
「じゃあ、クエリちゃんは? クエリちゃんもエルフの血を引いてるよね?」
「うーん、恐らくだが……クエリ姫はまだ幼かったから脅威とは見做されなかったんだろ。だが、もしあのまま『夢魔』の悪事を見抜けずにクエリ姫が成長していたら、『夢魔』の奴はクエリ姫が魔力を持ち始める前に、クエリ姫を殺そうとしたかも知れん」

 ネムちゃんの発した言葉を聞いて、私はぞっとしてしまった。
 ネムちゃんの言う通り、もし私たちが今回の王様の異変に関わるコトができていなかったといたら、いつか『夢魔』は王様をけしかけてクエリちゃんを除こうとしていたかも知れない。
 それはマドラさんと同じ追放という手段ではなく、場合によっては亡きものにしようとした可能性だってあったんだ。
 父親である王様が、娘であるクエリちゃんに手をかけるなんて未来が訪れなくて、本当に良かったね……。

「はー……『夢魔』って怖いね。まったく、どこから来たんだろう……」

 私は、今回の騒動で『夢魔』の厄介さを身をもって知った。
 そもそも、その『夢魔』とやらが王様の夢に入り込まなければ、誰も不幸にはならなかったはずなのに。
 そんな感情を吐露したいために口に出した私だったが……ネムちゃんは深いため息を吐いた。

「むう………………………………」
「……ふぇ? ネムちゃん……ど、どうしたの?」

 何気ない一言のつもりだったのだが、ネムちゃんはお皿の上のお肉をつまむのを止め、押し黙ってしまった。
 その表情は、見たこともないくらいに真剣だ。
 小さなバクのような身体でそんな顔をしているものだから、ギャップが激しすぎる。
 ネムちゃんは何度か口を開きかけては、また閉じるといった動作を繰り返した。
 その後しばらくして、やや小声になって話し始める。

「……ピルタ、これはあまりに胸糞悪い話だったから、お前には言わないようにしてたんだけどよ」
「えっ? な、なに?」

 ネムちゃんはその長い鼻からため息にしては重い息を吐くと、一呼吸置いてから話した。

「実はな……王様に『夢魔』をけしかけた犯人は、解ってるんだ」
「えっ……?」
「…………犯人は、亡くなった『第一正室』の元王妃様だった」

 ネムちゃんの告げた人物を聞き……私は耳を疑った。

「えっ……!? そ、それって謁見の間にあった肖像画の、黒髪の王妃様ってコト……!? う、ウソでしょおぉ!!?」
「ウソじゃねぇ。残念だが本当だ」

 ネムちゃんは機嫌が悪そうな表情になりながら、前脚で後頭部あたりをぼりぼりと掻いている。
 あまりに予想外の犯人に、私は持っていたコップを落としそうになってしまった。

「俺がノルトアイルの丘で食った、王様から出てきた泥水みてぇな『もや』の中に『夢魔』はいなかった。恐らく俺たちにバレると思って直前で逃げ出したんだろう。あいつらは姿を消す魔法を使うからな。そいつがまだ王城に潜んでる可能性もあったから、あの後王城に行ったときに痕跡を探したんだが……」
「う、うん…………」
「──────── あったんだよ、痕跡が。黒髪の王妃が亡くなってから閉鎖されていた王妃の部屋に『ヴィディアの方陣』と呼ばれる『夢魔』を召喚するための呪術儀式を行った跡がな。これは材料さえ揃えれば魔力のない人間でも発動させられちまう厄介な魔法陣で、一度発動させると『夢魔』の奴が魔力なしで自由に行き来できるゲートみたいになっちまう。そんなもんが、王妃の洋服タンスの中に隠してあった」

 私は、思わず唾を飲み込んだ。
 そ、そんな……?
 王様に『夢魔』を差し向けたのは、せ、正室の王妃様だったなんて……!?
 私は『夢魔』の残した泥水のような真っ黒い『もや』を見た時のように、背筋に悪寒が走るのを感じた。

「な、なんで…………!?」
「恐らく、王妃様は正室であるはずの自分を差し置いて、王様の寵愛を受けているマドラさんに嫉妬していたんだろう。『ヴィディアの方陣』を発動させるのは、魔力でも生贄でもない。施術者の強烈な嫉妬心だ」
「そ、そんな……………………」

 つ、つまり……黒髪の王妃様はマドラさんに激しく嫉妬するあまり『夢魔』を召喚する魔法陣に手を出し、そのせいで王様は夢の中で『夢魔』に生気を吸われるようになってしまい、更にその『夢魔』の策略によってマドラさんとクエリちゃんが追放されるコトになった……!?
 最悪の真実だ。
 まさか、諸悪の根源とも言うべき存在が亡くなった黒髪の王妃様だったなんて。
 うぅぅぅ……大量の依頼を受けてウキウキだった気分が、一気に沼の底のようになっちゃったよぉぉ……。

 ん?
 ネムちゃん今、夢魔は姿を消す魔法を使うコトができるって言った?
 そういえば、あの日のノルトアイルで王様の『悪夢』を祓ったあと……声が聞こえたような?
 あれって、もしかして ────────────────

「ここまで来ると、黒髪の王妃の子が死産になった事も、王妃自身が出産時に亡くなった事も……すべて『夢魔』が関与してる可能性さえ出て…………ん? どうした、ピルタ?」
「ほえっ!? え、いやっ、その、な……何でもないよっ」

 謎の声を聞いたコトを思い出していた私は、ネムちゃんから話しかけられて咄嗟にごまかしちゃった。
 怪訝そうな顔を向けるネムちゃんは、首を傾げている。
 隠すつもりなんて全く無いんだけど……まぁ、いいか。あとでゆっくりできる時にネムちゃんに相談すればいいよね。

「で、でもさ……そんな怖い『夢魔』だったら、また王様を狙ってくるのかな!?」
「いや、俺たちが関わった事で王様の『悪夢』が祓われた以上、『夢魔』の奴が今の状況でもう一度王様やマドラさんを狙う可能性はほぼゼロだろう。クエリ姫も、そばにマドラさんがいる限りは狙われる心配は無いと言える。となると、『夢魔』はどこかで次のターゲットを探し始めるかも知れん。もし可能であれば、痕跡を辿ってとっ捕まえてやらねぇとな」
「そうだねぇ……んむー、私が日本に帰る前に見つかるかなぁ? ここまで知った以上、どうにかして懲らしめてやりたいっ……!」

 その『夢魔』とやらをぶっとばしてやりたい気持ちは、私だって同じ。
 クエリちゃんを泣かせる原因を作った『夢魔』なんて、私がぼっこぼこにしてやる。
 縛り上げて、叩きのめして、脇腹を5時間くらいつっついたあと、ぬか味噌のなかに漬け込んでやるんだから!

「あー……えっとな、ピルタ…………そ、その事なんだがよぅ……」
「ほぇっ? どしたの、ネムちゃん?」

 私がフンフンと鼻息を荒くしていると、ネムちゃんは珍しく歯切れの悪い返事をした。
 私は目の前に置かれた木の実の皿に手を伸ばしながら、ネムちゃんの顔を覗き込んだ。
 なんだろう、さっきまでのマジメな話をしていた時よりも更に深刻そうな顔をしてる。
 デフォルメされた小動物感の強いネムちゃんがこんな顔をしてると、ギャップが激しすぎて笑いたくなっちゃうんだよぉ!

「いや、実はな……」
「なぁに? 急に改まっちゃって」
「や、その…………」

 しばらくモジモジしていたネムちゃんだったが、意を決したように息を吸い込むと、伏し目がちに話し始めた。

「……実は、お前が帰りたがってた『日本』ってところに送るだけの力が、ようやく溜まったんだよ」
「え…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!???」

 あんまりびっくりしちゃったもんで、私は大声を上げながら立ち上がってしまった。
 騒がしい酒場の中といえどさすがに私の叫び声は目立ってしまったようで、周囲にいる人たちからの視線が突き刺さる!
 う、うぅぅ……恥ずかしいっ。
 冷静になりつつ、ネムちゃんの言葉を頭の中で反芻する。
 日本に私を送るだけの力が溜まった、と言うコトは…………

「じゃあもしかして、私は元の世界に帰れるってコト!?」
「あー、まぁ、そうだな……。あとはピルタの戻るべき身体を探して、俺が送ってやればいいだけなんだが」

 う、うわーーーー!
 やっぱりそうだーーーー!!
 これでやっと、日本に帰れるかも知れない!
 17歳の女子高生に戻れるかもしれないっ!

「ひゃーー! ネムちゃん凄いねっ! そんなコトまでできちゃうんだ!?」
「あ、あぁ…………」

 長かった……ホントに長かったなぁ……!
 この異世界に来て、合計で1年と1ヶ月! こんなに長く夢の中にいたなんて、生まれて初めてだよっ!
 あ~~もうどうしよう、帰ったら何をしようかなぁ!?
 家系ラーメン食べたいし、お寿司も食べたいっ!
 スタンバックスのコーヒーも、コンジーコーナーのシュークリームも食べたいし……って、さっきから食べ物ばっかりだなぁ。
 そんな浮かれぽんちになった私だったが、ふと気付く。

「うん? ネムちゃんっ?」

 テーブルの上で黙ったままのネムちゃん。
 ちょっとだけ眉間にシワをよせて、苦しそうな顔をしてる。

「あ、あのな、ピルタ……その………………」

 その顔を見たとき、私はなぜか胸が苦しくなった。
 だって、こんな表情をしたネムちゃんを見るのなんて初めてなんだもん。



 でも…………不思議だね。
 どうしてかは解らない。
 けど、私はネムちゃんがこのあと言うであろう言葉がわかっちゃった。



「…………お、お前は元の世界に帰るために、今まで頑張ってたのも知ってるんだけどよ、その」
「うんっ」
「お前と相棒になってから、たくさん『悪夢』を食えるようになったし、そのおかげで俺もスゲェ力を増してきて……いや、そんな事よりも……」
「うんうんっ」
「…………お、お前と一緒だったこの1年が、長いこと生きてる俺にとっても最高なくらい、楽しかったからよ、その」

 がばっ、と顔を上げるネムちゃん。
 これ、なんていう表情なのかな。
 泣きそうな、でもどこか熱意を感じるような。
 それは、まるで愛の告白をしようとしてる男の人みたい。
 私は笑いそうなのを一生懸命こらえて、真剣な眼差しを受け止めた。

「…………も、もし嫌じゃなかったら! もうちょっとだけ俺と、その……一緒に、こっちで『悪夢祓い』をやらねえか!?」
「うん、いいよっ」
「早ぁぁぁっ! 返事早ぁーーーーっ!?」

 大声で叫ぶネムちゃん。
 直前まであった、ロマンチックななにかがどこかに飛んでった。
 うぅむ……さすがに即答すぎたかなぁ!?
 せっかくのネムちゃんの告白だったのに、全然感動シーンじゃなくなっちゃった!
 でもさー、こういう告白って早く返事してあげなきゃダメだよって、昔マンガで見た気がするしー。
 なーんて考えてたら、困惑したネムちゃんがおずおずと聞いてきた。

「お、おいピルタよぉ……ホントにいいのかよっ!? さっきのとおり、お前は本来『日本』ってところに帰りたくて俺の相棒になったんだろ!? そ、それなのに……そんな…………」
「んふふふ、んもー! そんなコト言ってぇ~! ネムちゃん嬉しくないのっ!?」
「いや、嬉しいさっ! これからもピルタと一緒にいられるなんて、そりゃあ嬉しいけどよっ!? そんな軽々しく決めていいのかって言ってんだよっ!?」

 けらけらと笑いながら返答する私に、必死になって確認するネムちゃん。
 困ったような表情をしてる、けど…………へへへ、口元が笑ってるのが見えちゃってますよ、ネムちゃんさんっ!
 私は、そんなバク似の相棒をそっと両手で抱き寄せた。

「軽々しく決めてなんかないよっ」
「え…………?」

 丸っこい身体をしたネムちゃんを、ぎゅっと抱きしめる。
 ふかふかの短い毛に包まれた身体が、じんわりと温かい。
 さらさらな手触りのネムちゃんの背中を、私は優しく撫でた。

「私もね、この異世界でネムちゃんに出会って、1年間も夢から醒めずにいるけど……すっごく、すーーーーっごく楽しかったのっ! こんなに楽しい経験したのって、私うまれて初めてなんだもん! そりゃーこの異世界には怖いコトもいっぱいあるし、日本に帰って食べたいものだっていーーっぱいあるけど、それでも……」

 腕の中で私を顔を見上げているネムちゃんに、私は照れ隠しの笑顔を見せた。

「それでも、ネムちゃんと一緒にもっともっと異世界を冒険したいの! だから、これからもよろしくねっ! 『相棒』さんっ?」
「ピ、ピルタ…………っ!!」

 私の名前を呼ぶネムちゃんは、また見たことないような表情をした。
 ずびっ、と鼻をすする音が聞こえた気がしたけど、気付かないフリをしてあげたんだっ。


 夢見る私が夢から醒めるのは、もうちょっと先になりそう!



 ー fin ー   
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