アルトリアの花

マリネ

文字の大きさ
13 / 73

11

しおりを挟む
あの日、鍛練所から部屋に戻ると、すでに綺麗に整っていて、晩餐前にはクローゼットが埋まるほどの新品の衣服が届けられた。
何処に着ていくのか悩むようなドレスから、簡易的なワンピース、寝間着に下着まで。
「ソウンディック様からの贈り物でございます。楽しそうに選んでらっしゃいましたよ。」
世話をしてくれる熟練のメイド、アンから爽やかに伝えられた。
いつの間に手配してくれたのだろう。
「有難いですが、その…下着まで?」
「はい。こちらに業者を呼んで選ばれてました。同席させて頂きましたので。」
どんな顔をして会ったら良いのか…。
どうしてサイズが分かったのかとか、なぜ好みが分かるのかとか、気になる事はたくさんあるけれど。
それよりも、あのソウンディックが艶やかでさらりとした黒髪を掻きあげながら、澄んだ青い瞳で女性物の下着を選んでる姿を想像してしまって、居たたまれない。
思い出しちゃいそう。

晩餐に迎えに来てくれたソウンディックは、早速袖を通したドレス姿を見て「良かった、似合ってる。」と頬を緩めてくれた。
「あんなに沢山、ありがとうございます。」
「うん。ぜひ着てみせて。」
爽やかに言われたのに、やっぱり下着を思い出して下をうつ向くと、側を通りかかったアルベルトは、目に涙を浮かべるほどに大笑いしていた。
なぜ分かったのだろう。

一人で暗い部屋に帰っていた日々を忘れるくらい、邸の人々は暖かく迎え入れてくれていて、義兄を心配するものの、あっという間に時間は過ぎていた。
「レティ、今日の午後から森に入ろうと思う。先に団の者を紹介するね。」
ソウンディックに連れられて行った居間には、ギルデガンド、アルベルト、カルテットの他に二人、黒い軍服に身を包んだ男性と女性がいた。
「クリストフ·ナキジン。帝国領土の南の島国出身だ。水の精霊の加護を持っていて、料理が得意だ。」
褐色の肌にくせっ毛の赤毛が良く映える。瞳も赤みを帯びていて、アルトリアではあまり見かけない風貌の男性だ。
「彼女はマリア·テレトワ。主に伝令を担当してくれてる。彼女の母が王宮のメイド長でね、彼女もメイド希望だったんだけど、身のこなしが凄いから引き抜いたんだ。魔術が使えるよ。」
すらりとしたスレンダーな肢体に、長い金髪は綺麗に後ろで束ね、意思の強そうな緑の瞳をしている。
「カルテットはこの間会ったよね。王都の平民街に居たところをスカウトした。諜報活動が得意なんだけど、馴れ馴れしかったら言ってね。」
絞めるから。と笑顔で物騒な事を付け加える。
ソウンディックが言うと、冗談に聞こえないのが怖い。
「ナキジン様、テレトワ様、カルテット様。この度はお力添えありがとうございます。」
淑女らしく礼をとる。
「よろしくお願いいたしますね。レティシア様。失礼ながら平民と聞いてましたが、綺麗なカーテシーですね。」
「義兄に習いました。」
平民だから淑女教育など必要ない。と嫌々していたが、習っておいて良かった。
「その兄君、必ず見つけましょう。」
ナキジンは力強くいう。
「よろしくお願いいたします。」

「マリアはレティの準備を手伝ってくれ。その他はこちらに残れ。レティ、また後でね。」
さすがに今着ている邸用のドレスでは、森には入れないので、退室して着替える必要がある。
ソウンディックがひらひらと手を振るので、こちらも思わず手を振り返すと、満足そうな柔らかな笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

わたしたちの庭

犬飼ハルノ
恋愛
『夜明けになるまで絶対に寝室の扉を開けないで』  未来の義母が告げたのは奇妙な夜の掟だった。  父に売られる形でブルーノ伯爵子息の婚約者になったフィリスの物語。  ヒロインのフィリスが自らの力と周囲の人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、しばらくは暗く重い展開です。  タグを途中から追加します。   他サイトでも公開中。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

三年目の離婚から始まる二度目の人生

あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。 三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。 理由はただ一つ。 “飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。 女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。 店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。 だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。 (あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……) そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。 これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。 今度こそ、自分の人生を選び取るために。 ーーー 不定期更新になります。 全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇

処理中です...