アルトリアの花

マリネ

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しばしの静寂のあと「さて、我々は移動しようか。」というソウンディックの言葉で、レティたちは西を目指すことになった。
行きと同様にアルベルトとクリストフが道を整えてくれるので、悪路も難なく歩ける。

「ソウ様、お聞きしたいことがあるのですが。」
「何かな?」
段差のある枯れ木を乗り越えるのに、側の枯れ枝を掴もうとしたら、ちょうど重ねられる場所に手を差しのべられた。木を踏台にしたら、背の高さが同じになり視線が重なる。
こちらの目が眩みそうなほど期待に煌めいていて、聞き出すのが忍びない。
そんなに期待させるような質問じゃないのだ。
「先ほどの精霊王のお言葉です。『人の身は煩わしい。嫌になれば、いつでも迎えに行く。』と仰ってました。あれはリュクス様に向けてですか?」
リュクスが自分だとどんなに言われても、記憶もなければ自覚もない。
とても同一の自分としては考えられなかった。
「そうだね。精霊は人間の何倍も長生きだし、魂で個々を見分けるっていうから、レティをレティとして見れない事もあるのかもしれないね。」

精霊王とソウンディック、二人のやり取りは決して穏やかな雰囲気ではなかった。
側に居たレティは、肌がひりつくような緊張感も感じた。
単純に仲が悪いと言うわけでもなさそうだし、聞くのを躊躇ったのだ。
「私としては、リュクスの記憶は無くて良かったと思っているけどね。」
「覚えていれば、もっとソウ様のお力になれたかもしれませんよ?」
探す必要もなかったし、もっと早くに出会えていたはずだ。

「いや、力になるとか思わなくて良いんだよ。レティが居てくれるだけで充分だ。」
左右に首を振ると綻んだ。
艶やかな笑みに、繋いだ手に力が入る。
「リュクスはね、精霊として生まれて、精霊王が親代わりに育てたんだ。幼かった私には分からない事も多かったが、親子以上に繋がりがあったんだろうね。本来なら精霊として、静かに永遠とも思える時間を精霊王とともに過ごすはずが、私が現れた事で人としての生を選ぶことになってしまった。きっと精霊王はそれが許せないし、リュクスの魂の君と、失ってしまった時間を取り戻したいんじゃないかな。」

「リュクスとは違うのに?」
「精霊王にすれば、魂が同じなら同じなのだろう。彼を呼べば、人の世で起きている事など気にせずに、君は魂の存在として永らえる事が出来るだろう。けれど、私はレティには、どんなに残酷であっても人の世で生きて欲しいと思うし、側で支えたいと願うよ。」
精霊王は人の世を煩わしいと言う。ソウンディックは残酷と言う。
レティには人として生きる事は当たり前なことで、選ぶとか嘆くとか、そんな事は今まで考えるなかった。
そんな事を考えないほど、毎日が充実して楽しかった。
記憶には無くても、幼い頃の隣国からの出来事を聞けば、身の上に嫌気が差すこともあったのではないか。
そうならなかったのは、義兄が育ててくれたからなのかもしれない。
久しく会えていない義兄の顔が、無性に見たくなってしまった。
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