アルトリアの花

マリネ

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義兄はどうしているだろう。
精霊王は命令したと言っていたが、二人で暮らす生活は、とても愛情に満ちていたと思う。
どんなに失敗しても駄々を捏ねても、優しく穏やかだった笑みは、とても命令で側に居た者のものではない。
あの少女は、捕虜になっていると言っていた。
「難しい事は分かりませんが、私は私として有りたいと思います。」
「うん。それが良いと思うよ。」
ソウンディックは穏やかに頷いた。

しばらく歩みを進めると、少しだけ森が開けてきたのか、明かりが射す崖へとやって来た。
「そろそろ見えてくる頃だろう。」
崖の縁からは、木々に隠れるように細い小径が見える。
獣道を少し広げたくらいの幅に、土を踏み固めただけの簡易的な道だ。
小さな荷台なら通ることができる。
「この木陰に身を隠して、出てはいけないよ。」
大きな木の陰に身を潜めるようにして道を覗いていると、耳元で囁かれた。
トンと手をつき、ソウンディックと木に挟まれる。
レティの後ろから、同じように小道を伺う息遣いが、かすかに触れる背中には体温が伝わってきていた。

「隊長、来ましたよ。」
足元の草むらに屈んでいたクリストフが小声で指さす。
ガラガラと荷車が進んでくる音とともに、数名の男性の声が聞こえてきた。
「アルトリアは魔物と騎士団にあふれてるって聞いてたが、なんてことはないな。」
「こいつも精霊が使えるようだし、高く売れるだろうよ。」
「今回の依頼は魔物の捕縛と偵察だけだったが、思わぬ収穫もあったもんだ。あんな森の深いところで何してたんだ、兄ちゃん。」
警戒心のない大きな笑い声が森に響く。
崖の上から見える荷馬車の荷台には、隠す気がないのか、布のはだけた部分から血まみれの魔物が数体、乗せられていた。
その陰から、見覚えのある銀髪の男性が横たわっているのが確認できた。
「兄さん。」
思わず叫びそうになったところを、後ろからソウンディックの手で塞がれる。
「お兄さんで間違いないね。」
こくんと頷く。
屈んで耳元で囁かれると、黒髪が頬をかすめる。
「俺たちに任せて君はここにいるんだ。何があっても出てきてはいけない。いいね?」
もう一度頷く。
分かったから、もう耳元でよい声を聴かせないでほしい。
くすぐったくて、恥ずかしくて、叫んでしまいそう。
口元から外された手は、そのままアルベルトとクリストフに向けて指をさし、手を払う。
二人はそれだけで理解したらしい。黙ってうなずく。
ソウンディックは覗き込んで微笑むと「すぐに片づけるからね。」と頭を撫でた。

腰に付けた長剣に手を伸ばし、身構える。
二人も崖下に跳躍する体制をとっている。
けっこうな高さがあるが、飛び降りるつもりだろうか。
カチャと金属音が鳴る。
「抜刀」
その呟きを合図に、三人は宙を舞った。
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