アルトリアの花

マリネ

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「お帰りなさい、レティ!」
魔物の山の影から、マリアが満面の笑みで駆けて来る。
後ろに縛った金髪が、夕日に透けて輝いていた。
「ただいま、マリア。ありがとうございます。ソウ様。」
馬を止めて、ソウンディックに降ろして貰う。
乗馬ズボンを履いてるからって、足の届かない馬から飛び降りるのは怖い。
「マリア、派手にやらかしたな。あれ、全部討伐した魔物か。」
「そうよ。皆がいなくなってから、一気に森から逃げて来たの。仕訳と解体するからって、夜営の準備まで始まっちゃった。」
「魔物の素材は高く売れますからね。」
テントは素材と肉の解体を行うためらしい。
鮮度は大事だけれど、あの量だものね。
慣れているアルトリアの民でも、一晩はかかるだろう。

「おい、何か動いてないか?」
誰かの悲鳴が聞こえる。
山積みになった魔物の死体の中に、まだ息があるものがいたようだ。
上に載せられていた死体をはね除け、赤黒い熊が這い出てきた。
「マウンティベアですね。」
アルトリアの街中で、解体場所に運ばれるのを見たことがある。
子熊でも2メートルの体長はあり、大人はその倍、鋭い爪と硬い毛皮が防具や武器になるが、肉は適切な処理をしないと臭みと毒性が強いと聞いた。

近くにいたアルトリア騎士団は、一斉に距離をとって様子を伺っている。
手負いの魔物は、何を仕出かすか分からない。
見誤れば、甚大な被害を被る事もあるのだ。
「何してるのかしら。私が行くわ。」
「ほどほどにな。」
魔物の気配に緊張する馬を宥めながら、アルベルトは声をかけたが、その横でカルテットが手加減なんて無理だろうけど。と呟いたのが聞こえた。

「魔物から逃げ出すなんて、ホント何してるのかしら?」
一歩、また一歩と、ゆっくりと正面から近づくマリアが右手を構えると、そこには黒く細い鞭が握られていた。
ビタン。ビタン。
音を鳴らし熊に向かい合う。
「大人しく死んでいれば良いものを。」
熊は口から泡混じりの涎をたらし、足元を見下ろした。
「ラウル。ソルト。」
掛声と共に二匹の黑狼がマウンティベアの背後から両肩に飛び付いた。
ヒュッと風を切る音がすると、マリアの鞭が熊の顔面に食い込む。
顔が抉れ、肩からは大量の血を流して熊は苦しんでいる。
狼たちを振り払おうと巨体を揺らすが、一匹がその反動を利用し、首元へ深々と牙を刺した。
「ラウル、噛み千切りなさい。」
狼はグイと牙ごと頭を持ち上げ、肉片を払うと、その場を飛び降りた。
その隙を逃さず、反対側からマリアの鞭が唸る。
次の瞬間には熊の頭は身体と離れ、大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。

夕焼けの逆光の中、膝丈くらいの二匹の狼を引き連れるマリアの影が浮き出される。
「格好いい…。」
魔術が得意って、ソウンディックから聞いてたが、魔物使いって事だったのね。
「えっ?」
「誰が?」
「マリアが?」
周りでマリアの勇姿を見ていた男性陣は、一斉にひきつった顔でレティを見る。
兄さんまで、失礼しちゃうわ。

「レティ…。」
怖がったらすぐに隠そうと、構えていたソウンディックが、一番ドン引きしてた。
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