アルトリアの花

マリネ

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「…っ。そんな事なんかじゃ、ないんです。」
我慢しようと思えば思うほど、感情も涙も溢れてくる。
今まで考えないようにしていた、浅ましくも思えていた感情が、彼を目の前にすると一気に込み上げてくる。
「わ、私はっ、リュクスのような役に立つ力もないし…。精霊の清廉な姿もない…っ。」
自分の意思では止められない涙が、ぼたりぼたりと落ちる。
手を伸ばせば届く、目の前のソウンディックの姿でさえ真面に見えなかった。

「ごめんレティ。違うよ。違うんだ。」
ソウンディックは慌てたように頭を振る。

「あなたはっ…リュクスの力が必要なだけなのに…。」
そう言っていた。
生きるために。世界を飲み込まないために、必要な存在がリュクスなのだと。

「違うよ。聞いて、レティ。」
伸ばされた手を振りほどく。

「それなのに…、それなのに優しくするから…。」
義兄に指摘されるまでもなく、自分の中でソウンディックの存在が大きくなっていくのを、日々感じていた。
怖かった。
リュクスじゃないって手の平を返されるのが。
側に居る資格などないって、突き返されるのが。

「嬉しくてっ、甘えてもいいんだって…勘違いしちゃう…っ。」
「確かにリュクスの力は必要だけど…ん?」

溜め込だ感情は次々と出てきて、自分でも何を言ってるのか、分からなくなってきた。
どうしたら良いかと慌ててたソウンディックの瞳が、大きく見開かれる。

「ひっく…そ、側にいるだけでドキドキしちゃうのに…わ、私を見て楽しむだけならっ、もう…放っておいて…」
「レティ…。」

口を覆うようにした彼に、段々腹が立ってきた。
人が泣いてるのに、なんでそんなに嬉しそうなの?
誰のせいでこんなに不安になってると思ってるの?

「もう…これ以上、好きにさせないでよ!」

ぶわっ。
レティシアが叫んだ瞬間、目の前のソウンディックから黒い靄が放たれる。

「ちょっ、ソウ様!?」
「ごめん。もう無理。」

言うが早いか、ソウンディックは包み込むようにレティシアを抱きしめた。
ソウンディックの腕の中から微かに見える足元は、丹精に手入れされていた芝が失くなり、黒い靄に隠されていた。

その光景を思わず見返した。
今まで泣きじゃくっていたのが嘘のように、ピタリと涙は出てこなくなる。
明らかに靄は、レティシアの言動のせいで出てきてしまったのだ。
思わず、足元の靄を隠すようにつま先を左右に動かした。

「レティが嫌がる事をしてしまったのかと思った。」
はぁと、ソウンディックはレティシアの肩に大きなため息をつく。

抱えられた身動きの取れない状態で、爪先をちょいちょいと動かすだけで、靄は消えていく。
芝は戻らないけど…。
土が顕になっている地面が痛々しい。

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