アルトリアの花

マリネ

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天井にまで届く本棚は、圧巻としか言いようがない。
初めて案内してもらった時に、ギルデガンドから、どんな者が辺境伯となっても良いように誂えられてるのだと説明された。
さすが、実力派貴族である。
揃えてある書物の種類も、子供が読みそうな絵本から高度な学術書まで多岐にわたる。
少し魔物に対する物が多いが、地域性だろう。
魔物や精霊の事を知りたいレティシアからすれば、大変助かる。

「数が多くて、いつも探すのが大変なんです。ご一緒出来るなら助かります。」
「この邸の図書室は、並の貴族邸よりも充実してるからな。」

ハハッと笑ったものの、ソウンディックの横顔はどこか誇らしげだ。
そういえば、幼い頃はギルデガンドに預けられて鍛えられたのだと誰かが言っていた。
幼少の頃には、ここに通っていたのかもしれない。

「歓談中悪いが、読書はまたの機会にしてくれ。問題が発生した。」
開け放してあった扉にもたれながら、アルベルトは手に持つ手紙をひらつかせている。
いつの間に受け取ったのか、物々しい真紅の封書が、その手には握られていた。

「…フィンからか。」
封書を目に止めたソウンディックが顔をしかめる。
フィン?
初めての聞く名前だ。
この邸に居る人たちの名前は、大分覚えたつもりだったのだけど…。

ソウンディックとアルベルトの間の空気が、ピリッと締まった気がした。
只ならぬ雰囲気に、仕事の話なら共に居ない方が良いのかと思案する。

「ここにいて。」
一歩引こうと身を反らしたところを、ソウンディックに袖を掴まれる。
こちらを見ても居ないのに、何故分かったのだろう。
後ろに目が付いてるんじゃないかしら。

すでにアルベルトによって中を確認されている手紙を開き、顔を思いっきりしかめてるところをみると、深刻そうだ。
「どうする?捜索隊でも出すか?」
「大人しく捜索されるとは思えない。すぐにここにやってきそうだ。ギルデガンドに知らせて出迎えの準備を整えさせろ。」
「了解。レティは、どうしてもらう?」
「恐らくレティの報告を受けて飛び出したのだろう。私から説明する。」

掴まれたのが、いつの間にか袖じゃなく手になってしまってる。
何だか、逃げ出したい雰囲気なんだけれど。
逃げられないのに、深刻な事にも巻き込まれそうな話が漏れ聞こえる。

チラリと視線を向けたアルベルトを目が合うが、彼にしては珍しく、困ったように微笑んで、その場を離れてしまった。
ソウンディックに手を握られたまま、ふたりきりになった部屋で、彼は清々しく微笑んで伝えた。


「さてレティ。君には私の弟に会ってもらいたい。」
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