アルトリアの花

マリネ

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「え?」
「そのうち会ってもらおうとは思ってたんだけど。」
「弟さん?ですか?」
「うん。そう。」

ソウンディックが気軽に話してくれるから、忘れがちだが、元々は王族の長子と言っていた。
精霊に厭われし者だったから、王位継承権は返上したものの、廃嫡は逃れ、末席にいると。
そんな人の弟って事は…。

「王族じゃないですか!?」
「うん。そうだね。」

さらりと返される。
しかもご兄弟って事は、継承権も持つ身…。

「王子様…って事じゃ…。」
「あはは。そうだね。」

ええ?身内だと、そんなにあっさりしたものなの?
ついこの間まで平民だった人間からしたら、別世界の話に思えるんだけれど。

「あ、あの、まだ貴族や王族の方にお会い出来るほど、作法が身についていないと思うのですが…。」
「いや、今のままでも十分大丈夫だよ。それに弟はちょっと変わってるし…。」
「変わった王子様…?」
「うん。王位継承権は第二位だね。上に姉のフィンがいるから。こちらも別の意味で変わってるけど、そのうちに会ってね。」
にっこりと微笑む。

こんな辺境の地では、王都の情報なんて不確かで怪しい。
「王子様や王女様がお城に住んでるんだよ」とおとぎ話程度に聞いていた。
まさか、自分に関係してくるとは…。

「えーっと、変わってる…とは?聞いて宜しいですか?」
恐る恐るソウンディックを見上げると、いたずらっ子のようにニヤッとする。
最近、良く見るようになった笑みだ。

「あんまり先入観は持って欲しくないから、少しだけね。弟はシュタイン、今年で13歳になる。闇の加護を持ってるよ。」
「闇…。」
闇の精霊の加護は、他の精霊に影響を及ぼす事も出来る上位精霊の加護だ。
精霊たちにも力や存在の大きさによってグループや取りまとめがあり、下位、中位、上位と分けられる。
その頂点に位し、多くの影響力を持つのが精霊王だ。

真面目に図書室で勉強しておいて良かった…。
こっそり胸を撫で下ろすレティシアを、ソウンディックが不思議そうに眺める。

読んだ書物によれば、ソウンディックの精霊に厭われし者が持つあの靄は、闇の精霊の加護に似ているのだという。
精霊の厭われし者の記述がほとんど無かったものの、闇の精霊については学術的にも研究が進んでいるようだった。

もしかしたら、王家には度々いたのかもしれない。
「その加護だけで変わってる…ですか?」
「いやあー。あいつの趣味が変わってる。あれは…どう考えても覗きだ…と思う…んだ。」

ここまで、もごもごと言い淀む彼は珍しい。
普段は言いにくい事でも恥ずかしい事でも、スパッと言い切るのに。
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