アルトリアの花

マリネ

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言いづらそうに、明後日の方向を見ている。
「…覗き…ですか?あまり…その…聞かないご趣味ですよね…?」
そんなに眼をそらされると、こっちまで聞きにくい。

「いや、趣味というか…。そう!情報収集だな。」
「…情報収集。」
だんだん眉間にシワがよってくる。
怪訝な顔をしてる実感はあるが、仕方ない。
御伽話の王子様がだよ?趣味が覗きって。

「まさか、王女様までそちらの趣味が?」
もしかしたら貴族間での流行りかもしれない。
そう思いたい。

「いや、フィンは策略家なだけだ。」
「…策略。」
こちらもあまり聞こえが宜しくないご趣味だ。
王家のイメージが、どんどん崩れていく。

「まぁ、なんと言うか。」
コホンと咳払いをして、改めて手を握り直す。

「闇の加護って人の悪意に敏感なんだ。」
うん。それは、勉強の成果で知っている。
悪意を助長させる事も、惹きつける事も出来ると。

「人って悪意のある噂とかするだろう?そういったものを敏感に感じ取れるみたいでね。」
「悪意を聞き分けられるのですか?凄いですね。」
「うん。聞き分けも出来るし、影からこっそり聞く事も出来るらしい。」
「影から!ああ、だから覗きと…。」

影の精霊は闇の精霊の下位なのだろう。
だからその能力も使えると…。

「悪巧みする場は感じ取られてしまうし、条件さえ満たせば会話も聞かれてしまう。全てを許容するには、あいつはまだ幼い。」
「弟様が心配なのですね。」
その言葉に、ソウンディックの表情がパァッと明るくなる。

「レティも会えば分かるよ!可愛いんだ。この間10歳になったんだけど、小さな頃からどこに行くにもついて来たがるんだ。」
今までしどろもどろと眼を合わせないようにしていたのに、弟の話になったとたん、饒舌になった。
凄く嬉しそう。
「こちらに来れて、良かったですね。」
そう述べたとたん、彼の動きがピタリととまる。

「良いというか、良くないというか…。」
「良くないに決まってるだろ。」
スパッとアルベルトが切り捨てる。
いつの間に戻ってきたのか、ソウンディックの様子にため息をついた。

「説明出来てるのかと心配して戻って来てみれば…。何やってんだよ。あいつは俺らの報告書を盗み見て、勝手に王宮を抜け出して来たんだ。今頃、城は大騒ぎになってる。」
「報告書ですか?」

「このところのエステザニアの動向や起こった事、レティシアの養女の件、何より探していたリュクスが見つかった…諸々の報告。隠しとく訳にはいかないからな。悪いな。」
「いえ。」
このところの出来事が、王宮にまで話をしなければならないくらいの大事だとは思ってもいなかった。
あくまでも身内の捜索。
あくまでも自分の身の振り方の範囲の事だと、考えてしまっていた。
ギルデガンドやアルベルト、ソウンディックまでもこんなにも動いてくれていたのだ。

「レティ。今回の事も他人事じゃないぞ。シュタインはレティを見にやって来るんだからな。」
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