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序章

第26話 おじさんと少女が邂逅しそうで、しなかったりするお話④

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 セイターンの街、中央街――

 お姫様歓迎ムードだった中央街は今やお祭り気分がやっとこさ消え、どこぞの赤き龍が超必殺技を放った直後の如き静けさだった。

 それもそのはず……奴隷商人の襲来により、露店を開いていた店は、そそくさと撤収。『裏代興業』には関わるまいと、皆一様に自宅警備員へと転職していたのだ。

 そんな閑散とした街並みを一人歩くおじさん……その名はサブロウ。

 やる気の『や』の字も感じられない死んだような瞳は、これから囚われの女の子たちを救う男には到底見えない。
 どちらかというと友達から借りた金でパチンコに行き、爆死したおじさんの風体……と例えた方が言い得て妙だろう。

「酷い言い草だな……」

 そもそも何故、こんなにもやる気がないのか? それは前回にも説明した、サブロウのある体質が関係していた。

 『巻き込まれ体質』――

 自分の意思に関係なく否応なしに物語を進ませ、それを糧として己が見識を広げる主人公にとっての必須スキル。凡人から見れば喉からインナーマウスが出るほど欲しい力であろう。

「あれが噂の奴隷商人か……」

 しかし、当の本人であるサブロウは、この体質を嫌っていた。
 まあ、7歳で父親に売られて、何の力もなしに別世界に飛ばされた挙句、三十年ほど苦労すれば嫌になるのも致し方ないだろう。

「あの……もう着いてるんだけど……」

 街外れに家を建て、一人で暮らしているのも、その為。
 そうすれば大層なことには巻き込まれないと、サブロウは考えたのだろう。

「む? 誰だ貴様⁉ まさかガチの奴隷商人である俺を潰しに来たってのか⁉」
「いや、ちょっと待ってくれる? まだナレーションの準備が……」

 なのでサブロウは基本的に不干渉のスタンスだ。
 街が魔王軍に攻め込まれようが、お姫様が悪漢に追われようが干渉はしない。

「おぉ、やってやんよ⁉ どっからでもかかってこんかぁいッ‼ おぉん⁉」
「え、何でいきなりそんな喧嘩腰なの……? お客さんだとか思わない? 普通……」

 では何故、今回は動いたのか? それは巻き込まれてしまったからに他ならないからだ。
 あの大迷惑の権化であるリリスが持ってきた話ならいざ知らず、自分の巻き込まれ体質が原因なら、それは自分の責任……という考えらしい。

「おぉん⁉ いいのか、いいのかぁん⁉ 俺が裏代興業と知っての狼藉かぁん⁉」
「あのさぁ……それって嘘だよね? あの人のいる裏代興業は奴隷売買なんてしないはずだよ? もうちょい設定練ってきた方がいいんじゃない?」

 つまり、それ以外では動かない。……『止まった』まま。
 自分が動かなければ、人に関わらなければ、他者に迷惑をかけることもない。

「はははぁっ⁉ 練ってますけど⁉ ちゃんと練ってますけど⁉ ほら、見てよ⁉ こんな可愛い女の子たちまで捕えてるんだよ⁉」
「いや、確かに可愛いけども……。悲しいかなナレーションが仕事サボってて、全く描写がなされていない……」

 だからこそサブロウは、己が生き様を『止めた』。

 そう。それこそが――
 
「よぉおし! そこまで言うなら、やってやんよ⁉ 俺様のステップから逃げられると思うなよ⁉ フォッホイッ!」
「うわぁー……すんっごいステップ踏んでる。すんっごいステップで近づいてきてるけど、全然伝わってない。頑張って近づいて近づいて……ハイ、今殴りましたぁー。敵を殴りましたよー、今ね。完全に落ちたー……かな? うん。おーい、もう終わっちゃったよー」

 ――サブロウくんのストップライフだ。

 完

「本当に終わっちゃったよ……」
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