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第三章
第96話 巷で話題のアレと、伝説のアレ①
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チェンジコードの申請により、サブロウはその身に黝い装甲を宿していく。
節々にはシルバーのラインが入っていき、メタリックな外装と共に月夜に照らされては、異彩を放つ。
『さあ……行こうか』
サブロウが加工された声色で歩み出すと、バルコニーの窓が、まるで斬り裂かれたかのようにひとりでに割れる。
晩餐室内には破砕音が響き渡り、割れた窓から風が入り込むと、首元に巻かれた鴉羽のマフラーが靡く。
部屋中に舞った鴉の羽が照明用のランプをも割り、灯されていた火を掻き消していく。
「――ななっ、なんじゃあ⁉」
「やっぱり……」
そして遂に、グランバードとアリスも月夜をバックに佇むその存在を認識する。
鴉を模した仮面で顔を覆う――『鴉羽の暗殺者』を。
『ハァ……やっぱり、か……』
……ん? やっぱり……?
『……やっぱり全部、茶番だったか……アリスくん?』
……え? どゆこと?
するとアリスは頬を伝っていた雫を拭い、「フッフフフ……」と不敵な笑みを零す。
その様相は先程のおどついた態度とは一転しており、純真無垢な眼は真っ黒で据わった目へと変貌を遂げていた。
「『やっぱり』ということは、貴方様も気付いておられたのですね……サブロウ様?」
『そりゃ、あんだけ分かり易くヒント貰えればね。となると、全員グルだったってことなのかな?』
「ご名答に御座います。お父様もグランバード様も、今回の為に一芝居打って下さったのです。中々お上手でしたよ、グランバード様」
褒め称えるアリスに対しグランバードは、
「やめてよ、アリスちゃ~ん……。ワシ、こういうの苦手って言ったじゃろ? もう辛くて辛くて……」
先程の悪役っぷりが嘘かのように苦々しい顔をしていらっしゃる。めちゃくちゃいい人やん……
「ご謙遜を。はまり役だったではありませんか」
「そんなフォローせんでいいよぅ……。じゃあ、ワシは帰るから。あとは一人で頑張るんじゃぞ?」
「はい。お世話になりました」
深々と頭を下げるアリスに見送られ、グランバードは早々に晩餐室を後になさった。
「どうやら上手くいったようだね、アリス」
かと思えば、今度はお父様が気の抜けた様子で扉から顔をひょっこり出す。
「はい。お父様も手伝っていただき、ありがとうございました」
「うん。じゃあ、お父さんも書斎に戻るから。あちゃ~、こりゃ後で掃除が大変そうだな……」
お父様は室内を見回しつつ、愚痴交じりに扉を閉めては即撤収。
本来ならこの状況、私が解説しなければならないのだろうが……恥ずかしい話、なんのこっちゃ分かっていない。というわけで、サブロウ。……解説して?
『さっき、アリスくんのお父様が言ってたでしょ。『お前は嘘をつく時、吃る癖がある』ってさ。それを言葉通り受け取ると、彼女は御丁寧に『自分は嘘をついています』と合図を送っていたことになる。そして彼女が吃り始めたのが――』
……あ! 仮面を外した時!
『そう。つまり、お見合いの話は全部嘘。茶番だったってことさ。……『鴉羽の暗殺者』を誘き出す為のね』
誘き出す? 何の為に……?
「その口振りから察するに、『N』様もいらっしゃるのでしょうか?」
――ッ⁉ この子……私のことまで……!
『……君、どこまで知ってるの?』
「サブロウ様が『裏代興業』のブリッツ様から『鴉羽の暗殺者』の称号を受け継ぎ、二代目になられたこと。あとは嘗て共に戦った英雄である『Nix』様と、行動を共にしていることくらいでしょうか。まあ、認識まではできませんけどね」
私の名前まで調べ上げてるとは……一体、いつから⁉
『いつからだって『N』が聞いてるけど?』
「ずっと前からですよ。『鴉羽の暗殺者』様に助けていただいた、あの日から」
『あの日……十年前からかい?』
「ええ。といっても当たりをつけたのは、ここ最近のことです。そう……一年ちょっと前、リリス様がこちらの世界に来られた時くらいにね?」
アリスは能面のように据わった目のまま、これ見よがしな冷笑を浮かべる。
『……なるほどね。確かに、あの時から僕の動きは活発化した。でも、だからって『鴉羽の暗殺者』だと決めつけるには、早計過ぎると思うけど?』
「私はずっと探していたんですよ……十年も。その間に私は、あらゆるコネを使いました。表も裏も全部ね。そんなことをしてたら、いつの間にか他の情報も集まるようになってしまいましてね。今では噂一つ流すだけで、情勢をコントロールできるようにまでなりました」
噂……? って、おいおい……それって、まさか……!
「この世界の人はそういった存在を、こう呼びます……『近所のヤスモトさん』とね?」
節々にはシルバーのラインが入っていき、メタリックな外装と共に月夜に照らされては、異彩を放つ。
『さあ……行こうか』
サブロウが加工された声色で歩み出すと、バルコニーの窓が、まるで斬り裂かれたかのようにひとりでに割れる。
晩餐室内には破砕音が響き渡り、割れた窓から風が入り込むと、首元に巻かれた鴉羽のマフラーが靡く。
部屋中に舞った鴉の羽が照明用のランプをも割り、灯されていた火を掻き消していく。
「――ななっ、なんじゃあ⁉」
「やっぱり……」
そして遂に、グランバードとアリスも月夜をバックに佇むその存在を認識する。
鴉を模した仮面で顔を覆う――『鴉羽の暗殺者』を。
『ハァ……やっぱり、か……』
……ん? やっぱり……?
『……やっぱり全部、茶番だったか……アリスくん?』
……え? どゆこと?
するとアリスは頬を伝っていた雫を拭い、「フッフフフ……」と不敵な笑みを零す。
その様相は先程のおどついた態度とは一転しており、純真無垢な眼は真っ黒で据わった目へと変貌を遂げていた。
「『やっぱり』ということは、貴方様も気付いておられたのですね……サブロウ様?」
『そりゃ、あんだけ分かり易くヒント貰えればね。となると、全員グルだったってことなのかな?』
「ご名答に御座います。お父様もグランバード様も、今回の為に一芝居打って下さったのです。中々お上手でしたよ、グランバード様」
褒め称えるアリスに対しグランバードは、
「やめてよ、アリスちゃ~ん……。ワシ、こういうの苦手って言ったじゃろ? もう辛くて辛くて……」
先程の悪役っぷりが嘘かのように苦々しい顔をしていらっしゃる。めちゃくちゃいい人やん……
「ご謙遜を。はまり役だったではありませんか」
「そんなフォローせんでいいよぅ……。じゃあ、ワシは帰るから。あとは一人で頑張るんじゃぞ?」
「はい。お世話になりました」
深々と頭を下げるアリスに見送られ、グランバードは早々に晩餐室を後になさった。
「どうやら上手くいったようだね、アリス」
かと思えば、今度はお父様が気の抜けた様子で扉から顔をひょっこり出す。
「はい。お父様も手伝っていただき、ありがとうございました」
「うん。じゃあ、お父さんも書斎に戻るから。あちゃ~、こりゃ後で掃除が大変そうだな……」
お父様は室内を見回しつつ、愚痴交じりに扉を閉めては即撤収。
本来ならこの状況、私が解説しなければならないのだろうが……恥ずかしい話、なんのこっちゃ分かっていない。というわけで、サブロウ。……解説して?
『さっき、アリスくんのお父様が言ってたでしょ。『お前は嘘をつく時、吃る癖がある』ってさ。それを言葉通り受け取ると、彼女は御丁寧に『自分は嘘をついています』と合図を送っていたことになる。そして彼女が吃り始めたのが――』
……あ! 仮面を外した時!
『そう。つまり、お見合いの話は全部嘘。茶番だったってことさ。……『鴉羽の暗殺者』を誘き出す為のね』
誘き出す? 何の為に……?
「その口振りから察するに、『N』様もいらっしゃるのでしょうか?」
――ッ⁉ この子……私のことまで……!
『……君、どこまで知ってるの?』
「サブロウ様が『裏代興業』のブリッツ様から『鴉羽の暗殺者』の称号を受け継ぎ、二代目になられたこと。あとは嘗て共に戦った英雄である『Nix』様と、行動を共にしていることくらいでしょうか。まあ、認識まではできませんけどね」
私の名前まで調べ上げてるとは……一体、いつから⁉
『いつからだって『N』が聞いてるけど?』
「ずっと前からですよ。『鴉羽の暗殺者』様に助けていただいた、あの日から」
『あの日……十年前からかい?』
「ええ。といっても当たりをつけたのは、ここ最近のことです。そう……一年ちょっと前、リリス様がこちらの世界に来られた時くらいにね?」
アリスは能面のように据わった目のまま、これ見よがしな冷笑を浮かべる。
『……なるほどね。確かに、あの時から僕の動きは活発化した。でも、だからって『鴉羽の暗殺者』だと決めつけるには、早計過ぎると思うけど?』
「私はずっと探していたんですよ……十年も。その間に私は、あらゆるコネを使いました。表も裏も全部ね。そんなことをしてたら、いつの間にか他の情報も集まるようになってしまいましてね。今では噂一つ流すだけで、情勢をコントロールできるようにまでなりました」
噂……? って、おいおい……それって、まさか……!
「この世界の人はそういった存在を、こう呼びます……『近所のヤスモトさん』とね?」
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