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第三章

第112話 ヤったものには必ず痕跡が残る。そして真実は意外なところに……③

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 さて、父親との人生相談も佳境。そろそろサブロウの手牌を覗いてみよう。

 萬子、筒子、索子、それぞれに二三四の順子があり、雀頭は赤五筒。残りは二三萬で一四萬の両面待ち……って、随分な手だな。リーチして四萬アガリなら、メンタンピン、一盃口、三色、ドラ2。ツモ、一発、裏ドラの可能性も秘めている。最低でも跳満の手だ。

 本来、二人麻雀は自模れる回数が少なく、アガリにくいとされているもの。お前コレ……積み込みしたろ?

(相手はあの代打ちの名手だからね。親父だって洗牌シーパイしてたとき普通にやってたし。妨害しながら積み込むの、結構大変だったんだよ?)

 話を聞いてもらってる立場なのに、さらっとイカサマを自白するサブロウ。息子が健やかに育っているようで何よりだ。

「で? お前はどうするんだ? この状況を受け入れるのか?」

 そう言いながらアマトは、打一索をする。

「う~ん、どうだろう? ……って、悩んでる時点でもう決まってるのかな?」

 サブロウは自嘲気味に牌を引くと……その動きが一瞬止まる。

 どうした、サブロウ?

(なんで……字牌がっ……⁉)

 字牌? あぁ……西か。別に何もおかしくないだろ? 河にないとはいえ、二人麻雀だ。単純に出てないだけとも取れる。普通に切ればいい。

(いや、親父のイカサマの一つに字牌のコントロールがある……。自分の手牌に集中的に持ってきた後、相手に出させて一気に飛ばす戦法だ。早めに出しても副露か拾われるのがオチ。防御用で持ってたとしても、後半それが足枷になって自分の手が進まない。逆に警戒し過ぎると普通の手でアガられてしまう。そうやって親父は場の状況を読み、支配することで勝ち上がってきたんだ)

 今回は手積み。それだけ精度よくイカサマができるとなると……厄介だな。

(だからこそ僕は、字牌が出ないよう積んだはず……なのに……!)

 相手の方が一枚上手だったか。となるとこれは……

(切れない……! ここは崩すしか……)

 サブロウは断腸の思いで二萬を切り、様子見する。

「ヤったものには必ず痕跡が残る。フッ……今みたいにな?」

 アマトは牌を引くと、手出しで切る……四萬を。

「くっ……⁉ まだテンパイしてなかったのか……!」
「お前は見す見す勝機を逃しちまった。その痕跡が二萬《ソレ》だ」

 サブロウは悔し気に顔を歪めつつも牌を引く。すると――

(――ッ⁉ 二萬……⁉)

 もう一度引き入れる……勝利のピースを。

 このチャンスを逃さんと、サブロウはその面持ちのまま、先程引いた西を強めに切る。相手に悟られぬようにと、切ってしまう……

「おっと……ちょうど今、引いてきたところだったんだ――カン」
「え……?」

 アマトは牌を倒す。サブロウの切ったのと同じ――西を。

「言ったろ、サブロウ。ヤったものには必ず痕跡が残るって……」
「痕跡……? まさか、この二萬はっ⁉」

 サブロウが河に視線を移すと、そこにあるはずの牌が別の牌へと変わっていた。……アマトが最初に出した二萬が一萬に。

(入れ替えられてる……⁉ しかも、僕の当たり牌にッ……!)

 心情を掻き乱されるサブロウ。対してアマトは淡々と続ける。

「それに、お前は俺に字牌を引かせぬよう積み込みしただろ? ……奥の奥の方まで」
「奥の奥……嶺上牌りんしゃんはいッ……!」

 嶺上牌――

 麻雀は全ての牌を使用しない。必ず十四枚の王牌ワンパイを残すのがルール。
 だが、その一番端……カンをした時だけ補充できる牌が存在する。

 それが嶺上牌。本来ならまみえること叶わぬ、王なる牌。

「そう……。まやかしに騙されるなよ、サブロウ。真実は意外なところに、眠ってるもんだ――」

 アマトは嶺上牌を引くなり、見ることなく東を叩きつけ――

「ツモ。字一色、大三元……飛んだな」

 ダブル役満を告げたのち、親子の麻雀対決は一発で終局となった。
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