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5話 襲撃
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男は唖然としている。
男は、なぜ俺の拳はこの小さなすぐ折れそうなランチ旗に軽く止められてるの?と思った顔をしている。
俺も驚いている。一体何が起きているのか。
「他のお客様に迷惑です。これ以上騒ぎを起こすなら…」
というと、凛は男の目をギラリと睨みつけて言った。
「出て行け」
二人の男は怖くなって覚えとけよ~と言いながら走って出て行った。
「あ、申し訳ありません皆さま!どうか!たのしんでお食事を~!」
他のお客は緊張が一気にとけたように顔が緩み、歓声が巻き起こった。
「え…おい諒、今のなんだよ」
「あぁ、あいつのフォースだよ。」
「なんのフォースよ。」
「凛のフォースは"強化"だ」
市宮凛。フォース"強化"手に触れた物体、二、三メートル以内にある離れた物体を強化することができる。しかしそれは、その物体の硬度や、物質濃度を高めるのではなく、フォース上に存在する物体のパラメータを最大限まで上げることが可能になる。
「強化、か。なんかいろんなフォース存在するんだな。」
「まぁそうだな。でも最近の研究じゃあ、人類でフォースを秘める超能力者は"一割"もいないって話らしい」
「へー」
知らないことばかりである。
———19:00頃———
俺たちは店締めをしていた。
「はぁ~、疲れたね~蓮」
「まあずっと気を緩めず頑張ってたもんな、凛」
「これが私のモットーなんですぅ」
「なんだそれ」
「どうだ?蓮、少しは慣れたか?」
「まあ、だいぶ」
「なら良かった」
超能力者なんて、普通の人と少し違うと思っていたが、こうして触れ合ってみると、全然仲良くなれる気がした。てかなれた。
片付けも、あっという間に終わり、帰る直前。
「じゃあ、宗さん、先失礼します。」
「あぁ、またね、気をつけて」
三人で帰るが、なぜか俺だけ歩く方向が違った。
「え、蓮何してんの?」
「え、なに」
「なにって…聞いてないの?この後会議があるって」
「はー?」
(聞いてないんですけど、何も。)
「なんか、シグナス以外にもライラ、アキュラの人も来て、結構大きな会議らしいから、Forsの本部に行かないといけないのよ。だから、蓮も行くよ。」
「え、まじかよ。」
実は明後日、愛の誕生日である。そのため帰りにプレゼントを買おうとしていたのに。
(明日にするか)
こうして、訳もわからずおれは二人について行くことにした。
—————————
駅から電車に乗り、たどりついた東京港区
たくさんの巨大なビルが立ち並ぶ街にドンと存在するビル。おそらく別の理由で建設されたこのビルをまさか人々は超能力者が結集された団体、Forsの本部とは思わないだろう。
「到着。ここがFors本部よ。さ、入ろ!」
中に入ると、いろいろな個性ある人たちがいた。
「お!蓮!」
シグナスのみんなも集まっていた。
「蓮絶対に来ないと思ったわ~」
(連れてこられたんだよ)
そんなシグナスが集まっている中に、一人フードを被った顔の見えない人がいた。
(あれ、誰だあの人、いたっけ?前)
すると俺に気づいたフードの人は背中を向けどこかへ歩いて行ってしまった。
「みんな~、揃ってる?そろそろ会議室の入場許可が出ると思うから、いくよ~」
「うぃーす」
俺は周りをよく見ながら歩いていた。
すると…
「ん?お前見ない顔だな。新入りか?」
「え、おれ?」
「お前名前は?どんなフォース使うんだ?」
話しかけてきたその男は、ゴツゴツとした上裸の男だった。
(な、なんだこいつ)
「藍沢蓮…。フォースは…その」
すると後ろから肩を組んできた諒が誤魔化すように言う。
「あー。こいつアホだから自分のフォースまだ分かってなくて~。まあまた後で俺から説明するよ、士道!」
諒が士道と呼ぶその男は、なんだ?というとつまらなさそうにどこかへ歩いて行った。
(あんな野獣みたいなやつもいんのかよ。Fors。こわっ…てか。)
「アホってなんだよ。アホって。まず俺はフォースなんか…」
「まあまあ、信じたくない気持ちもわかるよ。」
そういうと諒は少し真剣な顔をして前を見つめながら言った。
「でも、お前さ…見ただろ?目の前で…。確かに気持ちはわかる。ついさっきまで普通に生きてた自分が今ではこんな超能力者が集うとこにいて、信じられない気持ちはわかる。
でも…。もう今の時代は"自分の命は自分で守る"じゃねーんだ。」
すると諒は俺の目をしっかりと見て言った。
「"俺たちが命を守らなければならない"時代なんだよ」
俺はこの言葉の意味はまさに自分のことだと思った。目の当たりにした"あの光景"から、俺は愛を守ることが本当にできるのか。あの時感じた自分の情けなさを今でも強く覚えているからかもしれない。
俺はただ、"勇気"がないだけかもしれない。
おそらく、自分の心の底では、
"フォースの存在"も、
"自分の今の状況"も、
"今の時代の正義の形"も、
きっと信じているはずだと思う。
"フォースは目の前で見た"
"鉄骨の落下で、普通生きられるわけがない"
"自分の情けなさ"にも気づいている
ただ俺が"体現できるかどうか"の話だ。
俺はありがとうと言うと、少し胸を張った。
まず、自分自身が受け止めないといけない。
少しずつ…
そうこう考えているうちに、広い会議室に着いた。
三列に並べられた多くの机と椅子。
真由は右列の椅子に詰めて座って、と言うと一番前の席に行き、同時になぜか俺を手招きしている。
前に行くと真由は隣に座ってと言った。
(なんで俺が一番前の席に…)
「蓮、新人なんだから、ちゃーんと話を聞くのよ」
「は?なんで俺が」
「まあまあ、いいからいいから」
横を見るとすでに大勢の人々が座っていた。
(何人いんだよこれ。全員超能力者かよ)
前を見ると、一つ椅子と机が並べられている。
ガチャッ
すると…後ろの大きな扉が開いた。
コツ、コツ、コツ
中に入ってきたのは、長い金髪の女。白衣を着て、眼鏡をかけている。そして、その後ろに並ぶスーツを着た男たち。
その女は歩きながらスーツの男に問いかける。
「今日、"五天峰"の人達と、"千里"は?」
「はい、五天峰の方々は今日は出席しないと…。千里さんは旅行と申しておりました」
「まったく呑気な人たちね」
微笑しながら笑うその金髪の女を周りの人達は騒ぎ立てている。
「だれだ、あれ」
「外人?見たことねー顔だな。」
前にある椅子に腰をかける金髪の女は足を組むと手に持っていた紙をひらりとめくり少し眺めた後、目の前にあるマイクに口を近づけ言った。
「皆さん、初めまして。Forsの代表を務めさせてもらっております、"ルミリエル・ノア"
と申します。よろしくお願いします。」
時が一瞬止まったと思ったその瞬間、一気に周りが騒ぎ出す。
「あ、あれがあのノア代表?女性なの?」
「えーまじ。意外」
「やば、初めて見た」
俺は周りの反応を見ると真由に聞いた。
「なぁ、真由。もしかして、あの代表の正体って…みんな知らなかった感じ?」
「その通り、私もまさか今日、彼女本人が出席するとは思わなかったわ。話は聞いてたけど。」
「でも、なんで正体隠すんだよ。怪しくないか?」
「彼女は日本人じゃないからね。ケジメがつかない可能性があると思って、正体は隠していたらしいわ。それも女性だと余計緩むと思ったんじゃないかな。」
騒ぎ立てる人々をわざと咳払いをして注目をさせると彼女は口を開いた。
「時間が無いため、会議を始める。」
そう言って横をチラッと見ると、女の人がボタンを押す。
大画面で照らされるモニター。
画面には、立体的なCGで出来た東京の街が映し出された。
「ここ最近、さらに増えている無差別殺人事件。警察が解決できないその理由は、"証拠を掴めない"とのこと。犯人は自分の顔を見たものは必ず始末し、目撃情報を完全消去。
そして、爆発や火事の際には、火元さえも謎のまま、事件は解決へと導かれない」
ノア代表はそう言うと、机に手を置き、立ち上がった。
「しかし、最近起きた、新宿の超高層ビル爆発事件に、先日、唯一、現場を目撃した生存者が発見された。そしてその生存者はこう言った」
(超能力者はいます。"正義と悪"の…)
「つまり、世間はフォースの存在。そして超能力者には味方と敵が存在するということを認識したことになる。私たちはその"味方"の立場であると証明しなければならない」
するとモニターの画面が変わる。
「今回、会議を開いた理由は作戦を共有するため。シグナス、アキュラ、ライラ、それぞれの団体で確認は取れているだろうけど、一応もう一度。東京全土に均等の距離感覚を保ち、数人のチームを各地に配置。何か近くで事件が起きれば全体へ情報伝達。全チームで総攻撃を。しかし問題はここから…。」
「私たちは、人々を守らなければならない。しかし予想はついている、それは今の状況で避難を要求しても信じてはくれない。だからこそ、事件が起きたその瞬間の迅速な対応が重要になってくる」
「いつ起こるか分からないが、時間は明確。
"夜"よ。ここから毎日、奴らを仕留めるまで、日が落ち、昇るまでの間、各自待機してもらう。これ以上の被害を出さないために、どうか協力してほしい。」
すると、真ん中の席の一番前に座っていた男が口を開いた。
「おい…。」
眼鏡をかけ、ネクタイはしてないがスーツを着たヤクザのような服装をした男。
アキュラの司令長
虎帯元蔵(とらおび げんぞう)
「なにか?」
「お前まさか…"市民全員を救う気"でいるんじゃないだろうな。」
「多少の危険は伴うが、各地にチームを配置すればすぐに対応は取れると考えている」
「無理だ。何を考えている。お前は奴らの強さをまだわかっていない。過去にどれだけ殺された?過去にどれだけ失敗を重ねた?奴らの強さは未知数だ。全ての人を救うのは不可能だろ。」
睨み合う二人。すると左列の一番前の男が立ち上がると言った。
「まあまあ、元蔵さん。気持ちはわかりますよ。でも、僕たちも非力じゃない。これまで数々の事件を解決してきた。ここにいる戦士たちの可能性に賭けてみては?」
手を広げて話すその男。
ライラの司令長
大門寺 海(だいもんじ かい)
大門寺にそう言われると舌打ちをした虎帯は後ろへ退場していく。
「チーム割は今日中に各自司令長に連絡するわ。」
そう言うとルミリエル・ノアは颯爽と歩いて退場して行った。
少し異様な空気が漂う中、会議は終了した。
—————
「てことで、みんな、明日の夕方17時にシグナス本部に集合。各自配置についてもらうわ。おっけいだったら解散よ。」
「おつかれ~」
(さて、俺も帰るか、時間は20時半。店開いてるかも。)
「おい、蓮帰ろうぜ、一緒に」
こっそり帰ろうとしたら諒が話しかけてきた。
「え、おれ?(うわー、さすがに一人で帰りてー。)」
「あー、俺ちょっとトイレ」
「え、おい、なら先行ってるぞ」
「おう」
行きたくも無いが、少し歩いた先にあったトイレに向かった。
「元気にしてた?梨華」
「え…うん。愛菜は?」
「私は元気にしてたよ、久しぶりだね。」
「うん」
角を曲がろうとしたら、トイレの前で話す二人の女がいた。
(あれ、愛菜か。もう一人の女の子は…だれ?)
「梨華…まだ気にしてる?"あの事"…。」
下をうつむく茶色く長い髪をした梨華という女。
(何話してんだ…?てか、やばい普通に出そうになってきた)
おれは邪魔しないようにそっと横を通り過ぎることにした。
(そーーっと、邪魔にならないように~)
「ねぇ。聞いてる?」
少し大きめの声にビクッとなってしまった。
「え、あんた。いつのまに」
「え?あ、えっとー。トイレに行こうと思ってー…」
「今の聞いてたでしょ」
「え、いや聞いてないって…」
すると話を割るように梨華という女が言った。
「ごめん、私行くね」
「え、ちょっと梨華!」
梨華の後ろ姿を見つめる
「えっと、だれ?」
「うっさい」
そう言うと愛菜は彼女追いかけて走って行った。
俺は呆然とその光景を見ていた。
(な、なんだよ…)
——————-
「梨華!まってよ!」
追いついた愛菜は梨華を呼びかける。
梨華は後ろを振り向くと、うつむきボソッと言う。
「愛菜、だめだよ。私を許しちゃ…」
「梨華、あのね」
「ごめん。」
そう言うと、梨華は歩いて行ってしまった。
「愛菜…?」
「え、あ、真由」
「どうかしたの?」
横から現れた真由は、愛菜と何か話していた梨華の方をチラッと見つめると言った。
「あの子、アキュラの八舞梨華ちゃんだよね、知り合いだったの?」
「うん、まあ昔ね」
「ふーん、そっか。大丈夫?」
「え?あ。うん…真由はなんでまだ?」
「あ、私はノアさんにちょっと話があってまだ残ってたの。さっ、帰ろ?」
「うん」
少しうつむく顔をした愛菜を心配する真由は後ろにそっと手を添えた。
——————
先日発見された、超高層ビル爆発事件の目撃者の供述により、世間は超能力者の存在を初めて知ることになる。
(先週、新宿区、超高層ビルで起きた爆発事件および殺人事件の生存者が発見され、超能力者の存在が露わになったことで…)
(法務省はたびたび起きている殺人事件について…)
(ほんとにこわいですよね~。まさかほんとに実在するなんて)
(いやー見てみたいよ。その超能力者)
(悪はわかるけど、正義って一体だれなんだ?)
(ヒーローとかいんのかな~?)
世間は超能力者によって殺人事件が起きていたことを認識し、大パニックを起こしていた。ニュースでも全てのテレビ局がそのことについて報じていた。
———蓮の家———
「テレビ番組、全部ニュースか。大きくなってんな~。」
「私たちは目の前で見ちゃったもんね。まさかほんとにいるなんて思ってなかった。」
「なぁ、愛はさ…」
「うん」
「超能力者、"正義"の方は好き?」
「んー。好きって言われたらあれだけど、かっこいいと思う。必死で命をかけて守ってくれるあの姿。まず超能力者に太刀打ちできるのって、超能力者だけだしね。」
「そっか。」
(必死で命をかけて守る…か)
「蓮、今日夕方時間ある?」
「え、あ、えっと…」
「なんかある?いいよいいよ!」
「うん。ごめん。」
「ちょっと買い物付き合って欲しかったんだけど、一人で行くね。」
「いや…今日は夕方からは家からでちゃダメだ。」
「え、なんで?」
「そ、それは…。あ、俺が買ってくるから、
何買ってくればいい?」
「え、いいよ。用事あるんでしょ?」
「いやまあ、その…とにかく、俺が買ってくるから、愛は家の中にいて?」
「そっか。ううん、じゃあ明日の昼に買いに行くよ。」
「え、そーなの?いいの?」
「洗剤がなくて…明日でも大丈夫だよ」
「そ、そっか。でも明日は愛の誕生日だから。俺が行くよ。」
「え、ねぇ、どうしたの?」
少し不思議そうに笑いながら言う愛の目を俺は見れなかった。
「いや、別に。気にしないで」
そう言って少し無理して笑うと、俺はごちそうさまと言い、皿を片付けに行った。
(蓮、何か考え込んだ顔してる。)
「蓮、なにかあったの?言ってよ?」
「え、なに?何も無いって」
少し誤魔化すように笑ったが、言えるわけがない。俺が超能力者になってしまったことを。信じてないけど俺は。
——夕方——
シグナス本部
「さ。みんな揃った?これ見て!」
そう言うと真由は少し大きめの地図を出した。
「各自自分の配置場所を確認して!それぞれ待機できたら連絡お願い!私は司令室でみんなの指示をするから。よろしく!」
すると奥から篤がビニールに入った何かを俺に持ってきた。
「蓮君、これ、新しい服っす」
「これに着替えんの?」
「そーだよ蓮。その服は、超小型カメラを搭載した、火の耐性ばっちり、防弾ばっちり、動きやすさばっちり、のシグナス専用のスーツ!その小型カメラから私たちは各自の様子をモニターで観察し、指示をこのイヤホンから伝える。」
そうして片耳につける小型のイヤホンを渡された。
「これで蓮もバッチリ、シグナスの戦士ね」
(まじかよ…。)
すると後ろから、剛斗が肩を組んできた。
「蓮、お前は俺と同じ地区だ。よろしくな。」
「え、おう。よろしく、てかおれフォースとか使い方わかんないけど…」
そう言うと剛斗は少し笑って言った。
「あーぁ、大丈夫大丈夫。そんなの時期に使えるようになるんだよ。まずこの俺がいるから大丈夫だ。安心しろ」
「お、おぅ」
こうして俺は、不安ながら、各自配置につくことになった。
各配置の間隔は、東京全土に半径5キロの円を何個も重ならないような形で配置された。
しかし、ビルが密集している場所のみ。
2人1組で配置につく。
俺の相手は安斎剛斗。いつも筋トレばかりしているやつだ。フォースは知らない。
「おい、蓮、何ぼーっと考えてんだ。」
「え?あぁ、ちょっと」
「なになになにぃ、女か?女か?」
「ちっげーよ。」
「ん?この辺じゃねーか?俺たちの配置」
俺たちは東京都港区六本木の地区で待機となった。行き交う人々は、まさか俺たちがフォースを持つ超能力者とは思わず、真顔で素通りしていく。
——1時間後——
時間は19時
「はぁー、今日はさすがに来ないんじゃねーか?」
俺たちは行きしにコンビニで買ったパンを食べていた。
「まだ1時間しかたってねーよ。」
「まじか」
しかし、その時だった。
ピッピッピ
耳元のイヤホンが鳴った。
「はい、もしもし」
(蓮!剛斗!中央区よ!急いで!)
「なっ、出たのか。」
俺たちはパンを口に頬張ると、中央区に走った。
「おい、蓮!中央区って、沙耶と峻太んとこじゃねーか?」
「覚えてねーよそんなの!」
「くっ、とにかく急ぐぞ!」
——東京 中央区——
激しいサイレン、沢山の悲鳴が響く中央区では、すでに火の手は隣のビルへと移っていた。そして、それはビルの中だけではなかった。
——中央区 大通り——
「フンっ!!」
巨大な獣が人を無惨に潰し、殺していく。
パニック状態の人々は車から出ては逃げ、歩行者は建物に逃げたり、走って逃げたり、突如現れた怪物から必死で逃げる。
しかし逃げた先には…
「え…おい、あれなんだよ」
そこに現れたのは、宙に浮かび、体中は赤く、炎を纏い、頭には2本の黒く長いツノ。
突如現れたその生物は後ろに手を振りかぶると、手から出る火を前へと放った。
ドッカーーーン
その凄まじい炎と爆風は渋滞していた車を次々と吹き飛ばし焼き尽くしていく。
「逃げろーー!」
「助けてー!」
さらに大パニックとなる中央区の大通り。
その様子をビルの屋上から眺める黒いマントを纏った者たちが3人いた。
「まーた、あれは何を"召喚"したんだ?」
大柄な男が聞くと、小柄で髪を生やした男が言う。
「"イフリート"だ。面白いだろ~?奴は悪魔の中でもわしのお気にじゃ」
その2人の間を割って入り、話し始めたのは、ゼトだった。
「僕たちの本当の目的は、人々を殺すことじゃない、"力"を探し、取り返すことだ。はたしてあの怪物に知能はあるのか」
「まあイフリートは深めに言うと、囮だ。おびき寄せるために好きに暴れさせる。」
大柄な男が前に出るといった。
「俺たちもそろそろ降りよう。時間はない。我らのフォースを取り戻そう。そして、"オノル・ムンドの逆襲"を果たすのだ」
——5話 完——
男は、なぜ俺の拳はこの小さなすぐ折れそうなランチ旗に軽く止められてるの?と思った顔をしている。
俺も驚いている。一体何が起きているのか。
「他のお客様に迷惑です。これ以上騒ぎを起こすなら…」
というと、凛は男の目をギラリと睨みつけて言った。
「出て行け」
二人の男は怖くなって覚えとけよ~と言いながら走って出て行った。
「あ、申し訳ありません皆さま!どうか!たのしんでお食事を~!」
他のお客は緊張が一気にとけたように顔が緩み、歓声が巻き起こった。
「え…おい諒、今のなんだよ」
「あぁ、あいつのフォースだよ。」
「なんのフォースよ。」
「凛のフォースは"強化"だ」
市宮凛。フォース"強化"手に触れた物体、二、三メートル以内にある離れた物体を強化することができる。しかしそれは、その物体の硬度や、物質濃度を高めるのではなく、フォース上に存在する物体のパラメータを最大限まで上げることが可能になる。
「強化、か。なんかいろんなフォース存在するんだな。」
「まぁそうだな。でも最近の研究じゃあ、人類でフォースを秘める超能力者は"一割"もいないって話らしい」
「へー」
知らないことばかりである。
———19:00頃———
俺たちは店締めをしていた。
「はぁ~、疲れたね~蓮」
「まあずっと気を緩めず頑張ってたもんな、凛」
「これが私のモットーなんですぅ」
「なんだそれ」
「どうだ?蓮、少しは慣れたか?」
「まあ、だいぶ」
「なら良かった」
超能力者なんて、普通の人と少し違うと思っていたが、こうして触れ合ってみると、全然仲良くなれる気がした。てかなれた。
片付けも、あっという間に終わり、帰る直前。
「じゃあ、宗さん、先失礼します。」
「あぁ、またね、気をつけて」
三人で帰るが、なぜか俺だけ歩く方向が違った。
「え、蓮何してんの?」
「え、なに」
「なにって…聞いてないの?この後会議があるって」
「はー?」
(聞いてないんですけど、何も。)
「なんか、シグナス以外にもライラ、アキュラの人も来て、結構大きな会議らしいから、Forsの本部に行かないといけないのよ。だから、蓮も行くよ。」
「え、まじかよ。」
実は明後日、愛の誕生日である。そのため帰りにプレゼントを買おうとしていたのに。
(明日にするか)
こうして、訳もわからずおれは二人について行くことにした。
—————————
駅から電車に乗り、たどりついた東京港区
たくさんの巨大なビルが立ち並ぶ街にドンと存在するビル。おそらく別の理由で建設されたこのビルをまさか人々は超能力者が結集された団体、Forsの本部とは思わないだろう。
「到着。ここがFors本部よ。さ、入ろ!」
中に入ると、いろいろな個性ある人たちがいた。
「お!蓮!」
シグナスのみんなも集まっていた。
「蓮絶対に来ないと思ったわ~」
(連れてこられたんだよ)
そんなシグナスが集まっている中に、一人フードを被った顔の見えない人がいた。
(あれ、誰だあの人、いたっけ?前)
すると俺に気づいたフードの人は背中を向けどこかへ歩いて行ってしまった。
「みんな~、揃ってる?そろそろ会議室の入場許可が出ると思うから、いくよ~」
「うぃーす」
俺は周りをよく見ながら歩いていた。
すると…
「ん?お前見ない顔だな。新入りか?」
「え、おれ?」
「お前名前は?どんなフォース使うんだ?」
話しかけてきたその男は、ゴツゴツとした上裸の男だった。
(な、なんだこいつ)
「藍沢蓮…。フォースは…その」
すると後ろから肩を組んできた諒が誤魔化すように言う。
「あー。こいつアホだから自分のフォースまだ分かってなくて~。まあまた後で俺から説明するよ、士道!」
諒が士道と呼ぶその男は、なんだ?というとつまらなさそうにどこかへ歩いて行った。
(あんな野獣みたいなやつもいんのかよ。Fors。こわっ…てか。)
「アホってなんだよ。アホって。まず俺はフォースなんか…」
「まあまあ、信じたくない気持ちもわかるよ。」
そういうと諒は少し真剣な顔をして前を見つめながら言った。
「でも、お前さ…見ただろ?目の前で…。確かに気持ちはわかる。ついさっきまで普通に生きてた自分が今ではこんな超能力者が集うとこにいて、信じられない気持ちはわかる。
でも…。もう今の時代は"自分の命は自分で守る"じゃねーんだ。」
すると諒は俺の目をしっかりと見て言った。
「"俺たちが命を守らなければならない"時代なんだよ」
俺はこの言葉の意味はまさに自分のことだと思った。目の当たりにした"あの光景"から、俺は愛を守ることが本当にできるのか。あの時感じた自分の情けなさを今でも強く覚えているからかもしれない。
俺はただ、"勇気"がないだけかもしれない。
おそらく、自分の心の底では、
"フォースの存在"も、
"自分の今の状況"も、
"今の時代の正義の形"も、
きっと信じているはずだと思う。
"フォースは目の前で見た"
"鉄骨の落下で、普通生きられるわけがない"
"自分の情けなさ"にも気づいている
ただ俺が"体現できるかどうか"の話だ。
俺はありがとうと言うと、少し胸を張った。
まず、自分自身が受け止めないといけない。
少しずつ…
そうこう考えているうちに、広い会議室に着いた。
三列に並べられた多くの机と椅子。
真由は右列の椅子に詰めて座って、と言うと一番前の席に行き、同時になぜか俺を手招きしている。
前に行くと真由は隣に座ってと言った。
(なんで俺が一番前の席に…)
「蓮、新人なんだから、ちゃーんと話を聞くのよ」
「は?なんで俺が」
「まあまあ、いいからいいから」
横を見るとすでに大勢の人々が座っていた。
(何人いんだよこれ。全員超能力者かよ)
前を見ると、一つ椅子と机が並べられている。
ガチャッ
すると…後ろの大きな扉が開いた。
コツ、コツ、コツ
中に入ってきたのは、長い金髪の女。白衣を着て、眼鏡をかけている。そして、その後ろに並ぶスーツを着た男たち。
その女は歩きながらスーツの男に問いかける。
「今日、"五天峰"の人達と、"千里"は?」
「はい、五天峰の方々は今日は出席しないと…。千里さんは旅行と申しておりました」
「まったく呑気な人たちね」
微笑しながら笑うその金髪の女を周りの人達は騒ぎ立てている。
「だれだ、あれ」
「外人?見たことねー顔だな。」
前にある椅子に腰をかける金髪の女は足を組むと手に持っていた紙をひらりとめくり少し眺めた後、目の前にあるマイクに口を近づけ言った。
「皆さん、初めまして。Forsの代表を務めさせてもらっております、"ルミリエル・ノア"
と申します。よろしくお願いします。」
時が一瞬止まったと思ったその瞬間、一気に周りが騒ぎ出す。
「あ、あれがあのノア代表?女性なの?」
「えーまじ。意外」
「やば、初めて見た」
俺は周りの反応を見ると真由に聞いた。
「なぁ、真由。もしかして、あの代表の正体って…みんな知らなかった感じ?」
「その通り、私もまさか今日、彼女本人が出席するとは思わなかったわ。話は聞いてたけど。」
「でも、なんで正体隠すんだよ。怪しくないか?」
「彼女は日本人じゃないからね。ケジメがつかない可能性があると思って、正体は隠していたらしいわ。それも女性だと余計緩むと思ったんじゃないかな。」
騒ぎ立てる人々をわざと咳払いをして注目をさせると彼女は口を開いた。
「時間が無いため、会議を始める。」
そう言って横をチラッと見ると、女の人がボタンを押す。
大画面で照らされるモニター。
画面には、立体的なCGで出来た東京の街が映し出された。
「ここ最近、さらに増えている無差別殺人事件。警察が解決できないその理由は、"証拠を掴めない"とのこと。犯人は自分の顔を見たものは必ず始末し、目撃情報を完全消去。
そして、爆発や火事の際には、火元さえも謎のまま、事件は解決へと導かれない」
ノア代表はそう言うと、机に手を置き、立ち上がった。
「しかし、最近起きた、新宿の超高層ビル爆発事件に、先日、唯一、現場を目撃した生存者が発見された。そしてその生存者はこう言った」
(超能力者はいます。"正義と悪"の…)
「つまり、世間はフォースの存在。そして超能力者には味方と敵が存在するということを認識したことになる。私たちはその"味方"の立場であると証明しなければならない」
するとモニターの画面が変わる。
「今回、会議を開いた理由は作戦を共有するため。シグナス、アキュラ、ライラ、それぞれの団体で確認は取れているだろうけど、一応もう一度。東京全土に均等の距離感覚を保ち、数人のチームを各地に配置。何か近くで事件が起きれば全体へ情報伝達。全チームで総攻撃を。しかし問題はここから…。」
「私たちは、人々を守らなければならない。しかし予想はついている、それは今の状況で避難を要求しても信じてはくれない。だからこそ、事件が起きたその瞬間の迅速な対応が重要になってくる」
「いつ起こるか分からないが、時間は明確。
"夜"よ。ここから毎日、奴らを仕留めるまで、日が落ち、昇るまでの間、各自待機してもらう。これ以上の被害を出さないために、どうか協力してほしい。」
すると、真ん中の席の一番前に座っていた男が口を開いた。
「おい…。」
眼鏡をかけ、ネクタイはしてないがスーツを着たヤクザのような服装をした男。
アキュラの司令長
虎帯元蔵(とらおび げんぞう)
「なにか?」
「お前まさか…"市民全員を救う気"でいるんじゃないだろうな。」
「多少の危険は伴うが、各地にチームを配置すればすぐに対応は取れると考えている」
「無理だ。何を考えている。お前は奴らの強さをまだわかっていない。過去にどれだけ殺された?過去にどれだけ失敗を重ねた?奴らの強さは未知数だ。全ての人を救うのは不可能だろ。」
睨み合う二人。すると左列の一番前の男が立ち上がると言った。
「まあまあ、元蔵さん。気持ちはわかりますよ。でも、僕たちも非力じゃない。これまで数々の事件を解決してきた。ここにいる戦士たちの可能性に賭けてみては?」
手を広げて話すその男。
ライラの司令長
大門寺 海(だいもんじ かい)
大門寺にそう言われると舌打ちをした虎帯は後ろへ退場していく。
「チーム割は今日中に各自司令長に連絡するわ。」
そう言うとルミリエル・ノアは颯爽と歩いて退場して行った。
少し異様な空気が漂う中、会議は終了した。
—————
「てことで、みんな、明日の夕方17時にシグナス本部に集合。各自配置についてもらうわ。おっけいだったら解散よ。」
「おつかれ~」
(さて、俺も帰るか、時間は20時半。店開いてるかも。)
「おい、蓮帰ろうぜ、一緒に」
こっそり帰ろうとしたら諒が話しかけてきた。
「え、おれ?(うわー、さすがに一人で帰りてー。)」
「あー、俺ちょっとトイレ」
「え、おい、なら先行ってるぞ」
「おう」
行きたくも無いが、少し歩いた先にあったトイレに向かった。
「元気にしてた?梨華」
「え…うん。愛菜は?」
「私は元気にしてたよ、久しぶりだね。」
「うん」
角を曲がろうとしたら、トイレの前で話す二人の女がいた。
(あれ、愛菜か。もう一人の女の子は…だれ?)
「梨華…まだ気にしてる?"あの事"…。」
下をうつむく茶色く長い髪をした梨華という女。
(何話してんだ…?てか、やばい普通に出そうになってきた)
おれは邪魔しないようにそっと横を通り過ぎることにした。
(そーーっと、邪魔にならないように~)
「ねぇ。聞いてる?」
少し大きめの声にビクッとなってしまった。
「え、あんた。いつのまに」
「え?あ、えっとー。トイレに行こうと思ってー…」
「今の聞いてたでしょ」
「え、いや聞いてないって…」
すると話を割るように梨華という女が言った。
「ごめん、私行くね」
「え、ちょっと梨華!」
梨華の後ろ姿を見つめる
「えっと、だれ?」
「うっさい」
そう言うと愛菜は彼女追いかけて走って行った。
俺は呆然とその光景を見ていた。
(な、なんだよ…)
——————-
「梨華!まってよ!」
追いついた愛菜は梨華を呼びかける。
梨華は後ろを振り向くと、うつむきボソッと言う。
「愛菜、だめだよ。私を許しちゃ…」
「梨華、あのね」
「ごめん。」
そう言うと、梨華は歩いて行ってしまった。
「愛菜…?」
「え、あ、真由」
「どうかしたの?」
横から現れた真由は、愛菜と何か話していた梨華の方をチラッと見つめると言った。
「あの子、アキュラの八舞梨華ちゃんだよね、知り合いだったの?」
「うん、まあ昔ね」
「ふーん、そっか。大丈夫?」
「え?あ。うん…真由はなんでまだ?」
「あ、私はノアさんにちょっと話があってまだ残ってたの。さっ、帰ろ?」
「うん」
少しうつむく顔をした愛菜を心配する真由は後ろにそっと手を添えた。
——————
先日発見された、超高層ビル爆発事件の目撃者の供述により、世間は超能力者の存在を初めて知ることになる。
(先週、新宿区、超高層ビルで起きた爆発事件および殺人事件の生存者が発見され、超能力者の存在が露わになったことで…)
(法務省はたびたび起きている殺人事件について…)
(ほんとにこわいですよね~。まさかほんとに実在するなんて)
(いやー見てみたいよ。その超能力者)
(悪はわかるけど、正義って一体だれなんだ?)
(ヒーローとかいんのかな~?)
世間は超能力者によって殺人事件が起きていたことを認識し、大パニックを起こしていた。ニュースでも全てのテレビ局がそのことについて報じていた。
———蓮の家———
「テレビ番組、全部ニュースか。大きくなってんな~。」
「私たちは目の前で見ちゃったもんね。まさかほんとにいるなんて思ってなかった。」
「なぁ、愛はさ…」
「うん」
「超能力者、"正義"の方は好き?」
「んー。好きって言われたらあれだけど、かっこいいと思う。必死で命をかけて守ってくれるあの姿。まず超能力者に太刀打ちできるのって、超能力者だけだしね。」
「そっか。」
(必死で命をかけて守る…か)
「蓮、今日夕方時間ある?」
「え、あ、えっと…」
「なんかある?いいよいいよ!」
「うん。ごめん。」
「ちょっと買い物付き合って欲しかったんだけど、一人で行くね。」
「いや…今日は夕方からは家からでちゃダメだ。」
「え、なんで?」
「そ、それは…。あ、俺が買ってくるから、
何買ってくればいい?」
「え、いいよ。用事あるんでしょ?」
「いやまあ、その…とにかく、俺が買ってくるから、愛は家の中にいて?」
「そっか。ううん、じゃあ明日の昼に買いに行くよ。」
「え、そーなの?いいの?」
「洗剤がなくて…明日でも大丈夫だよ」
「そ、そっか。でも明日は愛の誕生日だから。俺が行くよ。」
「え、ねぇ、どうしたの?」
少し不思議そうに笑いながら言う愛の目を俺は見れなかった。
「いや、別に。気にしないで」
そう言って少し無理して笑うと、俺はごちそうさまと言い、皿を片付けに行った。
(蓮、何か考え込んだ顔してる。)
「蓮、なにかあったの?言ってよ?」
「え、なに?何も無いって」
少し誤魔化すように笑ったが、言えるわけがない。俺が超能力者になってしまったことを。信じてないけど俺は。
——夕方——
シグナス本部
「さ。みんな揃った?これ見て!」
そう言うと真由は少し大きめの地図を出した。
「各自自分の配置場所を確認して!それぞれ待機できたら連絡お願い!私は司令室でみんなの指示をするから。よろしく!」
すると奥から篤がビニールに入った何かを俺に持ってきた。
「蓮君、これ、新しい服っす」
「これに着替えんの?」
「そーだよ蓮。その服は、超小型カメラを搭載した、火の耐性ばっちり、防弾ばっちり、動きやすさばっちり、のシグナス専用のスーツ!その小型カメラから私たちは各自の様子をモニターで観察し、指示をこのイヤホンから伝える。」
そうして片耳につける小型のイヤホンを渡された。
「これで蓮もバッチリ、シグナスの戦士ね」
(まじかよ…。)
すると後ろから、剛斗が肩を組んできた。
「蓮、お前は俺と同じ地区だ。よろしくな。」
「え、おう。よろしく、てかおれフォースとか使い方わかんないけど…」
そう言うと剛斗は少し笑って言った。
「あーぁ、大丈夫大丈夫。そんなの時期に使えるようになるんだよ。まずこの俺がいるから大丈夫だ。安心しろ」
「お、おぅ」
こうして俺は、不安ながら、各自配置につくことになった。
各配置の間隔は、東京全土に半径5キロの円を何個も重ならないような形で配置された。
しかし、ビルが密集している場所のみ。
2人1組で配置につく。
俺の相手は安斎剛斗。いつも筋トレばかりしているやつだ。フォースは知らない。
「おい、蓮、何ぼーっと考えてんだ。」
「え?あぁ、ちょっと」
「なになになにぃ、女か?女か?」
「ちっげーよ。」
「ん?この辺じゃねーか?俺たちの配置」
俺たちは東京都港区六本木の地区で待機となった。行き交う人々は、まさか俺たちがフォースを持つ超能力者とは思わず、真顔で素通りしていく。
——1時間後——
時間は19時
「はぁー、今日はさすがに来ないんじゃねーか?」
俺たちは行きしにコンビニで買ったパンを食べていた。
「まだ1時間しかたってねーよ。」
「まじか」
しかし、その時だった。
ピッピッピ
耳元のイヤホンが鳴った。
「はい、もしもし」
(蓮!剛斗!中央区よ!急いで!)
「なっ、出たのか。」
俺たちはパンを口に頬張ると、中央区に走った。
「おい、蓮!中央区って、沙耶と峻太んとこじゃねーか?」
「覚えてねーよそんなの!」
「くっ、とにかく急ぐぞ!」
——東京 中央区——
激しいサイレン、沢山の悲鳴が響く中央区では、すでに火の手は隣のビルへと移っていた。そして、それはビルの中だけではなかった。
——中央区 大通り——
「フンっ!!」
巨大な獣が人を無惨に潰し、殺していく。
パニック状態の人々は車から出ては逃げ、歩行者は建物に逃げたり、走って逃げたり、突如現れた怪物から必死で逃げる。
しかし逃げた先には…
「え…おい、あれなんだよ」
そこに現れたのは、宙に浮かび、体中は赤く、炎を纏い、頭には2本の黒く長いツノ。
突如現れたその生物は後ろに手を振りかぶると、手から出る火を前へと放った。
ドッカーーーン
その凄まじい炎と爆風は渋滞していた車を次々と吹き飛ばし焼き尽くしていく。
「逃げろーー!」
「助けてー!」
さらに大パニックとなる中央区の大通り。
その様子をビルの屋上から眺める黒いマントを纏った者たちが3人いた。
「まーた、あれは何を"召喚"したんだ?」
大柄な男が聞くと、小柄で髪を生やした男が言う。
「"イフリート"だ。面白いだろ~?奴は悪魔の中でもわしのお気にじゃ」
その2人の間を割って入り、話し始めたのは、ゼトだった。
「僕たちの本当の目的は、人々を殺すことじゃない、"力"を探し、取り返すことだ。はたしてあの怪物に知能はあるのか」
「まあイフリートは深めに言うと、囮だ。おびき寄せるために好きに暴れさせる。」
大柄な男が前に出るといった。
「俺たちもそろそろ降りよう。時間はない。我らのフォースを取り戻そう。そして、"オノル・ムンドの逆襲"を果たすのだ」
——5話 完——
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