サンライズ

Azuki

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第一章 サンライズ〜日の出〜

第二話 青美鳴

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~時は流れ2026年9月1日~

青く透き通る綺麗な海を大きなフェリーが白波を立てながら進む。

「輝(かがや)!」

フェリーの船首手前のベランダから、手を振り、大きな声でそう呼ぶ麦わら帽子を被る女性。

「母さん、はしゃぎすぎだろ」

少し呆れながら歩いてくる一人の少年。

「見て!あれが“青美鳴島”よ!」

そう言って指を指す少年の母。その先には大きな島が浮かぶ。

青美鳴島(あびなりとう)
中国地方と四国地方の間に存在する瀬戸内海の真ん中あたりに浮かぶ人口10万人ほどの大きな島。

この日、東京から兵庫まで飛行機で飛んできて神戸港から瀬戸内海にある青美鳴島までブルーオーシャンと書かれた客船に乗ってきた。

(本日は神戸ブルーオーシャンをご利用いただきありがとうございます。青美鳴行きフェリーブルーオーシャンはまもなく青美鳴北港に着岸いたします。長らくのご乗船お疲れ様でした。着岸いたしましたら、南ゲートより係員の指示に従い~)


船のアナウンスが客部屋まで届く。リュックサックに荷物をゴソゴソと詰めながら忘れ物はないか確認をする。

「忘れ物ない?大丈夫?」
「うん、大丈夫だってば」

せわしい様子で荷物を部屋の前の廊下に置いていく。母親を見ながら、俺は一枚のパンフレットをリュックから取り出してじっと見た。

『青美鳴高校 白波鳴り響く太陽の学校』

そう書かれたパンフレットを見ながら少し不安な気持ちとワクワクする気持ちでいると母が急かしてくる。

「ちょっともー着くわよ、はやくして!」
「わーってるってば」

わけあって東京からここへ引っ越してきた。陽立輝(ひだち かがや)とその母、
陽立綾子(ひだち あやこ)。父は単身赴任でアメリカに一人で住んでいるため、小さい頃から二人で過ごしてきた。

(この度は神戸ブルーオーシャンをご利用いただきありがとうございます。ただいま青美鳴北港に着岸いたしました。南ゲートより~)

船から港につながる長い階段を重い荷物を持ちながら降りていると、

「あやちゃーーん!!」

ガヤガヤと人が多い港の所から一人の女性が母の名前を呼ぶ。

「ちさちゃんー!」

そうして出迎えてくれたのは母の昔からの同級生の古川千里(ふるかわちさと)さんと、その横にいるのは、、、

「輝!久しぶりだな!」

「裕太くん!」

俺(輝)は中学時代吹神中のサッカー部だった。そこで2個上の裕太くんがよく仲良くしてくれていた。二人はこの青美鳴島で暮らしているのである。

「ほら輝!ちさちゃんにも挨拶しなさい!」

「あ、えっと、こんにちは!」

「大きくなったわねえ輝くん!」

「あ、いや全然!」

ニコニコしながら話していると向こうから
おーいと声がする。

裕太くんの父親だ。車を回してくれていたのだ。

「あ、じゃあとりあえず荷物部屋に置きに行こっか!こっちよ!おつかれ!」

「あ、荷物持ちますよ」

裕太くんが母の荷物を持つ。

「まあ、ありがとう」

3人は荷物を持って車の方に歩いて行く。
俺は少し立ち止まって目の前にうつる大きな島を眺めた。

深呼吸をする。

「ここが、新しい場所…」

「おい、輝、はやくいくぞ!」

「あ、うん!」

天気は雲ひとつない晴天。透明感のある綺麗な海。太陽の日差しが海に反射して眩しく光る。綺麗で透き通った空気。雰囲気も港だからか、ガヤガヤしており、人がたくさんいる。港の前にはこの青美鳴島唯一の街が広がっている。言ってみれば青美鳴の都会だ。

車のトランクに荷物を詰め込み、ドンっとドアを閉めると裕太くんの父親が話しかけてくる。

「しかし久しぶりだなぁ輝くん!大きくなったな!」

「はい!2、3年ぶり?ぐらいですね!」

裕太くんが話しかけてくる。

「サッカーはしてたのか?東京で」

「え、あぁ、うんしてた!」

「そっか」

ニコッと笑うと、じゃあ乗りなよと裕太くんの父が言うため俺と母さんは後部座席に乗り込む。

ありがとねーなどとお母さん達が会話をしている中、俺は窓の外を見ていた。ちょうど信号が赤に変わり車が止まる。ぼーっと眺めていたら、街中に小さなフットサルコートが見えた。中学生ぐらいの子達がサッカーをしている。

(街の中にフットサルコート。まるでアメリカのバスケットコートみたいだな。。)

そう思いながらもサッカーのことを考えたら少しワクワクしてきた。
車に揺られること数十分。街中より少し坂を登り山の方に近づいた先にある、アパートの前に車が止まる。

「輝、荷物下ろすわよ!」
「うん」

古川一家にも手伝ってもらって2階建てのアパート一番奥の部屋に荷物をみんなで運ぶ。

「冷蔵庫とか大きな荷物は明日またトラックで届くと思うから、今日のところはこれでおっけいかな!」

「ありがとね~ほんとにちさちゃん!」

「こっちに引っ越すだなんてびっくりしたけど、また何かあったらいつでも頼って!」

そういうと古川一家は手を振りながら車で帰って行った。

「さっ、輝、悪いけどこれ手伝って!」

段ボールに敷き詰められたたくさんの荷物を部屋に置いて行く。

ピンポンと音が鳴る。

母が出ると大家さんが部屋の説明をしにきていた。

俺は重い荷物を床に置き、額の汗を拭うと、窓の外を見た。少し高台のため、青美鳴の町中が見渡せた。窓に近寄りふと右に目をやると、持ってきたサッカーボールがあった。

よしっ

玄関で話す二人の足の間に手を伸ばして靴をスッと取ると、こっそりと窓から抜け出す。

ガララ

母親が気づく。

「ちょっと!輝!どこいくの!」

「ちょっと散歩!」

「えぇ!?まだ部屋片付けられてないんだけど!」

「すぐ帰るから!」

そう言って俺は片手でボールを持ちながら、片足でよろよろと靴を履き、走って外に駆け出した。

アスファルトに足音が強く響く。
坂を走って下ると、街並みが見える。空気が美味しい。

俺はワクワクしていた。

「ここが、青美鳴!!」


2話 完


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