食に恋せよ乙女たち

圍 杉菜ひ

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それは邪道かもね!

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 美食謳歌部の鈴木先輩は恋が叶ったことで何かが吹っ切れたのでしょうか、一週間前までは無言に近かったのに今はまるで別人のようになっていました。人が変われるというか自信をつけてくれることなどに私が少しでも力になれたと思うとそんなに気分は悪くない。だけど、自信をつけて今までと一味違う鈴木先輩によって私は現在ピンチを迎えています。

 登校早々に運動場で仁王立ちしている鈴木先輩を見た時には嫌な予感しかしなかったよ。案の定その嫌な予感は的中し、私と鈴木先輩とマラソン勝負することになってしまった。
 食は人を幸せにする部と美食謳歌部という互いに食べ物を美味しくいただくだけの部であるはずだというのに、部の存続をかけてマラソン勝負・・・・・・て、運動系の部活じゃないんだからこの勝負方法は絶対変じゃないですか?

「鈴木先輩、なぜマラソン勝負なんですか?」

「マラソンが好き」

 嘘でしょ? マラソンが好きという理由だけで部の存続をかけた対戦方法がマラソンになるなんて。本当にそれでいいんですか? それになんで私なの、米野さんでもよさそうなのに。

 鈴木先輩はウォーミングアップを済ませ臨戦態勢。何キロ走るのかも聞かされていないのに私に走れというのですね。遅刻決定というか授業全部サボるかもしれないんですね。

 容赦なく一方的に進められ、鈴木先輩のよーいどんの合図で走り出すことに。
 まだ多くの生徒が登校している中、私たちは外へ向かって走り出した。
 私は決して抜くことはせず鈴木先輩の後を黙って追い続けた。風の抵抗を受けないための戦略じゃないなんですよ。だってどこへ向かうのかも分からないから離されないように懸命に後を追って走るしかないんです。
 予鈴が鳴り響いく百小鉢高校から大きく離れ何キロ走るのか分からないまま走り続け、呼吸の苦しさや足の痛みに耐えて耐えていた時は悲しくて泣きそうでしたが、再び百小鉢高校を目にした時は感動でしかなかった。

 当然と言えば当然ですが、ずっと鈴木先輩の後を追い続けて頑張って走っていただけなので先にゴールすることはできませんでした。
 食とは関係ない事でまさかの一敗をしてしまったけど、私的には勝とうが負けようがもうどうでもよかったので特に気になることはなかった。

「墨名ちゃん、マラソンって気持ちいいでしょ。マラソンって最高でしょ」

 体育会系ではない私にとって運動することは拷問に近かったけど、走り終えた感じは疲れるけどそこまで悪いとは感じなかった気もしないでもない。だけどね、マラソンが好きなら陸上部に入った方がよかったんじゃないですかと言いたかったよ。

「マラソンを走り終わった後に食べる草加煎餅の美味しいこと美味しいこと、バリバリ」

 鈴木先輩はマラソン直後に草加煎餅をバリバリ食べ始めた。私にお煎餅くれたけど食べれませんでした。
 その後、遅刻はしたものの授業を全部サボるようなことはなく済みましたがボロボロの体で授業を受けるのはすごく大変だった。 

 放課後、とりあえず敗北したことを伝えるために食は人を幸せにする部へ足を引きずりながら向かった。

 それにしても食は人を幸せにする部ってネーミングセンスもさることながら、長いのでもっと簡単な名前に変更して欲しいものだね。まあ、随所では略しているけど。

 部室が近くなるにつれて食欲を誘う香りがダダ漏れ。廊下中に漂う香りだけでたこ焼きかお好み焼きであると脳内が自動理解した。
 何だかんだ言っても食べるの好きだから、変な事が起こらなければ幸せな部である事には変わりない。取りあえず入室。

「こんにちは~」

「今日も元気ね、墨名ちゃん」

「帆並ちゃん、今日は何?」

 工作台の上にはホットプレートが用意され、予想していた通りにお好み焼きが焼かれていました。

「今日はね、お好み焼きよ」

「百々良さんはまだ来てないけど、冷めてしまう前にお先に失礼していただきましょう」

「そうですね」

 ホットプレート上ではお好み焼きの上から垂れたソースが焦がされると同時に香りを放出し食べる者の胃を刺激してくる。小麦粉、豚肉、キャベツ、紅ショウガ、玉子、天かす、ネギの共演によって作り上げられたお好み焼き。青のり、かつお節、甘辛いお好み焼きソースがお口の中に幸せを運んでくれそうです。

 私はお好み焼きにはマヨネーズを結構多めにかけて食べる方なのですが、最初はマヨネーズをかけずにそのままを楽しむのが基本。その後マヨネーズをかけ、ソースと混ぜ合わせて幸せを味わいます。もうこれ最高なのです、美味さが引き立つわ~。

 幸せに瞳を潤ませながら、帆並ちゃんに視線を向けるとカップ焼きそばを作っていました。
 なぜこのタイミング。お好み焼きを目の前にカップ焼きそばを食べようとしているの?

「帆並ちゃん、カップ焼きそばも食べるの?」

「私ね、お好み焼きは広島風なのよ」

「広島風?」

「広島風のお好み焼きと言えば、麺が入っているのが定番なのよね」

 だからカップ焼きそばをお好み焼きに入れようと。

「やっぱ、お好み焼きには麺が入っていないと始まらないわよね」

 帆並ちゃんは笑顔でカップ焼きそばの上にお好み焼きといつの間にか用意されていたご飯を盛り、最後にパン粉を振って食べ始めました。炭水化物好きですね。
 

 二人で美味しくお好み焼きを食べていると、米野さんも合流。

「こんにちは、今日はお好み焼きですか」

 挨拶を早々に済ませるや否や嬉しそうに米野さんはお好み焼きを食べるモードへ。

「ごめんね米野さん、先に食べてて」

「墨名ちゃん気になさらず、どうぞ、どうぞ」

「あ、そう言えば私、マラソンで鈴木先輩に負けちゃった」

「そうなの? 気になさらず、どうぞ、どうぞ」

 ふんふん~と鼻歌を歌いながら米野さんはお好み焼きにハチミツをかけ始めました。
 そのハチミツをどこから? 米野さん、あなたハチミツを学校に持参しているの?
 ・・・・・・て言うか、お好み焼きにハチミツは有りなの?

 少しハチミツをかけるくらいなら味のアクセントとして考えてもいいけど、米野さんはお好み焼きがハチミツで浸るくらいかけています。
 ちょっと待って、味、お好み焼きの味、死んでるよね。それパンケーキじゃないよ。お好み焼きのハチミツ漬けになってしまってますけど・・・・・・。

 米野さんは私の視線に気づくとあなたもどうぞ的な表情でハチミツを差し出してきたけど、みたらし団子をクッキーで挟んで食べる時とは大違いで、今回は絶対に無理だよ。
 私のお好み焼きをハチミツプールで溺死させるわけにはいきませんので。

 美味しいのに残念って感じの表情を見せながら米野さんは手に持っていたハチミツを丁寧に鞄に仕舞ってからお好み焼きのハチミツ漬けを美味しそうに頬張っておられます。
 米野さん、あなたが美食謳歌部から追い出されのも仕方がなく感じた。
 食を愛する者として一言だけ言わせてね。あんた邪道だよ。
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