森永くんはダース伯爵家の令息として甘々に転生する

梅春

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【現代】二人の秘密

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「エレベーターとかエスカレーターとかつかないのかな」

 階段を上りながら、拓斗が愚痴る。

「そんなのつくわけないだろ。うち、県立だぞ」

 大翔が笑って言う。

「だって、最近、練習きつくて、足腰ががたがたなんだよ」
「年寄りか」

「ティーンエイジャーでーす」
「やかましいわ」

 二人が言い合っているなかで、柊人が拓斗の後ろの回り込む。

 そして、拓斗の腰のあたりを押しながら、

「ほら、頑張れ、頑張れ」

 とはげました。

「ありがと、柊人」
「柊人は拓斗に甘すぎ」

「いいじゃん。甘やかされたいんだよ、友達ぐらいには」
「なにが甘やかされたいんだよ、だ」

 大翔が鼻で笑う。

「もう、馬鹿にして」
「ほら、がんばれ、がんばれ。進んだ、進んだ。もうちょっとでゴールだぞ」

 柊人の補助を受けながら、拓斗が階段を上り詰める。

「はあ、ついたー。。。あ」
「なんだよ」

「箸、忘れた」
「はあ~、ここまで来てか?」

 大翔が大袈裟にため息をつく。

「二人、先に屋上で食べ始めてて。すぐに戻ってくるから」

 拓斗が弁当箱を柊人に預け、せっかく登ってきた階段を走り降りる。

「待ってるからゆっくりで大丈夫だよ」

 柊人の優しい声を聞きながら、拓斗は教室まで急いで戻った。

*************************

 そして、急いで屋上まで戻ってきた。

 屋上に出るドアの前の踊り場で、拓斗はぜえぜえと息を吐き、

「こんなに早く戻ってくるとは思わないだろ」
 と、箸を握りしめてほくそ笑んだ。

 息を整えて、二人を驚かせようと、そーっとドアを開ける。

 二人の姿は見えない。

 出口とは反対側の壁の前のベンチに座ってるのだろう。

 拓斗は忍び足で、屋上にせり出した出入り口のある建物の反対側へと進む。

 意外に大翔がこーゆードッキリに弱いんだよな。

 整った顔を更に硬くして驚く大翔の顔を思い浮かべ、拓斗は笑いながら進む。

「ちょっと、ダメだって」
「大丈夫だって、まだ、拓斗、戻ってこねーから」

 ん?
 何をコソコソ。僕の悪口か? 許せん。

 拓斗は絶対に驚かせてやろうと、さらに足元に力をいれ、音を立てないように気を付ける。

「ダメだって。誰が見てるかわかんないし」
「いいじゃん。チューぐらい」

「ダメだって」
「ケチだなあ・・・」

「・・・だから、ダメだって。あ」
「やったー。柊人にキスしてやったー」

「だからー、ダメだって」
「嫌なのか?」

「嫌じゃないけど」
「じゃあ、いいじゃん」

 小さいながらもご機嫌な大翔の声が漏れ聞こえてくる。

 えーっと、なに、このやりとり? こっちがドッキリにかけられてる?
 これ、大翔の柊人のやりとりだよね?

 チューとか、キスって・・・いったい何? なんでいきなりBLな世界なの? 二人って・・・二人でそんなことしてたの? 僕の知らないところで? 内緒で?

 裏切られたような苦い思いが胃のあたりにせり上がってくるのを感じて、昼飯をまだ食べてないことに気づく。

 あ、そういえば、箸をとりにもどったんだ、どっきりじゃなくて。

 本来の主旨を思い出し、拓斗は呆然とする。

”待ってるからゆっくりで大丈夫だよ”

 さっきの柊人の声が蘇る。あれは二人の時間を確保するため?

 いや、そんなはずはない。柊人がそんなことを言うはずない。

 僕を仲間外れにするような、そんなこと、あの二人がするはずないのだ。

 でも、二人には秘密がある。あったのだ。

 それは裏切りじゃないのか。

 いや、もし二人が恋してるなら、それは仕方ないことだし、もともと仲が良かったのは二人だし、僕はそれに入れてもらっただけだし、友達としてはこれ以上ないほど優しく守ってもらってるし、信頼もしてるし、関係は強固だ。

 それは疑いようもない。

 疑ってはいけないのだ。

 お門違いなジェラシーで二人を失ってもいいのか?

 絶対に嫌だ!

 二人の関係をうまく受け入れられるかはわからないが、二人との友情だけは壊してはならない。

 とりあえず、ここは何も気づかなったふりをして、笑って戻るのだ。

「ただいま~」

 大きな声をあげて、建物の陰から姿を現わすと、二人がさっと身を離すのがしっかりと見えた。

 やっぱり間違いじゃない。

 二人は・・・そうなんだ。いつの間に・・・

「遅いぞ、拓斗」
「待ってたよ、拓斗」

 二人はこっちを見て笑っている。

 裏切りじゃない。裏切りじゃ、決して。

 でも、二人が惹かれ合うことはある。それは悪いことじゃない。仲間外れじゃない。

 思っていると涙がこぼれそうになる。

 それに気づいた柊人が慌てて、

「ど、どした? 拓斗。教室で何かあった?」
「まさか麻美か。あいつら!」

 大翔が立ち上がる。

「違う! 違う、違う! 泣いてない。目にゴミが。なんか屋上出た途端に何か入って、痛くて」
「大丈夫?」
「大丈夫か!」

 二人が心配して、拓斗の目を覗き込む。

 拓斗の瞳は、深刻な柊人と大翔の顔で一杯になる。

 心底心配そうな二人の顔を見て、裏切りなんて単語を思い浮かべた自分が情けなくなり、さらに涙が溢れてくる。

「柊人、目薬持ってないか!?」
「ないよ、いきなり!」

 慌てた二人が激しく言い合う。

 子供の怪我に慌てる若夫婦のようだ。

「ほんとに、大丈夫だから。ちょっとしたら治まるから。平気、平気」

 拓斗は二人に向かって笑った。

 やっぱり二人は大事な友達だ。このうえなく。

 もし、二人が拓斗には言えないようなことを陰でしているとしても。

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