トロンボーン吹きの夏物語

樫和 蓮

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物語へのいざない

出会い

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 あなたなら、突然幻聴が聞こえたらどうしますか?
いや、違う。
突然話しかけられたんだけど、それが周りの人から見えない物だったらどうしますか?
ううん……。違うなあ……。
周りの人に聞こえなくて、見えない物に、突然名前を呼ばれたらどうしますか?
……まあこんな感じかな。

えっと……。それは突然だった。
場所は下校途中のバスの中。
「土田さ~ん!土田夏さ~ん!」
あ、わたしの名前。土田夏っていうの。
で、わたしは名前呼ばれたら返事しちゃう癖があって(癖って言わないかもだけど……)、
「はい!」
って大きな声で返事しちゃった。

「左!左ですよ!こっち!」
って声がまた聞こえて、左側の窓の外を見たら、木の葉っぱの裏に豆つぶみたいな変な物体がわたしに手を振っていた。
そもそも振っているものが手かどうかもわからないから、手のようなもの、と言ったほうが正しいのかもしれない。

「あなたは選ばれた人間です。
明日の朝10時に龍の谷に来てください。」
「はあ!?」
いきなり言われたし、意味わかんないし、わたしは思わず叫んでいた。
あ、えっと……そのときバス止まってたんだけど、
わたしが「はあ!?」って言ってる間にバスが動き出しちゃったから、豆つぶとはひとまずバイバイ。

でも、気まずかったのがそのあと。
わたし、周りの人に変な目で見られてたのね。
わたしは豆つぶの声がみんなにも聞こえてると思ってたんだけど、ちっちゃい男の子が
「あのお姉ちゃん、1人で何言ってたんだろうねえママ?」
なんて沈黙の中言ってたから、やあっとわたしはこの状況が理解できた。
もう恥ずかしかったよ、さすがに。
降りるはずのバス停の2つ手前で降りちゃったもん。
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