トロンボーン吹きの夏物語

樫和 蓮

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物語へのいざない

未知との遭遇

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場所はわかった。
準備も完璧だ。
今は9時30分。
そろそろ出発したら間に合うはずだ。

「いってきまーす!」
こういうのは元気が大事だからね。
わたしは元気よく家を出発した。

千草山に行くのは久しぶりだ。
小学生の頃は、毎年学校の行事で登っていたし、そうでなくともよく遊んでいた場所である。
中学生になってからは一度も行ったことがないけれど。
でも、その先の千草谷にはそうそう行くことはない。
山を越えた先は、登山道も険しくなるし、子どもには危ない場所。子どもだけでは行っちゃいけないって言われてた。
その言いつけを破るみたいで、ちょっとの後ろめたさとちょっとのわくわくがわたしの歩く速度を速める。

でもわたしはもう子どもじゃない。
言いつけを破ってるわけじゃない。
そんな言い訳をしながら歩いてるのは、やっぱりまだ子どもだからなのかもしれない。

そんなことを考えながら歩いていると、千草山の頂上にたどり着いた。

「わあ!」
思わず声を出してしまうほどの景色。
振り返れば街並みが、進む先には緑が、一面に広がっている。
わたしは深く息を吸い込んだ。
よし。もう一度気合いを入れ直す。
今から出会う何かに胸が高鳴る。

「わ!来てくれたんですね!」
「夏さんいらっしゃい!」
わたしが景色に見とれていると、また昨日みたいにどこからともなく声が聞こえてきた。
わたしはキョロキョロと辺りを見回す。

「こっちですこっち!」
「右を見て!」
「ほらほら!」
声を頼りに右側を探すと……
「いた!豆つぶ!!」
昨日バスから見たのと同じような豆つぶが、今日は2つ、木の枝から覗いていた。

「ちょっとちょっと失礼な!」
「我々は豆でないぞ!」
「ちゃんと名前があるんだぞ!」
「そうだそうだ!」
なんだかうるさい豆つぶだなあ……。
ん、ちょっと待って?なんか分割して喋ってる?
えっ2粒もいた?

わたしが困惑して黙っていると、諦めたように豆つぶが自己紹介を始めた。
「ちょっと夏さん、ちゃんと聞いてくださいよ」
「くださいよ」
「我の名前はシロ」
「我の名前はクロ」
「我は白いからシロで」
「我は黒いから黒いだぞ」
「覚えていただけましたかな」
「ましたかな」

「わかった!覚えた!クロとシロね!」
わたしが圧倒されながら答えると、クロとシロは満足そうにしている。
まああんまり表情は見えないんだけど。

「わたしが選ばれた人間だとかなんとか、とりあえず説明してくれない?」
ひとまず疑問は解消しておきたい。
「ううーん」
「説明するのは難しいんですよ」
「ざっくり言うと」
「龍の谷にはリュウがいます」
そこでクロシロは胸を張った(ように見えた)。

……はい?
説明になってないんですけど!
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